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新しい型。
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ーーーーー
翌朝8時前。
いつも通り交番の前で立番をしながら俺は凜華が通るのを待っていた。
今日は『8時くらいに家を出る』とLINEで聞いていたからだ。
「ふぅー・・だいぶ朝が寒くなって来たねぇ・・。」
そう言いながら珍しく中から出てきた三橋さん。
一緒に立番をするようだ。
「もう冬になりますからね。」
「だね。あとでストーブ出しておこうか、いつでも使えるように。」
「はい。」
そんな話をしてると凜華が歩いてくるのが視界に入った。
少し厚手のコートを羽織り、手袋をしてる。
「おや、来間さん今日は遅いんだね。」
「みたいですね。」
スタスタと歩いて近づいてくる凜華にどう挨拶をしようか悩んでると、三橋さんが先に手を振り始めた。
その姿に気がついたのか、凜華も小さく手を振ってる。
「ははっ、かわいいねぇ。うちの子と近いからか娘みたいに見えるよ。」
そう言って三橋さんは右手をこめかみ辺りに手をかざし、姿勢を正した。
凜華に向けて『敬礼』をしたのだ。
「いつもお疲れさま。今日もお仕事がんばってね。」
そういう三橋さんに倣って、俺も同じポーズを取る。
すると凜華は真似するようにして手の甲をおでこに当てたのだ。
「へ・・?」
手のひらが見えないようにするのが正しい敬礼なのに、凜華の敬礼は手のひらが完全にこちらを向いてしまっていた。
そんなあまりにもかわいい敬礼に、俺は笑いが堪えきれない。
「ははっ・・・!」
腹を抱え、口元を押さえて笑ってると凜華は『なぜ笑われてるのかわからない』と言った表情を浮かべながら交番の前を通過していってしまった。
しばらく笑ってる俺に、三橋さんが何か感づいたような目をしながら肩をポンポンっと叩いてくる。
「これは何かあったね?」
「!!」
ここで『付き合うことになりました』と言えばきっと何かしらからかわれるに決まってる。
バレるまでは黙っておこうと思ったけど・・・三橋さんの言葉にそんな俺の考えは甘いことを知らされる。
「昨日、非番だったよね?一緒にどこかに出かけてー・・・何かしら進展があったのかなー・・?」
「!?・・・ちょ・・なんで・・・・」
「お?『なんで』?・・・その続きは『なんで知ってる?』ってとこ?そっかー、付き合うことになったのかー。」
「は!?」
怖いくらいの洞察力にゾッとしてると、三橋さんはニヤっと不敵に笑って見せた。
「この間の仕返しだよ。」
「仕返し!?・・・え!?取り調べの!?」
「そ。まぁ、あんまり重くなって来間さんに嫌われないようにねー。」
そう言って三橋さんは交番の中に戻っていった。
残された俺は頭の中を整理することでいっぱいだ。
「嘘だろ・・・もうバレたのか・・?それも仕返しって・・・。」
『三橋さんだけは敵に回してはいけない』
そう自分自身に刻み込みながら、俺はストーブを出しに戻ったのだった。
ーーーーー
仕事場である工場に着いた私、凜華は仕事用のパソコンを開いていた。
転売されてる私のチョコの売れ行きと、注文したものがいつ届くかの確認をするためだ。
「チョコは・・・まぁ、半分くらい売れてるみたいね。知ってる人が買わないようにしてくれてるのか、それとも単に値段で引いてるのかどっちかかな。」
画面の半分くらいがsold outと表示されている。
全部売れたらまた盗みに来るのかと考えてしまうけど、ここは警察と兄に任せるしかないのだ。
「新しいチョコは型が届いたらすぐに作れるけど・・・いつ届くかな。」
発送メールが届いてないか確認しようとした時、工場の勝手口が開かれる音が聞こえてきた。
スタスタと迷いない足音は、知ってる足音だ。
「ちわー!宅急便でーす!」
そう、いつも来てくれる宅急便のお兄さんの足音なのだ。
「あれ?今日は発送ないですよ?」
しばらくは発送できるチョコがないことから、私は発送引き取りを止めていた。
なのに担当さんが来てしまってるのだ。
「今日は引き取りじゃないですよー!」
「え?引き取りじゃない?」
「はい!お荷物です!」
そう言って大きな段ボールを荷物置き場に置いた宅急便屋さん。
その中身は恐らく、型と包装の箱が入ってる。
「!!ありがとうございますっ!」
「いえ。・・・空き巣に入られたみたいですね、大変でしたね。」
「あー・・・。」
『泥棒が入った』なんて情報がどこからともなくいろんなところに広まるもの。
宅急便のお兄さんなんていろんな人と話すことからどこかからか仕入れたのだろう。
「そうなんですー・・。新しいのを作りたかったんですけど型も盗られたので作れなくて・・・」
「そうなんですか・・・。」
「でもその荷物は型が入ってるはずなんで、また作れますっ。発送準備ができたらまたお願いしますね?」
そういうと宅急便のお兄さんは工場の中をぐるっと見回した。
「・・ちなみにどれくらいで発送の準備ができそうです?」
「あー・・そうですね、今からだったら・・・2週間後くらいですかね?」
回収の準備があるのかと思ってそう答えると、お兄さんはにこっと笑って被っていた帽子を被り直した。
「了解っス!じゃあまた!」
「はーい!ありがとうございまーす!」
宅急便のお兄さんが勝手口から出ていき、扉が閉まったあと私は荷物を開け始めた。
中に入っていたのは思った通りチョコの型で、箱も入ってる。
「!!・・・これで作れるっ!」
ちゃんとした作業ができるようになり、私は急いで服を着替えにいった。
髪の毛が落ちないようにバンダナキャップできっちり覆い、手もきれいに洗っていく。
そして私は久しぶりにカカオ豆に触れた。
「・・・ふふ。おいしいチョコになろうね。」
久しぶりのチョコ作りに、私は時間を忘れて作っていったのだった。
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翌朝8時前。
いつも通り交番の前で立番をしながら俺は凜華が通るのを待っていた。
今日は『8時くらいに家を出る』とLINEで聞いていたからだ。
「ふぅー・・だいぶ朝が寒くなって来たねぇ・・。」
そう言いながら珍しく中から出てきた三橋さん。
一緒に立番をするようだ。
「もう冬になりますからね。」
「だね。あとでストーブ出しておこうか、いつでも使えるように。」
「はい。」
そんな話をしてると凜華が歩いてくるのが視界に入った。
少し厚手のコートを羽織り、手袋をしてる。
「おや、来間さん今日は遅いんだね。」
「みたいですね。」
スタスタと歩いて近づいてくる凜華にどう挨拶をしようか悩んでると、三橋さんが先に手を振り始めた。
その姿に気がついたのか、凜華も小さく手を振ってる。
「ははっ、かわいいねぇ。うちの子と近いからか娘みたいに見えるよ。」
そう言って三橋さんは右手をこめかみ辺りに手をかざし、姿勢を正した。
凜華に向けて『敬礼』をしたのだ。
「いつもお疲れさま。今日もお仕事がんばってね。」
そういう三橋さんに倣って、俺も同じポーズを取る。
すると凜華は真似するようにして手の甲をおでこに当てたのだ。
「へ・・?」
手のひらが見えないようにするのが正しい敬礼なのに、凜華の敬礼は手のひらが完全にこちらを向いてしまっていた。
そんなあまりにもかわいい敬礼に、俺は笑いが堪えきれない。
「ははっ・・・!」
腹を抱え、口元を押さえて笑ってると凜華は『なぜ笑われてるのかわからない』と言った表情を浮かべながら交番の前を通過していってしまった。
しばらく笑ってる俺に、三橋さんが何か感づいたような目をしながら肩をポンポンっと叩いてくる。
「これは何かあったね?」
「!!」
ここで『付き合うことになりました』と言えばきっと何かしらからかわれるに決まってる。
バレるまでは黙っておこうと思ったけど・・・三橋さんの言葉にそんな俺の考えは甘いことを知らされる。
「昨日、非番だったよね?一緒にどこかに出かけてー・・・何かしら進展があったのかなー・・?」
「!?・・・ちょ・・なんで・・・・」
「お?『なんで』?・・・その続きは『なんで知ってる?』ってとこ?そっかー、付き合うことになったのかー。」
「は!?」
怖いくらいの洞察力にゾッとしてると、三橋さんはニヤっと不敵に笑って見せた。
「この間の仕返しだよ。」
「仕返し!?・・・え!?取り調べの!?」
「そ。まぁ、あんまり重くなって来間さんに嫌われないようにねー。」
そう言って三橋さんは交番の中に戻っていった。
残された俺は頭の中を整理することでいっぱいだ。
「嘘だろ・・・もうバレたのか・・?それも仕返しって・・・。」
『三橋さんだけは敵に回してはいけない』
そう自分自身に刻み込みながら、俺はストーブを出しに戻ったのだった。
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仕事場である工場に着いた私、凜華は仕事用のパソコンを開いていた。
転売されてる私のチョコの売れ行きと、注文したものがいつ届くかの確認をするためだ。
「チョコは・・・まぁ、半分くらい売れてるみたいね。知ってる人が買わないようにしてくれてるのか、それとも単に値段で引いてるのかどっちかかな。」
画面の半分くらいがsold outと表示されている。
全部売れたらまた盗みに来るのかと考えてしまうけど、ここは警察と兄に任せるしかないのだ。
「新しいチョコは型が届いたらすぐに作れるけど・・・いつ届くかな。」
発送メールが届いてないか確認しようとした時、工場の勝手口が開かれる音が聞こえてきた。
スタスタと迷いない足音は、知ってる足音だ。
「ちわー!宅急便でーす!」
そう、いつも来てくれる宅急便のお兄さんの足音なのだ。
「あれ?今日は発送ないですよ?」
しばらくは発送できるチョコがないことから、私は発送引き取りを止めていた。
なのに担当さんが来てしまってるのだ。
「今日は引き取りじゃないですよー!」
「え?引き取りじゃない?」
「はい!お荷物です!」
そう言って大きな段ボールを荷物置き場に置いた宅急便屋さん。
その中身は恐らく、型と包装の箱が入ってる。
「!!ありがとうございますっ!」
「いえ。・・・空き巣に入られたみたいですね、大変でしたね。」
「あー・・・。」
『泥棒が入った』なんて情報がどこからともなくいろんなところに広まるもの。
宅急便のお兄さんなんていろんな人と話すことからどこかからか仕入れたのだろう。
「そうなんですー・・。新しいのを作りたかったんですけど型も盗られたので作れなくて・・・」
「そうなんですか・・・。」
「でもその荷物は型が入ってるはずなんで、また作れますっ。発送準備ができたらまたお願いしますね?」
そういうと宅急便のお兄さんは工場の中をぐるっと見回した。
「・・ちなみにどれくらいで発送の準備ができそうです?」
「あー・・そうですね、今からだったら・・・2週間後くらいですかね?」
回収の準備があるのかと思ってそう答えると、お兄さんはにこっと笑って被っていた帽子を被り直した。
「了解っス!じゃあまた!」
「はーい!ありがとうございまーす!」
宅急便のお兄さんが勝手口から出ていき、扉が閉まったあと私は荷物を開け始めた。
中に入っていたのは思った通りチョコの型で、箱も入ってる。
「!!・・・これで作れるっ!」
ちゃんとした作業ができるようになり、私は急いで服を着替えにいった。
髪の毛が落ちないようにバンダナキャップできっちり覆い、手もきれいに洗っていく。
そして私は久しぶりにカカオ豆に触れた。
「・・・ふふ。おいしいチョコになろうね。」
久しぶりのチョコ作りに、私は時間を忘れて作っていったのだった。
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