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不穏な影3。
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ーーーーー
凜華が工場から出て行った直後に勝手口の扉がピッキングされるような音を聞いた俺、近衛は暗視ゴーグル越しに勝手口を見ていた。
鍵で開ける音ではなく鍵ではない何かで開けようとしてる音に、静かに銃を構える。
そしてカチャ・・・という音と共に、凜華ではない足音が聞こえてきたのだ。
(来た・・・・。)
先日、凜華の店を荒らした犯人が入って来るのを感じながら息を殺す。
ボイスレコーダーのスイッチをオンにしたと同時に工場内がパッ明るくなった。
どうやら犯人が電気をつけたようだ。
(凜華の工場は窓がないから、電気をつけてゆっくり物色するのか・・・。)
暗視ゴーグルが自動で切り替えられ、視界はクリアに見えるようになった。
そして・・・俺の視界に犯人が姿を現したのだ。
「さてとっと・・・この前はだいぶ儲けさせてもらったからなー・・・今回もごっそり頂いて行くとしますか。」
手を擦り合わせながら冷蔵庫の取っ手に手をかけたのは、思ってた通り配達員の男だった。
今日は盗む気満々なのか、大きな袋を持って来てる。
「しっかしバカだな、あの子。俺に盗まれるためにこんなに作って。」
(!!)
「配達員ってだけで信用しちゃうんだもんなー、ちょろ。」
冷蔵庫に冷やしていたチョコを、型ごと袋に詰めていく配達員の男。
俺はその場でゆっくりと立ち上がった。
そして銃を構える。
「動くな。」
そう言うと男は驚いた顔をしてこちらを見た。
「は・・?警察・・・?なんで・・・」
「両手を上げろ。」
「ちっ・・・張り込んでたのかよ。」
男は大人しく手を上げ、じっと立った。
無線で三橋さんに連絡するとすぐに勝手口から応援が飛び込んできて、男を取り押さえたのだ。
「確保!!」
「建造物侵入の疑いと窃盗の疑いで逮捕する!」
「22時03分!誰か記録付けて!」
男は後ろでに手を組まされて手錠をかけられた。
そして引きずられるようにして工場から連れ出されていったのだった。
「近衛くん、お疲れ。」
「三橋さん・・・、たぶんですけど余罪がありそうですよ。『配達員ってだけで信用されてる』的なこと言ってたんで、他でもやってるかもしれません。」
「オーケー、調べてもらうよ。」
ボイスレコーダーを手渡すと、三橋さんはそれを近くの署員に預けに行った。
盗まれたチョコは戻って来ないけど、これで少しは安心できるだろう。
(問題はあの男の刑の重さだな。)
塀の中に入ることになったとしたら、出所したときにまた凜華のチョコを狙ってくるかもしれない。
そう考えたら工場の場所を移動させて、店頭販売をナシにさせるのがいいのかと考えてしまう。
(その辺は経営者の凜華次第・・・。俺がどうこうできることじゃない。)
助言くらいはできるものの、凜華に任せることしかできないのだ。
付き合い始めたばかりとはいえ、自分の年を考えるとこれが最後の恋愛。
凜華の一生を考えたらつい口出ししたくもなってしまう。
「あ、近衛くん。」
「はい。」
「来間さん、交番にいるから迎えに行こうか。窃盗犯捕まえた立役者だし、今日このあとと明日、明後日は休みにしてあげるからゆっくりして?」
その言葉を聞いて、俺は驚いた。
連休なんて久しぶりすぎる。
「いいんですか?」
「もちろん。じゃあ行こうか。」
俺たちが工場を出ると同時に鑑識班が到着し、指紋採取やらあの配達員が持ってきた袋なんかを回収し始めていた。
2回目の同じ場所での窃盗ということもあり、時間がかかりそうだ。
(明日も続くかもしれないな。)
そんなことを考えながら俺と三橋さんは交番に戻った。
凜華は奥の事務室で俺の椅子に座って待機していたようで、俺の顔を見るなりほっとしたような顔を見せてくれた。
心配してくれていたようだ。
「近衛くん、着替えておいで?僕はもう少し仕事あるから。」
「?・・・はい、わかりました。」
今、この時から休み扱いになった俺はロッカーに向かった。
上司である三橋さんの言葉は『ほぼ絶対』なのだ。
(次に出勤したときにいろいろ書類まとめて・・・)
溜まるであろう仕事を考えながら、俺は服を着替えていったのだった。
ーーーーー
ロッカーに向かった近衛さんの背中を見送っていた私、凜華は三橋さんが温かい視線を送ってることに気がつき、振り返った。
「来間さん、近衛と付き合ってるんでしょ?」
突然そう聞かれ、顔が熱くなっていく。
「!?」
「あ、近衛からきいたわけじゃないからね?あいつ、口は堅いから。」
「そ・・そうなんですか・・・」
近衛さんが言ったわけじゃないのに気がついてることに驚く私だけど、三橋さんにはいつか伝えたいとは思っていたのだ。
「いつから付き合ってるの?」
「えっと・・ついこの前ですかね?まだ1か月くらいかと?」
「そっか。近衛は優しい?」
「・・・優しいです。すごく大切にしてくれてるように思います。」
その優しさが『本物』なのか『作られたもの』なのかはわからない。
無理して優しくしてくれてるのではないかと、ふとしたときに思ってしまうのだ。
「まぁ、近衛は好きな子には優しいだろうねぇ。」
「?・・・『好きな子には』?え、他の人にも優しいのでは?」
お巡りさんとして接していたときは『真面目』一択しかなかった近衛さん。
話をするようになってからは気さくで優しくて・・・価値観もよく合うんじゃないかと思っていた。
「他の人には事務的な対応だよ?『余計な話はしない』『深く突っ込まない』が彼の鉄則だからね。」
「え?」
三橋さんの話が本当だとすると、近衛さんが私に声をかけてきたことが不思議だった。
未成年疑いは仕事かもしれないけど、店頭販売を手伝ってくれたりとか、試作を食べてくれたりとかの行動がおかしくなってくるのだ。
「でも近衛さん・・・私には結構いろいろ・・・」
『してくれていた』。
そう聞こうとした時、三橋さんはこっそり話し始めたのだ。
「・・・近衛、来間さんに一目惚れしたんだよ。」
「・・・え!?」
「まぁ、『ほぼ』一目惚れみたいだけどね。毎日朝早くから夜遅くまで仕事してるでしょ?それも自営で。」
「そう・・ですね・・・。自分の会社なんで・・・。」
「彼、『真面目』『一生懸命』に弱いからさ。あとは・・・まぁ、見た目もドンピシャだったんじゃない?」
「へ・・・?」
「男は『守りたい生き物』だからさ。」
三橋さんの言葉のうち、いくつかわからないものもあった。
でも、近衛さんが私にくれる『優しさ』は、心からのものだということが少しわかった気がしたのだ。
「あ、あと・・・」
「?」
三橋さんはさっきこっそり話してくれた時よりもっと私に近づき、さらにこっそり呟いた。
「近衛・・・ずっぶずぶに甘やかすと思うからがんばってね。」
「へっ・・・?どういう・・・」
三橋さんに聞き返そうと思った時、着替えに行っていた近衛さんが戻ってきた。
「凜華、お待たせ・・・って、何話してたの?」
「えっと・・・・」
どう答えたらいいのかわからずにいると、三橋さんが全然違う話題を振ってきたのだ。
「あ、そういえばさ、鑑識が明日も作業すると思うから2~3日、工場の鍵を預からせてもらってもいいかな?」
「え?」
「今日はもう遅いからざっとだけして帰ると思うんだ。鍵は僕が責任をもってしておくから・・・そうだな、明々後日くらいまで工場を休ませてくれる?」
「それは・・・大丈夫です。チョコは作り直しになりますし・・・。」
「ありがとう。」
私は鞄に入れておいた工場の鍵を取り出し、三橋さんに預けた。
そして近衛さんと一緒に交番を後にすることにしたのだ。
「じゃあ近衛くん、来間さんを送り届けてね。」
「はい。お先に失礼します。」
「うん、お疲れさま。」
いつもより多い警察官さんたちの間を縫って、私と近衛さんは外に出た。
そして真っ暗な空を見上げながら、ゆっくり歩きだしたのだった。
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凜華が工場から出て行った直後に勝手口の扉がピッキングされるような音を聞いた俺、近衛は暗視ゴーグル越しに勝手口を見ていた。
鍵で開ける音ではなく鍵ではない何かで開けようとしてる音に、静かに銃を構える。
そしてカチャ・・・という音と共に、凜華ではない足音が聞こえてきたのだ。
(来た・・・・。)
先日、凜華の店を荒らした犯人が入って来るのを感じながら息を殺す。
ボイスレコーダーのスイッチをオンにしたと同時に工場内がパッ明るくなった。
どうやら犯人が電気をつけたようだ。
(凜華の工場は窓がないから、電気をつけてゆっくり物色するのか・・・。)
暗視ゴーグルが自動で切り替えられ、視界はクリアに見えるようになった。
そして・・・俺の視界に犯人が姿を現したのだ。
「さてとっと・・・この前はだいぶ儲けさせてもらったからなー・・・今回もごっそり頂いて行くとしますか。」
手を擦り合わせながら冷蔵庫の取っ手に手をかけたのは、思ってた通り配達員の男だった。
今日は盗む気満々なのか、大きな袋を持って来てる。
「しっかしバカだな、あの子。俺に盗まれるためにこんなに作って。」
(!!)
「配達員ってだけで信用しちゃうんだもんなー、ちょろ。」
冷蔵庫に冷やしていたチョコを、型ごと袋に詰めていく配達員の男。
俺はその場でゆっくりと立ち上がった。
そして銃を構える。
「動くな。」
そう言うと男は驚いた顔をしてこちらを見た。
「は・・?警察・・・?なんで・・・」
「両手を上げろ。」
「ちっ・・・張り込んでたのかよ。」
男は大人しく手を上げ、じっと立った。
無線で三橋さんに連絡するとすぐに勝手口から応援が飛び込んできて、男を取り押さえたのだ。
「確保!!」
「建造物侵入の疑いと窃盗の疑いで逮捕する!」
「22時03分!誰か記録付けて!」
男は後ろでに手を組まされて手錠をかけられた。
そして引きずられるようにして工場から連れ出されていったのだった。
「近衛くん、お疲れ。」
「三橋さん・・・、たぶんですけど余罪がありそうですよ。『配達員ってだけで信用されてる』的なこと言ってたんで、他でもやってるかもしれません。」
「オーケー、調べてもらうよ。」
ボイスレコーダーを手渡すと、三橋さんはそれを近くの署員に預けに行った。
盗まれたチョコは戻って来ないけど、これで少しは安心できるだろう。
(問題はあの男の刑の重さだな。)
塀の中に入ることになったとしたら、出所したときにまた凜華のチョコを狙ってくるかもしれない。
そう考えたら工場の場所を移動させて、店頭販売をナシにさせるのがいいのかと考えてしまう。
(その辺は経営者の凜華次第・・・。俺がどうこうできることじゃない。)
助言くらいはできるものの、凜華に任せることしかできないのだ。
付き合い始めたばかりとはいえ、自分の年を考えるとこれが最後の恋愛。
凜華の一生を考えたらつい口出ししたくもなってしまう。
「あ、近衛くん。」
「はい。」
「来間さん、交番にいるから迎えに行こうか。窃盗犯捕まえた立役者だし、今日このあとと明日、明後日は休みにしてあげるからゆっくりして?」
その言葉を聞いて、俺は驚いた。
連休なんて久しぶりすぎる。
「いいんですか?」
「もちろん。じゃあ行こうか。」
俺たちが工場を出ると同時に鑑識班が到着し、指紋採取やらあの配達員が持ってきた袋なんかを回収し始めていた。
2回目の同じ場所での窃盗ということもあり、時間がかかりそうだ。
(明日も続くかもしれないな。)
そんなことを考えながら俺と三橋さんは交番に戻った。
凜華は奥の事務室で俺の椅子に座って待機していたようで、俺の顔を見るなりほっとしたような顔を見せてくれた。
心配してくれていたようだ。
「近衛くん、着替えておいで?僕はもう少し仕事あるから。」
「?・・・はい、わかりました。」
今、この時から休み扱いになった俺はロッカーに向かった。
上司である三橋さんの言葉は『ほぼ絶対』なのだ。
(次に出勤したときにいろいろ書類まとめて・・・)
溜まるであろう仕事を考えながら、俺は服を着替えていったのだった。
ーーーーー
ロッカーに向かった近衛さんの背中を見送っていた私、凜華は三橋さんが温かい視線を送ってることに気がつき、振り返った。
「来間さん、近衛と付き合ってるんでしょ?」
突然そう聞かれ、顔が熱くなっていく。
「!?」
「あ、近衛からきいたわけじゃないからね?あいつ、口は堅いから。」
「そ・・そうなんですか・・・」
近衛さんが言ったわけじゃないのに気がついてることに驚く私だけど、三橋さんにはいつか伝えたいとは思っていたのだ。
「いつから付き合ってるの?」
「えっと・・ついこの前ですかね?まだ1か月くらいかと?」
「そっか。近衛は優しい?」
「・・・優しいです。すごく大切にしてくれてるように思います。」
その優しさが『本物』なのか『作られたもの』なのかはわからない。
無理して優しくしてくれてるのではないかと、ふとしたときに思ってしまうのだ。
「まぁ、近衛は好きな子には優しいだろうねぇ。」
「?・・・『好きな子には』?え、他の人にも優しいのでは?」
お巡りさんとして接していたときは『真面目』一択しかなかった近衛さん。
話をするようになってからは気さくで優しくて・・・価値観もよく合うんじゃないかと思っていた。
「他の人には事務的な対応だよ?『余計な話はしない』『深く突っ込まない』が彼の鉄則だからね。」
「え?」
三橋さんの話が本当だとすると、近衛さんが私に声をかけてきたことが不思議だった。
未成年疑いは仕事かもしれないけど、店頭販売を手伝ってくれたりとか、試作を食べてくれたりとかの行動がおかしくなってくるのだ。
「でも近衛さん・・・私には結構いろいろ・・・」
『してくれていた』。
そう聞こうとした時、三橋さんはこっそり話し始めたのだ。
「・・・近衛、来間さんに一目惚れしたんだよ。」
「・・・え!?」
「まぁ、『ほぼ』一目惚れみたいだけどね。毎日朝早くから夜遅くまで仕事してるでしょ?それも自営で。」
「そう・・ですね・・・。自分の会社なんで・・・。」
「彼、『真面目』『一生懸命』に弱いからさ。あとは・・・まぁ、見た目もドンピシャだったんじゃない?」
「へ・・・?」
「男は『守りたい生き物』だからさ。」
三橋さんの言葉のうち、いくつかわからないものもあった。
でも、近衛さんが私にくれる『優しさ』は、心からのものだということが少しわかった気がしたのだ。
「あ、あと・・・」
「?」
三橋さんはさっきこっそり話してくれた時よりもっと私に近づき、さらにこっそり呟いた。
「近衛・・・ずっぶずぶに甘やかすと思うからがんばってね。」
「へっ・・・?どういう・・・」
三橋さんに聞き返そうと思った時、着替えに行っていた近衛さんが戻ってきた。
「凜華、お待たせ・・・って、何話してたの?」
「えっと・・・・」
どう答えたらいいのかわからずにいると、三橋さんが全然違う話題を振ってきたのだ。
「あ、そういえばさ、鑑識が明日も作業すると思うから2~3日、工場の鍵を預からせてもらってもいいかな?」
「え?」
「今日はもう遅いからざっとだけして帰ると思うんだ。鍵は僕が責任をもってしておくから・・・そうだな、明々後日くらいまで工場を休ませてくれる?」
「それは・・・大丈夫です。チョコは作り直しになりますし・・・。」
「ありがとう。」
私は鞄に入れておいた工場の鍵を取り出し、三橋さんに預けた。
そして近衛さんと一緒に交番を後にすることにしたのだ。
「じゃあ近衛くん、来間さんを送り届けてね。」
「はい。お先に失礼します。」
「うん、お疲れさま。」
いつもより多い警察官さんたちの間を縫って、私と近衛さんは外に出た。
そして真っ暗な空を見上げながら、ゆっくり歩きだしたのだった。
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