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惹かれあうお互い。

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ーーーーー



「今日はいろいろありがとうございました。」


食事を終えた後、2時間ほどドライブを楽しませていただいた私は近衛さんに家まで送ってもらい、車から降りた。

こっちに来てから一番楽しい時間を過ごさせてもらい、三橋さんと近衛さんには感謝しかない。


「こちらこそ。また明日から工場に行くのか?」

「もちろんですよ。注文は毎日入って来るのでそれの発送手続きを取らないといけませんし、新しいチョコも作らないといけないんで。」


注文が0という日は今のところない。

最低でも1つは注文が入ってくるのだから、有難いことだ。


「そうか。・・・店頭販売を今後続けるなら日にちは俺たちに相談してくれ。非番の日を合わせるから。」

「え・・・それって・・・・」

「俺と三橋で交通整理するってこと。慣れてるし、これ以上の適任はないと思うけど?」

「!!」


その言葉はものすごくうれしいものだった。


「ご迷惑はかけれないんですが・・・でも近衛さんたちなら安心なので・・お願いしたいです。」


こんな我儘を言っていいのか不安に思いながら言うと、近衛さんは嬉しそうな顔を見せてくれていたのだ。


「もちろん。」

「ー---っ。あ・・ありがとうございます・・。」


なぜかどきどきしてしまいながら車のドアを閉めると、車は走り出した。

お礼にはならないけど、せめてと思ってその姿が見えなくなるまで手を振って見送り続ける。


「・・・最初は怖いイメージあったけど・・・すごく優しい人なんだなぁ・・。」


初めて声をかけられたあの日、私の腕を掴んだ近衛さんのことを少し怖く感じていた。

逃げた私も悪いのだけど、彼は真面目に仕事をしていただけのこと。

プライベートは違った雰囲気を持っていたのだ。


「ふふっ。」


私の生活に新しい風が吹き始めた予感を抱きつつ、私は家に帰ったのだった。




ーーーーー



来間さんを家に送り届けて帰路についた俺、近衛はいつまでも手を振っていた彼女に頬が緩みっぱなしだった。

あんなかわいい行動されたらこっちの身が持たない。


「やばいな、どんどん落ちていく・・・。」


初めて見たフォーマルな服装は、いつもより大人っぽい雰囲気を醸し出していた。

ゆるふわなショートボブスタイルの髪の毛は、いつもはハーフアップで髪の毛をまとめてるのに、さっきは全て下ろしていたのだ。

片耳に髪の毛を引っかけていて、その耳にはイヤリングが揺れていた。

一気に年齢が近くなったような気がして、どこを見たらいいのかわからなくなりそうだったことを思い出す。


「あんなギャップ・・・反則だろ・・・」


きっと仕組まれたであろう今日のディナー。

三橋さんにしてやられたことは事実だろうけど、嫌がらずにドライブまで付き合ってくれたことを考えると脈はないわけではなさそうだ。


「スマホ持ってないんじゃ連絡を取ることは難しいよな・・。じゃあどうやって近づく・・・?」


自分から『欲しい』と思った女の子は初めてだった。

30歳にもなれば過去に付き合った女性はいるものの、皆うちの家族の名声が目的だった。

家族との写真を欲しがったり、うちの実家で写真を撮ってSNSに上げたりするために俺と付き合いたいだけだったのだ。


「・・・まさか来間さんもうちの家族のことを知ったら目の色が変わったりする・・・?」


若干不安を覚えてしまった俺。

かといってうちの話をするのもどうなのかと思ってしまい、ためらいが生まれる。


「三橋さんに相談・・・は、したくないけど・・・」


今のところ一番的確なアドバイスをくれそうな人だ。

からかわれるのを覚悟で・・・俺は三橋さんに相談してみることにした。

でもまさか翌日にあんなことが起こるなんて・・・この時の俺は思ってもみなかったのだった。




ーーーーー



ーーーーー



翌日朝5時。

今日の夜出勤の予定だった俺はまだ布団の中で眠っていた。

昨日のことを夢で見ながら幸せな時間に浸っていたのだ。


「んん・・・・」


寝返りを打って来間さんとのディナーに舌鼓を打っていた時、俺のスマホが鳴りだしたのだ。


「!?」


音に飛び起きた俺はすぐにスマホの画面を見た。

電話だ。


「三橋さん・・・?」


画面に出ていたのは『三橋さん』の文字。

一体何があったのかと思って電話に出てみた。


「はい、もしもし?」

『近衛くん!?すぐに来て!!来間さんの工場!!』

「え?」


電話越しに、慌ててる三橋さんの声が聞こえる。

どうして来間さんの工場に来るように言われてるのか疑問に思ってると。三橋さんはとんでもない言葉を言ったのだ。


『ノビだ!!来間さんの工場にノビが入った!!』

「!?」


『ノビ』は警察隠語で『空き巣』のこと。

昨日、一昨日の店頭販売の売り上げを目的に侵入したのかもしれない。


「すぐ行きます!!」


そう言って電話を切り、制服に着替えて俺は来間さんの工場に向かったのだった。




ーーーーー



「三橋さん!!」


現場に到着した俺は工場の中に入って驚いた。

棚にあったであろう物やパソコンが床にあり、冷蔵庫の扉が開いたままだったのだ。

無残に床に散らばってるチョコレートや、包装紙、それに調理道具なんかが事件の酷さを物語ってるようだった。


「近衛くん!こっち!」

「!!」


鑑識なんかが作業をしてる中、工場の奥にいる三橋さんのところに向かって足を進めていく。

すると三橋さんの背後に、椅子に座った来間さんの姿があったのだ。


「ざっと説明するからよく聞いて?」

「はい!」


三橋さんは俺に今までのことを説明してくれた。


「朝、仕事に来たらもう荒らされた後だったんだって。」


朝4時に来間さんが工場に来た時に勝手口の鍵が開いていたそうで、不審に思いながら中に入るともうこの状態だったそうだ。

パニックになりながらもパソコンからネット電話を使って警察に電話をしてくれたようで、三橋さんが真っ先に駆けつけたらしい。

そして鑑識を読んで事情聴取をしてるらしいのだが、パニック状態の彼女はまだまともに口を開けないらしい。


「昨日の売り上げは!?」

「それは来間さんが持って帰ってたみたいで無事。何が無くなってるのかは来間さんに確認してもらわなきゃいけないんだけど・・・ちょっとそれどころじゃないみたいでさ・・・。」


そう言われて彼女を見ると、ガタガタと震えながら身を小さくするようにして自分自身を抱きしめていた。

顔は青ざめ、今にも倒れてしまいそうだ。


「指紋は?」

「鑑識が取ってる。靴跡もあるからこの工場に出入りしたことのある人のを全部取らないといけないな。」

「前科がある奴が犯人だったら指紋が出れば捕まえれるけど・・・」


そうじゃなかったら捕まえるのは難しくなる。

この辺りは防犯カメラもないし、この工場だってカメラはないのだから。


「鑑識、終了しましたので戻ります。あとはお任せしていいですか?」


俺が到着して少しの時間が経ったとき、鑑識班が撤収し始めた。

三橋さんが今後のことを話しながら一緒に外に行ってしまい、工場の中には俺と来間さんの二人に・・・。


「ケガはない?」


俺は膝をついて俯く彼女の視界に入るようにした。

青ざめたままの顔は『不安』一色だ。


「な・・ないです・・・」

「よかった。犯人とは鉢合わせとかしてない?」

「しっ・・してません・・・」


犯人と会ってないなら彼女が狙われることはなさそうだ。

顔を見てたりすると、今度は彼女自身を狙ってくる可能性もある。


「何か無くなってる物とかある?無理はしなくていいけどざっと見れそう?」


一刻も早く犯人を見つけ出して犯行の真意を見つけなければならない。

金が目的か、それともただ荒らしたかっただけか・・・


(工場に入る時点で『うさばらし』なんてことはないな。金が目的だと思ったけど・・・)


そんなことを考えてると、来間さんが口を開いた。


「あ・・ある・・・・」

「!!・・それは何?」

「つ・・作った・・チョコ・・・」


少しずつ話してくれた内容で、この工場から消えたものがわかっていった。

彼女がストックで作っていたチョコに、チョコを成型する型、それに包装に使っていたお店のロゴ入りシールなんかが全部なくなってるそうだ。


「犯人はここが何なのかわかってて侵入したっぽいな・・。もしかしたら転売が目的とか・・・?」

「!!」


そう呟いた瞬間、来間さんは震える体でパソコンを床から拾い上げた。

そして震える手でパソコンを操作し始めたのだ。


「無理しなくても・・・・」


そう言うものの、彼女は無言でパソコンを操作していく。

そしてあるサイトにログインし、検索バーに文字を入れ始めた。


「『ベアーズ・チョコ・大特価』・・・?」


そして検索ボタンを押したと同時に画面いっぱいにこの店のチョコが表示されたのだ。


「!?」


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