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大混雑。

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ーーーーー



店頭販売の告知を出して1か月の時間が流れ、とうとう店頭販売当日を迎えた私、凜華は最終チェックに追われていた。

現在の時間は朝9時。

10時からの販売に合わせて予約分を確認していく。


「えーと・・『あ行』の名字の人はこの箱に入ってて、『か行』の人はこっち、で・・・・」


すこし涼しい季節に突入してることもあり、保冷剤なんかの用意はいらなさそうだ。

受け渡しがスムーズにいくようにシミュレーションを繰り返し、ノベルティたちの数も数えていく。

おつりは必要がないため、いただいたお金を入れるミニ金庫も用意した。

そして販売開始の30分前である9時半に、私は工場から外に出たのだ。

チョコレートたちを外に出して、販売の準備をしていく。


「予約の人たちはたぶん来てくれるだろうけど・・・当日販売の分はどれくらい売れてくれるだろう・・・」


不安に思いながら迎える販売開始時刻。

一番最初に来てくれるお客さんを待ってると、工場の前に一台の車が止まった。

助手席側から女の人が降りてきて、私の前まで歩いてきたのだ。


「すみません、『ベアーズ』の店頭販売はこちらですか?」

「!!・・・はっ・・はいっ!」

「予約していた『芹澤』です。」


店頭販売初のお客さんだ。


「ありがとうございますっ。」


私は『さ行』の箱から『芹澤さま』と書いてあるチョコの箱を取り出した。

それを紙袋に入れ、ノベルティと予約特典のチョコも一緒に入れていく。


「ご予約ありがとうございますっ。税込み1万円になりますっ。」

「送料や冷蔵代がいらないから安く買えてよかったですー。また販売するときは告知してくださいね?」

「はいっ!ありがとうございますっ!」


料金をいただき、初めてチョコを手渡しで渡す。

何とも言えない感動を覚えながら余韻に浸ってると、車が次々とやってきたのだ。


「わっ・・・!」


まるでドライブスルーのような状態で工場の前を埋めていく車たち。

どうやらこれ全部がチョコを買いに来てくれたお客さんのようだ。


「すみませーん、予約していた『田沼』ですー。」

「すみません、当日販売分ってまだありますか?」

「すみませーん!予約の『吾郷』ですー!」


次から次へと私の前に立つお客さんたち。

私はパニックになりながら必死になってチョコを売っていった。


「お待たせしました!ノベルティと予約特典のチョコ入りです!」

「お待たせしました!当日分なのでノベルティのみになります!」

「お待たせしました!ノベルティと予約特典のチョコ入りですっ!」


売れど売れど人が途切れる気配はなく、だんだん道路が混雑し始めていくのが目に映り始めた。

近隣には住宅は無いものの、道路がある時点で車は通る。

その車たちが通りにくそうにしていて、明らかに私の店のお客さんが邪魔みたいだったのだ。


(どうしよう・・・!)


交通整理をしようにも、従業員は私しかいない。

私が抜けるとチョコを売る人がいなくなり、私がチョコを売ると道路の混雑をスムーズに解消することができないのだ。


(臨時でバイトを雇えばよかったかも・・・・!)


そんなことを思いながら必死にチョコを売ってると、ピピーっ!・・・と、笛の音が聞こえてきた。

視線を音の方に向けると、そこに近衛さんと三橋さんの姿があったのだ。


「もうちょっと端に寄って止めてくださいー!!」

「買い終わった方はスムーズにお帰りくださいー!」


二人は混雑していた車たちを誘導してくれ、通りがかった車がスムーズに通れるようにしてくれていた。

そんな姿を見て申し訳なく思いながらも、私は私でお客さんをさばいていく。


「次の方どうぞーっ!!」


3時間しかない販売時間はあっという間に過ぎていき、私は今日販売予定の予約分全てと当日分を30セット売って初めての店頭販売を終えたのだった。




ーーーーー



「ほんっ・・とうにすみませんでした!」


販売が終わった後に私は近衛さんと三橋さんに頭を下げていた。

警察官という職種の二人に迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「いや、通報があって来たわけじゃないんだよ。気になって見に来たら道路が大変なことになってたからちょっと手伝っただけだから。」


三橋さんの優しい言葉に嬉しく思うものの、自分の考えの甘さが原因で起こったことだ。


「ちょっと読みが甘かったみたいで・・・今思えば数と時間で割り算したら台数くらい考えれたのにと・・・思ってます。」


当日分を入れて今日の販売分はざっと90。

3時間と言う時間で割ったら1時間に30台の車が来るという計算ができるのだ。


「数分に1台の車が来るって予測できたと・・・今さっき計算できました。交通整理のバイトを雇えばよかったと後悔してます。本当に・・・すみませんでした。そして助かりました、ありがとうございます。」


また深く頭を下げてお詫びをし、お礼も伝えていく。

明日をどうしようかと思いながら頭を上げると、近衛さんが口を開いた。


「明日はどうするんだ?」

「・・・・。」

「雇うとしても急すぎて無理だろう?それにバイト代を出してたら利益が減るんじゃないのか?」

「それは・・・そうですけど仕方ないですし・・・。でも急すぎて雇うのはちょっと難しそうなので・・・ちょっと一人一人に来る時間を聞いて分散させようかと・・・」


それが一番手っ取り早いと考えたのだ。

でも・・・


「それだと連絡が取れない人もいるんじゃないか?」

「それは・・・」


その通りだった。

連絡が取れた人だけ分散してもらって、連絡が取れなかったらそこは諦めるしかないのだ。


「それならもっと手っ取り早い方法がある。」

「え?もっと手っ取り早い方法?そんなのあるんですか?」


私の頭じゃ思いつかずに首を傾げると、近衛さんと三橋さんは二人で目を合わせて笑ったのだ。


「俺たち、明日非番だから手伝ってやるよ。」

「うんうん。僕も暇だし、交通整理は得意だから任せて?」

「!?」


『もっと手っ取り早い方法』は、なんと『二人が手伝う』というものだったのだ。


「やっ・・・!それは申し訳ないです!今日だって手伝っていただいたのに・・・!」


二日も連続で手伝ってもらうなんて申し訳なさすぎることだ。

それに加えて明日、二人は仕事が休み。

せっかくの休みを私の仕事に付き合ってもらうわけにはいかない。


「3時間だけなんだし気にしないで。」

「そうそう。それに明日は交番には誰も来ないから通報あっても困るし?」

「うっ・・・・」


私一人で対処していてもし、道路が混雑してしまったら大変なことになる。

これからも店頭販売を続けるのなら、ここでコケるわけにはいかないのだ。


「・・・お・・お願いしてもいいでしょうか・・・。」


今できる最善の対処法だった。


「もちろん。」

「じゃあ明日、9時に来るよ。」

「すみません、よろしくお願いいたします・・・。」


制服姿の二人を見送り、私は机や箱たちを工場の中に戻していった。

そして明日の二人へのお礼を用意していく。


「ちょっとおしゃれな封筒で・・・あまり賑やかじゃないやつ・・・」


親戚のお祝用にと買っておいたご祝儀袋の中から『お礼』に使えそうなものを選び、その中に1万円札を1枚入れる。

もちろん新札で、二人分だ。


「バイト雇ってたらこれくらいだし・・休みの日にわざわざ来てくれるんだから必要経費だね。」


明日販売が終わったら渡すことにし、私は初日を終えたのだった。





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