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「どうカスタマイズしようかな・・・。」


カフェに着いた私は、メニューの看板を見ながら悩んでいた。

担当さんにもらったチケットの金額は700円分のチケットで、有料のトッピングをお願いしたらオーバーしてしまう可能性があるのだ。


「ホットチョコレートにするから、ホイップを追加してもらって・・・ミルクはどうしようかな。チョコチップ入れてもらったらオーバーするから、それは諦めて・・・」


ぶつぶつ言いながら悩んでると、背中側から聞きなれた声が聞こえてきた。


「・・・何悩んでるの?野崎さん?」

「!!・・・園田さん!」

「こんにちは。」


声に反応して振り返ると、そこにいつもこのカフェで会う『園田さん』が立っていたのだ。

このカフェの常連になりかけてる時に『相席』で知り合った彼は、唯一の友達だ。


「お仕事の休憩ですか?」


今は平日のお昼。

お昼休憩の可能性が高かった。


「そ。野崎さんも?」

「あー・・・そんな感じです。甘いのが飲みたくなったんで来ちゃいました。」


私はカスタマイズを決め、レジに向かった。

『甘いのが飲みたくなった』と言った手前、カスタマイズを甘いものにしていく。


「いらっしゃいませ、ご注文どうぞ。」

「ホットチョコレートにホイップを追加してください。」

「かしこまりました。お会計690円になります。」

「チケットでお願いします。」


下げていた小さなバッグからチケットを取り出し、店員さんに手渡した。


「チケットのご利用、ありがとうございます。少々お待ちくださいませ。」


店員さんが流れるような作業で作っていくのを見てるうちに園田さんも注文を済ませたようで、私のすぐ隣に立っていた。


「野崎さんっていつもチケット使うよね、買ってるの?」


同じように店員さんの作業を見ながら、園田さんは聞いて来た。


「買ってる・・わけではないんですけど・・・」

「誰かからのプレゼント?」

「そう・・ですね。」


担当さんにチケットをもらってることから、プレゼントと言っても間違いではない。

『お金を持ってない』ということを知られたくなくて、園田さんに違う話題を振ってみる。


「そういえば園田さんってどんなお仕事されてるんですか?いつもいろんな時間にここで会いますけど・・・」


私がこのカフェに来る時間は、いつもバラバラ。

朝早い時もあれば夕方に来るときもあるのに、相席してから毎回会うのだ。


「比較的・・自由な仕事?かな?」

「?・・・自営業的な感じですか?」

「あー・・・そんな?感じ?」

「?」


言葉を濁すようにして、園田さんはハッキリとは言わなかった。

きっと説明が難しい仕事内容なのだろう。


「ところで・・今日も可愛い服着てるね。野崎さんは服が好きって言ってたのよくわかるよ。髪型も帽子も似合ってる。」


『在宅で仕事をしてる』としか伝えてない私は、『服が好き』と言ったことを思い出した。

自分のデザインした服を『可愛い』と言ってもらえ、自然と頬が緩んでいく。


「・・・へへっ。ありがとうございます。」


お礼を言ったところでちょうど出来上がった私のホットチョコレート。

店員さんから受け取り、カウンター席に向かった。

通りに面したガラス張りのカウンター席は、この服を宣伝するのにちょうどいい場所だ。

通りを歩く人たちの目に留まれば、きっと探してくれると思うから・・・。


(まぁ、これを探してくれるとは限らないけど、一人でも買ってくれたら嬉しいし!)


そんなことを思いながらコートを脱ぎ、椅子に座ってホットチョコレートを一口飲む。

温かくて甘いチョコレートが体全体に染み渡るような気がして、私は思わず息を漏らした。


「ふぅ・・・」


手を温めるようにしてカップを握ると、私の隣に園田さんも座りだした。

カフェで会ったときは、二人で喋るのが常だ。


「・・・野崎さん、ちょっと痩せた?」


私を覗き込むようにして唐突に聞いて来た園田さん。

びっくりして私は彼をじっと見てしまった。


「どうしてわかるんですか・・・!?」

「やっぱり?いつも小さいと思ってたけど・・・なんか更に小さくなったように見えて・・・何かあった?」

「あ・・・」


カフェでしか会わないのに見透かされてるような気がして、私は言葉に詰まった。

健太のことを話したところで何か変わるわけでもないし、私の愚痴を聞かせてせっかくの休み時間を潰させるのも申し訳なく思ったのだ。


「風邪気味だから・・・ですかね?調子悪い時は寝てる時も多いですから・・・」


そう答えると、園田さんは自分のカップに口をつけた。


「そう?まぁ、寒い日が多いし、悪化させないようにね?」

「ありがとうございます。園田さんも体調に気を付けてくださいね?」

「ははっ、ありがとう。」


身なりがきちっとしてる園田さんは、健太とは真逆な感じだ。

お洒落なスーツを着ていて、腕にはシルバーの腕時計。

つけてるネクタイはいつも結び方が違う。


(今日は薄手の生地だからダブルノット。この前はプレーンノットだったなぁ・・・。)


いろんな結び方を知ってる人はお洒落さんだ。

赤いネクタイや青いネクタイ、時には柄物のネクタイまで似合ってしまう園田さんは清潔感溢れてる。

カフェでブラックコーヒーを飲む姿もとても似合っていて、見惚れてる人もいるくらいだ。


「園田さんって・・彼女さんとかいらっしゃるんですか?」


これだけかっこいい人だったら、彼女はひっきりなしに存在してそうな気がした私は、思わず聞いてしまった。

『失礼だったかも』と思うけど、出してしまった言葉はもう戻せない。


「いないよ?」

「あー、そうですよね。やっぱりいる・・・・って、えぇ!?いない!?」

「うん。いない。」


私は彼を頭のてっぺんからつま先まで見た。

少しだけ癖のある茶色の髪の毛に、整った顔立ち。

くっきりした二重は羨ましいくらいで、その高い身長からまるでモデルのようにも見える。

なのに彼女さんがいないなんて・・・・信じられなかった。


「あ、奥さまがいらっしゃる・・・?」

「まさか。独身だよ。」

「そうなんですか!?」


驚く私に驚いたのか、彼は少し困ったような顔を見せていた。


「え・・意外?」

「意外・・・ですね。園田さん、すごくかっこいいので・・・。あ、お仕事がお忙しいとか?」

「うーん・・まぁそれもあるけど・・・実は気になってる人がいてさ。」

「そうなんですか!?」

「実らない可能性の方が高そうだけどね。」


困ったような顔は悲し気な顔に変わっていく。


「私は・・園田さんは素敵な人だと思うので・・・その人にも園田さんのこと、ちゃんとわかってもらえたらいいですね。」


よくは知らないけどいい人・・だとは思っていた。

話し方は穏やかだし、見た目もいい。

ちゃんと仕事もしていて、社交性もある。

こんな人に想われるなんて、すごく贅沢なことだ。


「・・・羨ましいですね、その女性。」


思った言葉が口をついて出てしまい、私は思わず自分の口を手で押さえた。


「あ・・・!すみません・・」

「いや、大丈夫。・・・それより『羨ましい』って・・・野崎さん、彼氏いるでしょ?」


そう聞かれ、私は思わず苦笑してしまった。


「あー・・・そう・・ですね。います・・ね。」


園田さんに聞かれて思い出したのはあのメッセージだ。

作ったお弁当を『ゴミ』だと言われたことを思い出し、思わず俯いてしまう。


「何かあった?」







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