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そんな話をしながらも、サクは車を走らせてホテルに到着した。
一旦ここで別れることになることから、エントランスに入ったところでサクに手を振る。
「終わったらケータイ鳴らしてくれる?それまでどこかぶらついてるからー。」
「ほんとごめんな。終わり次第、すぐに鳴らすから。」
サクは申し訳なさそうに両手を合わせ、私に謝りながら走っていった。
残された私は、どうやって時間を潰すか思案に暮れる。
「何かイベントでもしてくれてたら助かるんだけど…。」
そう思い、私はホテルの受付に向かうことにした。
「すみません、少し時間を潰したいのですが…どこかいいところありませんか?」
私の問いに、ホテルのスタッフさんは分厚いファイルを取り出して、ぺらぺらとめくり始めた。
「喫茶店でしたら当ホテルにいくつかございまして、あとは…そうですね、屋内プールが最上階にございます。」
「喫茶店かプールか…ですか…。」
どちらもさほど時間を潰せそうにない。
(うーん…どちらかというと喫茶店…いや、プールのほうが時間潰せる?)
究極の二択に困っていると、ホテルのスタッフさんが1枚のフライヤーを差し出してきた。
「あ、料理教室がございますね。」
「料理教室ですか?」
「はい。あと10分ほどで始まるのですが…。」
「10分!?」
なんでも、この料理教室はホテルのシェフから教わるのではなく、一般の人が会場を貸し切っての催し物らしい。
そのためか当日申し込みも可能のようで、スタッフさんが進めてくれたのだ。
「わ‥私、料理が苦手なんですけど…。」
「大丈夫ですよ、今日はオムライスだそうです。」
「オムライス…。」
「初心者の方たちばかりですし、所要時間も2時間ほどです。時間潰しにちょうどいいかと思います。」
「確かに…。」
ただぼーっと待ってるだけだったら何かしてる方が楽しいと思った私は、この料理教室に申し込みすることに決めた。
「あの、エプロンとか持ってないのですが…。」
「いくつか予備をご用意されてると伺っておりますので、大丈夫だと思います。」
「じゃあ、手ぶらでも…?」
「はい、大丈夫です。」
「!!…お願いします!」
「かしこまりました。」
すぐに手続きをしてもらい、私はその会場に向かうことに。
会場となる部屋にはたくさんのコンロがあり、まるで家庭科室のようだった。
「先生、急遽申し込みがありましたので、よろしくお願いいたします。」
こうして私は料理教室に参加することになったのだった。
ーーーーー
ゆりが料理教室に参加しているころ、桜介はホテルの14階に足を踏み入れていた。
ここは応接室などがある階で、打ち合わせなんかによく利用されている階だ。
「面倒くさいな、本当に…。」
秘書からもらった電話の内容では、おそらく『神田川 麗華』のこと。
この前のパーティーでユリアにワインをぶっかけたのはおそらく彼女だ。
俺と縁談を進める気で、うちに入りびたりに来てることからたぶん…
「親を連れての脅し…ってところか。」
親の会社を使って縁談を進める気だろうけど、そうはいかない。
こっちにだって選ぶ権利はあるし、そもそも神田川の会社はうちにとって利益にはならないのだ。
そもそも俺自身、利益なんかよりも一生一緒にいたい相手と結婚したいと思ってる。
「どうやったら穏便に切れるんだろうか。」
そんなことを考えながら、俺は秘書と合流した。
「林田、向こうはなんて言ってる?」
秘書の林田は俺を待っていたようで、応接室である一つの部屋の前で待っていた。
「あ!社長!」
林田は俺の腕をつかみ、扉から少し離れたところに連れて行った。
「神田川の娘さんと、そのお父様…パソコンメーカーの社長が一緒におられて、何が何でも結婚する気ですよ!どうするんですかぁぁ…。」
「それはこっちのセリフなんだがな…。とりあえず近くにいてくれるか?変に言質取られても嫌だから。」
「わかりました!」
俺は林田の案内で神田川親子が待つ応接室に足を踏みいれた。
「失礼いたします。お待たせして申し訳ありません。」
部屋の中ではテーブルの向こう側に並んで座っていた。
俺と縁談を進めたがってるわりに、上座に座ってるところがなんともいえない。
「おぉ!月島さん!突然ですみませんな!」
「いえ、大丈夫ですよ。ところで今日はどういったご用件で?」
「いや、そろそろ話を進めさせていただきたく思いましてね!」
そう言って隣に座っている娘の肩を、勢いよく叩いていた。
ビクともしないのは、その恰幅の良さからかもしれない。
(ユリアだったら骨が折れてそうだな…。)
そんなことを思っていると、娘の麗華が俺を上目遣いで見てきた。
寒気が走ったことは内緒にしておこう。
「桜介さん、私のこと、お嫌いですかぁ…?」
「…。」
そういう麗華に、俺は作り笑顔を向ける。
「麗華さんは、私にはもったいないお方ですよ。」
やんわり断るような言い方をしてみる。
でもそれはあまり効果はなかったようで…
「いやいやいや!麗華と月島さんが結婚すれば、うちも御社も安泰でしょう!」
そう言われてしまったのだ。
(うちは安泰じゃないんだが…。)
神田川のパソコンが無くても何の支障もないことから、俺はハッキリと断ることにした。
この先、こうやって言われると面倒だと思ったのだ。
「申し訳ありませんが、私には恋人がいますので。」
そう伝えると社長は俺を引き目で見て、娘の麗華は顔を赤くした。
「それは…うちの会社との提携を切るということで?」
「提携なんて契約、結んでいないじゃないですか。御社がうちのサービスを利用していることは知っていますが、それはうちには関係ありませんよ?」
「なっ…!お前のとこを切ってやってもいいんだぞ!?いいのか!?」
途端に怒り出した社長に、俺はため息を漏らしながら立ち上がった。
「どうぞ、ご自由に。」
そう言って扉から出たのだ。
すると、部屋の中から社長の大きな声が聞こえてきた。
「後悔しても遅いからな!!お前の会社とは金輪際付き合わないからな!!」
そう吐き捨てるものの、後悔するのはどちらかというと向こうだろう。
パソコンにセキュリティは絶対に必要なものなのだから。
「月島社長!本当によかったんですか?」
追いかけるようにして走ってきた林田がそう聞いてきた。
「いいんだよ。それより俺は戻るから後を頼む。神田川から利用停止の連絡が来ると思うから対処してくれ。」
「わかりました!」
「ごねるようなら、差額請求はしなくていいから。」
「はいっ!」
俺は林田に任せ、ユリアのもとに向かったのだった。
ーーーーー
そのころ、桜介が応接室を出て行った部屋に残された麗華が、泣きながら父親に頼み込んでいた。
その内容は、もちろん桜介との結婚話だ。
「パパぁ…麗華、桜介さんじゃなきゃいやよぉ…。」
「そうは言っても恋人がいると言ってたじゃないか。うちとの契約も切って構わないと言っていたし…。」
「だけどぉ…。」
父親のほうは捨て台詞を吐いたものの、桜介が神田川の会社に微塵も興味をもっていなかったことに若干ショックを受けていた。
でも、娘のほうは…
「あ、いいこと思いついちゃった!」
「いいこと?」
「あのね?パパ、麗華思うんだけど…桜介さんの恋人が麗華より下だったらいいのよ!そうしたら麗華のほうが魅力的じゃぁない?」
「おぉ!たしかに!」
「麗華の魅力はかわいいところとぉ、あとはパパの会社ね!どこを探してもパパ以上の会社なんてないと思うしぃ?」
「そ…そうだよな!うちのパソコンと連携したら、月島の会社も大きくなること間違いなしだ!あれは虚勢を張っただけのことだったんだろう!」
「うんうんっ。じゃあ、桜介さんの恋人って人を調べて、私たちのほうが上なことを教えてあげましょっ。」
諦めきれない二人は、ゆりのことを調べ上げる準備を整えていったのだった。
一旦ここで別れることになることから、エントランスに入ったところでサクに手を振る。
「終わったらケータイ鳴らしてくれる?それまでどこかぶらついてるからー。」
「ほんとごめんな。終わり次第、すぐに鳴らすから。」
サクは申し訳なさそうに両手を合わせ、私に謝りながら走っていった。
残された私は、どうやって時間を潰すか思案に暮れる。
「何かイベントでもしてくれてたら助かるんだけど…。」
そう思い、私はホテルの受付に向かうことにした。
「すみません、少し時間を潰したいのですが…どこかいいところありませんか?」
私の問いに、ホテルのスタッフさんは分厚いファイルを取り出して、ぺらぺらとめくり始めた。
「喫茶店でしたら当ホテルにいくつかございまして、あとは…そうですね、屋内プールが最上階にございます。」
「喫茶店かプールか…ですか…。」
どちらもさほど時間を潰せそうにない。
(うーん…どちらかというと喫茶店…いや、プールのほうが時間潰せる?)
究極の二択に困っていると、ホテルのスタッフさんが1枚のフライヤーを差し出してきた。
「あ、料理教室がございますね。」
「料理教室ですか?」
「はい。あと10分ほどで始まるのですが…。」
「10分!?」
なんでも、この料理教室はホテルのシェフから教わるのではなく、一般の人が会場を貸し切っての催し物らしい。
そのためか当日申し込みも可能のようで、スタッフさんが進めてくれたのだ。
「わ‥私、料理が苦手なんですけど…。」
「大丈夫ですよ、今日はオムライスだそうです。」
「オムライス…。」
「初心者の方たちばかりですし、所要時間も2時間ほどです。時間潰しにちょうどいいかと思います。」
「確かに…。」
ただぼーっと待ってるだけだったら何かしてる方が楽しいと思った私は、この料理教室に申し込みすることに決めた。
「あの、エプロンとか持ってないのですが…。」
「いくつか予備をご用意されてると伺っておりますので、大丈夫だと思います。」
「じゃあ、手ぶらでも…?」
「はい、大丈夫です。」
「!!…お願いします!」
「かしこまりました。」
すぐに手続きをしてもらい、私はその会場に向かうことに。
会場となる部屋にはたくさんのコンロがあり、まるで家庭科室のようだった。
「先生、急遽申し込みがありましたので、よろしくお願いいたします。」
こうして私は料理教室に参加することになったのだった。
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ゆりが料理教室に参加しているころ、桜介はホテルの14階に足を踏み入れていた。
ここは応接室などがある階で、打ち合わせなんかによく利用されている階だ。
「面倒くさいな、本当に…。」
秘書からもらった電話の内容では、おそらく『神田川 麗華』のこと。
この前のパーティーでユリアにワインをぶっかけたのはおそらく彼女だ。
俺と縁談を進める気で、うちに入りびたりに来てることからたぶん…
「親を連れての脅し…ってところか。」
親の会社を使って縁談を進める気だろうけど、そうはいかない。
こっちにだって選ぶ権利はあるし、そもそも神田川の会社はうちにとって利益にはならないのだ。
そもそも俺自身、利益なんかよりも一生一緒にいたい相手と結婚したいと思ってる。
「どうやったら穏便に切れるんだろうか。」
そんなことを考えながら、俺は秘書と合流した。
「林田、向こうはなんて言ってる?」
秘書の林田は俺を待っていたようで、応接室である一つの部屋の前で待っていた。
「あ!社長!」
林田は俺の腕をつかみ、扉から少し離れたところに連れて行った。
「神田川の娘さんと、そのお父様…パソコンメーカーの社長が一緒におられて、何が何でも結婚する気ですよ!どうするんですかぁぁ…。」
「それはこっちのセリフなんだがな…。とりあえず近くにいてくれるか?変に言質取られても嫌だから。」
「わかりました!」
俺は林田の案内で神田川親子が待つ応接室に足を踏みいれた。
「失礼いたします。お待たせして申し訳ありません。」
部屋の中ではテーブルの向こう側に並んで座っていた。
俺と縁談を進めたがってるわりに、上座に座ってるところがなんともいえない。
「おぉ!月島さん!突然ですみませんな!」
「いえ、大丈夫ですよ。ところで今日はどういったご用件で?」
「いや、そろそろ話を進めさせていただきたく思いましてね!」
そう言って隣に座っている娘の肩を、勢いよく叩いていた。
ビクともしないのは、その恰幅の良さからかもしれない。
(ユリアだったら骨が折れてそうだな…。)
そんなことを思っていると、娘の麗華が俺を上目遣いで見てきた。
寒気が走ったことは内緒にしておこう。
「桜介さん、私のこと、お嫌いですかぁ…?」
「…。」
そういう麗華に、俺は作り笑顔を向ける。
「麗華さんは、私にはもったいないお方ですよ。」
やんわり断るような言い方をしてみる。
でもそれはあまり効果はなかったようで…
「いやいやいや!麗華と月島さんが結婚すれば、うちも御社も安泰でしょう!」
そう言われてしまったのだ。
(うちは安泰じゃないんだが…。)
神田川のパソコンが無くても何の支障もないことから、俺はハッキリと断ることにした。
この先、こうやって言われると面倒だと思ったのだ。
「申し訳ありませんが、私には恋人がいますので。」
そう伝えると社長は俺を引き目で見て、娘の麗華は顔を赤くした。
「それは…うちの会社との提携を切るということで?」
「提携なんて契約、結んでいないじゃないですか。御社がうちのサービスを利用していることは知っていますが、それはうちには関係ありませんよ?」
「なっ…!お前のとこを切ってやってもいいんだぞ!?いいのか!?」
途端に怒り出した社長に、俺はため息を漏らしながら立ち上がった。
「どうぞ、ご自由に。」
そう言って扉から出たのだ。
すると、部屋の中から社長の大きな声が聞こえてきた。
「後悔しても遅いからな!!お前の会社とは金輪際付き合わないからな!!」
そう吐き捨てるものの、後悔するのはどちらかというと向こうだろう。
パソコンにセキュリティは絶対に必要なものなのだから。
「月島社長!本当によかったんですか?」
追いかけるようにして走ってきた林田がそう聞いてきた。
「いいんだよ。それより俺は戻るから後を頼む。神田川から利用停止の連絡が来ると思うから対処してくれ。」
「わかりました!」
「ごねるようなら、差額請求はしなくていいから。」
「はいっ!」
俺は林田に任せ、ユリアのもとに向かったのだった。
ーーーーー
そのころ、桜介が応接室を出て行った部屋に残された麗華が、泣きながら父親に頼み込んでいた。
その内容は、もちろん桜介との結婚話だ。
「パパぁ…麗華、桜介さんじゃなきゃいやよぉ…。」
「そうは言っても恋人がいると言ってたじゃないか。うちとの契約も切って構わないと言っていたし…。」
「だけどぉ…。」
父親のほうは捨て台詞を吐いたものの、桜介が神田川の会社に微塵も興味をもっていなかったことに若干ショックを受けていた。
でも、娘のほうは…
「あ、いいこと思いついちゃった!」
「いいこと?」
「あのね?パパ、麗華思うんだけど…桜介さんの恋人が麗華より下だったらいいのよ!そうしたら麗華のほうが魅力的じゃぁない?」
「おぉ!たしかに!」
「麗華の魅力はかわいいところとぉ、あとはパパの会社ね!どこを探してもパパ以上の会社なんてないと思うしぃ?」
「そ…そうだよな!うちのパソコンと連携したら、月島の会社も大きくなること間違いなしだ!あれは虚勢を張っただけのことだったんだろう!」
「うんうんっ。じゃあ、桜介さんの恋人って人を調べて、私たちのほうが上なことを教えてあげましょっ。」
諦めきれない二人は、ゆりのことを調べ上げる準備を整えていったのだった。
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