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思ってもみなかった言葉。

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表示されたものはどれも5個入りのチョコばかり。
同じ画像を使いまわしてるのか、写真自体はどれも同じだ。
でも・・・

「・・・1セット3000円!?半値以下じゃないか・・・!!」

そう、金額が雲泥の差だったのだ。

「近衛さんが・・・『転売』って言ったからまさかとは思ったんですけど・・・」

そういう彼女の体はもう震えてなかった。
『何』が目的での侵入かがわからなかったための『恐怖』だったみたいだ。
『盗まれたもの』『格安の転売』・・・それらが、犯人が確信犯であった証拠だった。

「どうする?こっちでも犯人は突き止めるように動くけど・・・」
「・・・。」

一度安い値段を覚えた客は高い正規の値段での買い物をしてくれない傾向が高い。
今、サイトに出てる数はおよそ50ほど。
この商品が全て売れてしまったら、この先敬遠されるかもしれないのだ。

「・・・告知を出します。」
「告知?」
「はい。今、転売サイトに載ってる物は盗まれたものだと。それに加えて新しいシールが今後、うちの店のロゴになると。」

彼女は三橋さんの娘さんが描いてくれたクマのイラストを元に、新しいシールを作っていたそうだ。
それはもうすぐ手元にやって来るらしく、とアピールするらしい。

「でも『買わない』って抑止力には欠けるぞ?」

そんなの知ったこっちゃないと買う人は必ず出てくるものだ。

「それは・・・仕方ありません。でも・・・」
「『でも』?」
「・・・『本物じゃないということを分かった上で買う』もしくは『あとで偽物だと知った』となれば人の心には刻まれるはず。道徳心を試すような真似になりますけど・・・これは本物じゃなかったって思ってもらえたらいいかなって・・・。」
「!!」
「まぁ、チョコは本物ですけどね(笑)箱もうちのですし、たぶん違うチョコは入ってないと思いますけど・・・もし違うのを入れられてたとしても『偽物』だと強調できますし?」

そう言って来間さんはカタカタとパソコンを操作し始めた。
全SNSに『ネット販売サイトの商品は偽物』だと告知し始めたのだ。

「えーっと・・・『当店のチョコレートは盗難に遭いました。本日より1か月後からの発送が本物となります。新しいシールが目印になります』・・・っと・・・。」

カタカタと単調に文字を売っていく来間さんだけど、その手はまた微かに震えていた。
犯人の動向がわかってもこんなこと・・・怖いに決まってる。

「今日はもう・・・しなくていいんじゃないか・・?」

張りつめてる気を・・どうにか保とうとしてる気がして仕方がない。
ここで気を緩めると自分が壊れてしまいそうで・・・気丈に振舞ってるようにしか見えなかったのだ。

「・・・今しないと・・・きっと泣いちゃうんで・・・」
「!!」
「たっ・・・大切に作ったチョコ・・・盗られるとか・・むっ・・無理なんで・・・・・」

そういう彼女の目には涙がいっぱい溜まっていた。
瞬きをすればたちまちあふれ出しそうなくらいある涙を零さないようにと・・・。

「・・・泣きな?誰もいないから・・。ここで堪えると後に響く。」
「----っ。」
「悔しかったな、辛かったな・・・?いろんな感情が渦巻いてるだろうけど・・・全部流しな?」

泣くことで全てが解決するわけではない。
それでも気持ちが軽くなることは確かだ。

「ふぇっ・・・うー・・・・」

パソコンの画面を見ながらぼろぼろと涙をこぼし始めた彼女。
そんな姿をただ見てるだけなんてできるはずもなく、俺は彼女を抱きしめた。

「先に謝っとく。・・・ごめん。」
「うわぁぁぁ・・・・」

俺の『ごめん』が聞こえたのかどうかはわからないけど、彼女は俺の腕を掴みながら泣き続けた。

(こんな小さい手で一生懸命作ったのに・・盗られて転売されるとか悔しさしかないよな・・・。)

絶対に犯人を見つけてやると決めながら、俺はひとまず彼女を慰めることに徹したのだった。




ーーーーー



ーーーーー



「・・・スミマセンでした。」

なぜか近衛さんの腕の中で泣き続けていた私、凜華は、ひとしきり泣いたあと我に返った。
人前でわぁわぁと泣いてしまったことも恥ずかしいし、近衛さんの腕の中で泣いてしまっていたことも恥ずかしすぎることだ。

「いや、俺は全然大丈夫。」

少し困ったように笑いながらそう言ってくれた近衛さん。
申し訳なさに私は照れを隠すようにして笑って見せた。

「はは・・・そうですよね、お仕事ですもんね・・・。」

警察官は市民の味方。
空き巣被害に遭った私を慰めるのも、仕事の一つなのだ。

「あの・・もう片付けとかしても大丈夫なんでしょうか・・?」

冷静になった私の視界に入ってきたのは、無残に散らばりまくった床。
警察関係の人がたくさん来てたような記憶が薄っすらあるけど朧気だった。

「・・・。」
「?・・・近衛さん・・?」

聞いてるのに返事をくれない近衛さん。
何かおかしなことでも聞いてしまったのかと思って彼を覗き込むと、近衛さんは急に私の体を抱きしめてきたのだ。

「きゃっ・・・!?」
「・・・『仕事』なんかじゃない。俺・・・俺がしたかったから・・・。」
「え・・・?」
「好きな子が泣いてるときに何もしないなんてこと・・・できなかったんだ。ごめん・・・。」

その言葉に、近衛さんが何を言ってるのか一瞬わからなかった。
『俺がしたかった』や『好きな子』という言葉を頭の中で反芻し、私は徐々にその意味に気がついてしまった。

「えぇぇ・・!?」
「・・・。」

つまりは近衛さんは私のことが『好き』だということ。
思ってもみなかった告白に、私はどうしたらいいのかわからなかった。
こんな体験、初めてのことだから・・・。

「ごめん、こんな時にこんなこと言って・・・。もう掃除とかはしても大丈夫だから。・・・ほんとごめんな。犯人は必ず捕まえるから。」

そう言って彼は私を抱きしめていた腕を解き、ゆっくり勝手口から帰っていった。
その悲しそうな後姿をずっと見つめていた私は、なんだか胸が締め付けられるような感覚に襲われてる。

(私って・・・近衛さんのことが好きなの・・・?)

今までチョコ一筋で生きてきた。
誰かに好意を寄せられることも無ければ寄せることもなかった人生だ。
締め付けてくる胸の痛みは、近衛さんを悲しませてしまったことからの罪悪感。
これは彼のことが好きだから生まれるものだった。

(嘘・・・)

でも正直、本当に『好き』なのか、これが『恋』なのかは理解できていない。
初めてのことだからまだわからないのだ。

(とりあえず片付けしながら考えよう・・・。)

『返事が欲しい』とか言われなかったことから、近衛さんは『振られた』と思ってるのかもしれない。
でもお受けするほど私に確証がないのもまた事実だった。

「みっ・・三橋さんに相談・・・?」

空き巣被害で落ち込んでいたのに、それを上回るほどの事件が私に起こってる。
無くなってるものをメモに取りながらこのことを相談できる唯一の人『三橋さん』とお話がしたいと思いながら、私はパソコンからメールを一本打った。

『お兄ちゃんへ。空き巣に入られていろいろ盗まれました。今、警察の人が調べてくれてます。』

そう兄に送信し、今日はいろんな意味のため息交じりに片付けに一日を費やしたのだった。







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