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不穏な影。

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いつもの宅急便の制服じゃなくて私服姿のお兄さん。
一瞬誰かわからなかったけど、帽子を被っていたからわかったのだ。

「今日は随分遅いんですね?」
「え?あ・・・チョコを作ってると時間を忘れる癖がありまして・・・」

どうしてこのお兄さんがここにいるのかはわからなかったけど、話しかけられた手前、無下にできずに話を続けてしまう。

「俺、この辺りに住んでてコンビニの帰りなんですよ。」
「そうなんですか・・・。」
「明日は集荷ありそうですか?」
「明日はちょっと無い・・ですね。今、作ったチョコを冷やしてて、明後日にならないと固まらなくて・・・。」
「そうですか。じゃあ次は多かったり?」
「あー・・・30箱くらいかなと思いますけど・・・」

仕事が終わってるのに明日以降の話をするなんて、随分仕事熱心なお兄さんだと思いながら、私は発送の話をしていった。
私の荷物が多かったら乗せれなかったりするのかもしれない。

「あ・・・1回の発送の数、減らしましょうか?10箱を3日とかに分けたりもできますけど・・・。」
「それは大丈夫ですよ。大体の数が分かる方が助かるだけなので。」
「そう・・ですか・・。」

そんな話をしてると光の強いライトを持った人が歩いてくるのがわかった。
二人組で歩いてくるあの人達は・・・近衛さんと三橋さんだ。

「あれ?来間さん?こんな遅くに仕事帰り?」
「え?」

近衛さんが『迎えに行く』と言っていたことから、てっきり三橋さんも知ってると思ったのに何も知らないような聞き方をしてきた。
そのことに疑問を持ってると、今度は近衛さんまで似たような話し方をしてきたのだ。

「よかったら明るいところまで送りますよ?」
「え?え?」
「もう帰るんでしょ?」
「そうですけど・・・・」
「なら行きましょうか。」

そう言って二人は私を挟むようにして立ったのだ。

「あ・・・じゃ・・じゃあ失礼しますっ・・・。」

宅急便のお兄さんにそう告げ、私は二人に挟まれながら歩き始めた。
なんだか他人行儀な二人に疑問を持ちながら歩いていくと、しばらくしてから三橋さんがぼそっと呟いたのだ。

「僕たちとはあまり仲が良くないようなフリして?」
「え?」
「あの配達員、ずっとこっちを見てるから。」
「!?」

振り返りたくても振り返れない状況に、私はただ下を向きながら歩くしかなかった。
そして道の角を曲がり、少ししたときに近衛さんが私の頭をぽんぽんっと優しく叩いたのだ。

「鑑識の結果が出た。十中八九、あの配達員が犯人だ。」

その言葉に私は思わず足を止めてしまった。

「え・・・?」
「凜華とあの配達員以外の指紋が検出されなかったんだ。」
「それなら・・・犯人が指紋を残さないようにしたとかは・・・」

よくドラマとかであるやり方だ。
軍手や手袋をして犯行に及んで指紋を残さないという方法がある。

「それも考えたけど、おかしな指紋が出てきたんだよ。」
「おかしな指紋?」
「あぁ。あの日、凜華は冷蔵庫、触ったよな?」
「え?そりゃもちろん、チョコを冷やしてたんだから開けるよ?」

店頭販売用のチョコが入っていた冷蔵庫は、私が開けて取り出した。
そして余ったチョコも冷蔵庫にしまったのだ。

「・・・その冷蔵庫の取っ手にあった配達員の指紋は、凜華の指紋のんだ。」
「上って・・・・」
「凜華が触った後に触れたことになる。」
「----っ!!」

工場は基本的に私とあのお兄さんしか出入りしない。
私の指紋の上にあのお兄さんの指紋があったのなら、私が帰った後に冷蔵庫を開けたことになるのだ。

「うそ・・・・。」
「多分今日も盗みに入るつもりだったか下見のどちらかだと思う。」
「!!」
「明日は工場に行くな。鉢合うと何されるかわからない。」

驚きと恐怖のあまり、声が出ない私は首を縦に振った。
すると三橋さんと近衛さんが何やら作戦めいた話をし始めたのだ。

「明日は俺が張ります。もし動きがあったら無線で・・・」
「じゃあ僕は応援をお願いしておくよ。すぐに動けるように。」
「お願いします。」

そんな話を聞きながら、私はふとさっきの会話を思い出した。
あのお兄さんに伝えたことがあるのだ。

「あ・・・!」
「どうした?」
「あの・・もしかしたら明日じゃなくて明後日かも・・・?」
「?・・どういう意味?」

私はさっきお兄さんとした会話を近衛さんと三橋さんにした。
今冷やしてるチョコは明後日にならないと固まらないと伝えたことを・・・。

「じゃあ明後日か?」
「でも朝だったら私が工場に行っちゃうから・・・夜中・・・?」

転売が目的なら固まったチョコを盗らないと意味はない。
なら犯行はきっと明日の0時を回った後だ。

「わ・・私・・出勤して23時くらいに工場を出ましょうか・・・?それだったらきっと犯行しやすいかと・・・」

『囮』ではないけど、『私』がいないときに盗みたいのなら、私が帰るのを見せつけるのが犯人が一番安心すると思ったのだ。

「は!?そんなのさせるわけないだろう!?」
「や・・でもそれが一番いいですよね?・・・三橋さん。」

状況分析が得意そうな三橋さんに聞くと、三橋さんは手を顎にあて、頷くようにして首を縦に振っていたのだ。

「・・・そうだね。」
「!?・・三橋さん!?」
「いや、近衛くんが工場の中に潜んでおいて、来間さんが帰る。そのあとあの配達員が工場に入ったら現行犯になるだろう?」
「それはそうですけど・・・でも凜華を一人で帰すなんて・・・」
「そこはうちで保護しておくよ。誰か警官に待機しておいてもらって、交番で待っててもらう。・・・それでどう?」
「・・・。」

『ダメ』とは言わなかった近衛さん。
この方法が一番確実で手っ取り早いことを教えてくれてるようだった。

「・・・明日の朝から配達員は尾行。配達員が仕事中に俺が工場内に潜伏。凜華は絶対ケガとかさせないでくださいよ?」
「もちろんわかってるよ。来間さんも協力してくれる?」
「はいっ。」

こうして私たちは協力して空き巣犯を捕まえることになったのだった。



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