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桃が結城に抱かれてから二日後。

二人は夕方過ぎに桃のアパートに向かっていた。


「よかったね、アルバイトの子が早く来てくれて・・・。」


運転しながら言うと、桃は嬉しそうにそのアルバイトの子の話をし始めた。


「そうなんです、ミキちゃんっていうんですけどすごくよく働いてくれてて・・・一番頼りになるんですー。」

「へぇー・・・俺でいう佐伯みたいな感じかな?」

「はいっ。・・・あ、佐伯さんは大和さんとどうやって出会ったんですか?」

「あー・・・あいつは元々『なんでも屋』みたいな仕事してたんだけど、その会社が潰れたときにうちに飛び込んできたんだよ。」

「飛び込みですか!?」

「そう。」


俺は佐伯がうちの会社に来た経緯を桃に話した。

立ち上げた会社が軌道に乗り始めた頃、忙しくて忙しくてスケジュール管理が難しくなったころに佐伯が飛び込みで入ってきて、『秘書をやらせてください!なんでもします!!』と言って社長室から出て行こうとしなかったことを。


「え・・結構頑固・・・」

「そうなんだよ。いくら『帰れ』って言っても全然聞いてくれなくてさー・・・こっちが折れたくらい。」

「でもそれがきっかけで佐伯さんと大和さんがいい感じに・・・?」

「うん。なんでも屋をしてただけのことはあって、スケジュール管理は上手いし、先々回って準備してくれるし?今となれば雇って正解だったと思ってる。」


今回のことも佐伯に任せたところが多く、ボーナスは上乗せが決定だった。


「へぇー。じゃあお給料もそれなりに・・?」

「あいつ、かなりの高給取りだと思うよ?24時間勤務・・・ってわけじゃないけど呼び出したらすぐ来て仕事してくれるからだいぶ払ってる。」

「すごい・・・。」


佐伯のおかげで拡大した事業もある。

いづれ何らかの形でその報酬は払わないといけないけど、今はまだプールさせてもらってるのだ。


(あんまでかい金額にならなきゃいいけど・・・。)


そんなことを考えてるうちに桃のアパートに到着し、俺たちは車から降りた。

辺りを見回しながら二階にある桃の部屋に向かう。


「一緒に入る?それとも俺、ここで待ってる?」


部屋の前まで来た時、桃が鞄から鍵を取り出したのを見てそう聞いた。

付き合ってるとはいえプライベートな空間は簡単に侵入していいものじゃない。


「そう・・ですね、ちょっとゴミが気になるんで待っててもらえますかー・・・?」

「うん。ここにいるから何かあったら呼んで?」

「はいっ。」


鍵穴に鍵を差し込み、部屋の鍵を開けた桃はゆっくり扉を開き、中に入っていった。

俺は外で壁にもたれかかるようにして外を見ながら、桃が呼んでくれるのを待つ。


「桃の部屋ってどんなのかな?さっぱりしてるのか、それとも好きな物で埋められてるのか・・・。」


心弾ませながら待つ俺だったけど、桃は一向に俺を呼んでくれない。

腕時計を確認するともう15分ほど時間が経っていた。


「ゴミ・・まとめるくらいならこんなに時間かからないよな?何かあった・・?」


そう思ったとき、部屋の中から『ゴンっ・・!!』という大きな音が聞こえてきた。

何事かと思ってドアを開けて中を見ると、部屋の中に・・・桃の元カレがいたのだ。


「お前・・・何をしてる!?」


ヨレてしわくちゃなTシャツに土で汚れたズボンを履いていた桃の元カレは部屋の隅で壁に向かうようにして膝をついていた。

手を真っ直ぐ壁のほうに伸ばしてるのが見えるけど、その先には・・・桃がいたのだ。

壁に押しやられて首を絞められてる桃の顔が俺の視界に入る。


「その手を離せっ!!!」


俺は靴も脱がずにそのまま桃の部屋に飛び入った。

何も考えずに男のもとに一直線に向かい、右手を握りしめてt思いっきり引いてから男の顔めがけてその拳を突き出した。


「ぐはっ・・っ!!」


男は衝撃で床に倒れ込み、それと同時に桃の首から手が離れた。


「桃・・!大丈夫!?」


そう聞きながら桃を見たとき、俺はゾッとした。

桃は服を脱がされていて何も身に纏ってなかったのだ。


「ごほっ・・!ごほっ・・!!はぁっ!はぁっ・・!」


頭を壁にもたれかからせながら目を閉じて、酸素を求めて必死に息をする桃。

俺は自分のワイシャツを脱ぎながら佐伯に電話をかけた。


「俺だ。桃のアパートまで来てくれ。警察連れて。」


そう言うと佐伯はただ一言『わかりました!』と言って電話を切った。

脱いだワイシャツを桃にかけ、佐伯や警察が来ても肌が見えないようにしていく。


「桃・・・?もう大丈夫だよ・・?」


屈みながら桃の頬に手を伸ばしたとき、桃が薄っすら目を開けた。

そして・・・


「いっ・・いやぁっ・・・!!」

「桃?」

「やだ・・っ!来ないでっ・・・!」


頭を抱えるようにして身を小さくする桃。

無理矢理抱きしめるなんてことできず、俺は伸ばした手をぎゅっと握りしめるしかできなかった。


「せっかく桃が前を向こうとしてたときに・・・よくも邪魔してくれたなぁ・・・。」


俺は立ち上がり、さっき殴り飛ばした男の体を足で踏みながら見下ろした。


「ひっ!?」

「『ひっ』じゃねーんだよ。散々警察から忠告受けといてこんな愚行に走るなんていい度胸してるじゃねーか、おい。」


胸ぐらをつかみ上げ、Tシャツの繊維がぶちぶちと切れる音を聞きながらその体を起こさせる。

そして壁に思いっきり押し付け、片手で男の首をぎゅっと掴んだ。


「うぐっ!?」

「お前と同じことしてやるよ。・・・あ、気絶なんか生易しいことしないからな?ギリギリで手を離してやる。それでまた絞めてやるよ。光栄に思え。」

「ぐっ・・!?うっ・・・!?」


少しずつ力を加えて息ができないように調節していく。

こんなことを弱い女の子にしてるこの男の愚行に共感なんてできるはずもなく、今、この瞬間でさえ吐き気がしそうだった。

でもこいつが桃にしたことは許せるようなものではなく、法より俺が捌きたかったのだ。


「ぅぐっ・・・!放ぜっ・・!!」

「へぇー、まだ喋れるのか。力で俺に勝てると思うなよ?」


苦しさからか、逃げたさからか、男は暴れていた。

俺の手を離そうと必死に腕を掴んでくるけど俺の腕はぴくりとも動かない。

例え強い力だったとしても、放す気なんてさらさらないのだ。


「そろそろ一回、落ちるギリギリまで行こうか。」


そう言って指にクッと力を入れたとき、部屋の扉がバンっ・・!!と開く音が聞こえた。


「・・・社長!!やめてください!!」


その声にゆっくり振り返ると、部屋の玄関のとこに佐伯が立ってるのが見えた。


「佐伯・・・」

「桜庭さんには・・隠すって決めたんでしょ!?」

「!!」





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