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気付き。
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声のしたほうを見ると、そこには結城さんの姿があったのだ。
「!?・・・結城さん!?」
「なんでここに・・・って、え!?働いてるの!?」
「あ・・・・」
私は私がここにいる理由を大雑把に結城さんに説明した。
本社の人がどうこう言ってきたのは伏せて、今日から復帰することになったことも一緒に伝える。
すると結城さんは深いため息を漏らした。
「はぁー・・・・熱あったんだし、あんなことがあったんだから休養させないとだめだろ。本社は何してんだよ・・・。」
「あ・・・それはちょっと期待できそうにない・・というか・・・」
回りに見えるお客さまに視線を向けると、結城さんは察してくれたのか私の手元にあるボウルを覗き込んできた。
「ちょっとこれは予測つかないけど・・・とりあえず全部売れたら閉店って感じ?」
「え?・・・あ、そうですね。あとは店内のお客さまが出られたら閉店するしかないので・・・」
今日の目標売上は達成してるし、提供できるものももうドリンクのみになってくる。
なら閉店してしまっても何の問題もないのだ。
「じゃあ残りを全部もらうよ。1時間あったら閉店にできる?」
「へっ・・!?」
「1時間後に迎えに来るから裏口で待ってて。わかった?」
そう言って結城さんはポケットから財布を取り出した。
「その残りでいくつくらい作れるの?」
「え?・・・あ、たぶん30個くらいかと・・・」
「ならこれで。」
結城さんは財布から1万円札を取り出してレジの横に置いた。
「あとで秘書に取りに来させるから作っておいてくれる?おつり、あるならあとで受け取るから持っておいて?」
「??・・・はい・・・?」
「じゃああとで。」
そう言って結城さんはお店から出て行ってしまった。
あまりの早業にぽかんと口を開けてしまっていた私だけど、ハッと我に返ってお店の外に出た。
『CLOSE』の看板を出して、お店の入口のところに置く。
「え?え?・・・私、閉店作業で合ってるんだよね・・・?」
残りの卵を使ってサンドイッチを作り、頂いた1万円で清算をする。
そのサンドイッチはあとで結城さんの秘書さんが取りに来るから渡して、今、店内にいる人がお店を出たら閉めて裏口に行く。
1時間後に結城さんが迎えに来てくれるから、その時におつりを渡す・・・ことで合ってるはずだ。
「あれ・・もしかして結城さん・・怒ってた・・・?」
初めて聞いたかもしれないくらい呆れたようなため息を聞いたような気がする。
ちゃんと言うことを聞かないダメな女だと嫌われたらどうしようと不安がよぎる。
「謝る・・べきだよね・・・?」
事情があるとはいえ、働くことを決めたのは私だ。
私に全ての責任がある。
「ちゃんと謝ろう・・!」
そう決めて私はサンドイッチを作り始めた。
もう『CLOSE』看板を出してるからお客さまが来店されることはなく、ゆっくり作業ができる。
「サンドイッチを30個もどうするんだろう・・・あ、会社の人に配るのかな?」
買ってくれたのは嬉しいけど、無理に買ってくれたのなら申し訳ない気持ちだった。
私のせいでこの卵の数になったわけではないけど、私のせいで結城さんは残りのサンドイッチを買ってくれたのかもしれないのだ。
「・・・お金、全部返そう。」
せめてもの償いとして代金をもらわないことに決めた私は、自分の財布からお金を支払うことにした。
サンドイッチを作ってる間に店内にいたお客さまは帰られ、黙々と一人で作ることに。
そして全部を作り終えたとき、お店にひょこっと顔を出してくれてる一人の男の人の姿が目に入ったのだ。
「?」
「・・・あ、桜庭店長さんですか?」
「え?・・・あ、はい。そうですが・・・」
「わたくし、佐伯と申します。『YKホールディング』で結城の秘書をしております。」
「あ!!・・・結城さんにはいつもお世話になっております。」
頭を深く下げると、佐伯さんは『CLOSE』の看板を避けながら店の中に入って来た。
「いえいえ、こちらこそいつも結城がぐぃぐぃいってるのではないかと・・・ご迷惑をおかけしてすみません。」
「いえ・・私こそこの数日お世話になりっぱなしで・・・」
「あ、一昨日の夜は結城が会社に戻って来なかったので何かあったのかと心配しましたが、桜庭さんと一緒だったと聞いて安心しましたよー。」
「え?」
「もう1年以上桜庭さんのことを見ていましたからねぇ・・・やっと実ったのを見て私も一安心です!・・・あ、こちらがサンドイッチですか?」
「え?・・・あ、はい。そうです・・・ね・・」
「じゃあ頂いていきますね!やー・・ほんとおいしそうです!ありがとうございます!」
そう言って佐伯さんはサンドイッチが入ったボックスを両手に持ち、お店から出て行った。
その後姿をぽかんと見つめながら、さっきの言葉を思い返す。
「1年以上私を見てたって・・・確か結城さんに最初に言われたような・・・」
ホテル代の支払いで頭がいっぱいの時に持ち掛けられた『お願い』の時のことだ。
もう1年以上私のことを見てたと言われたけど、内心『そんなことない』と思って聞き流していたのだ。
それを思い返され、結城さんが一体どんな気持ちで私の側にいてくれたのか思い知らされてしまう。
「嘘・・拷問だよね・・・?」
『好きだ』と伝えて返事を待ちながらのデートのようなお出掛け。
熱を出したときは朝まで一緒にいてくれて・・・結城さんの立場から考えたら早く返事が欲しいに決まっていた。
なのにちゃんと『待つ』と言ってくれたのは私のことを想ってくれてるからで・・・
「すっ・・!すぐ返事・・・!」
あと5日も待たせることなんて考えられず、私はスマホを手に取った。
でも結城さんの連絡先を聞いてないことに気がつき、スマホを握りしめたままその場にしゃがみ込む。
「あぁぁぁ・・・・」
今、連絡ができなくても、もう少ししたら結城さんが私を迎えに来てくれる。
それまで待つしかない。
「うぅぅ・・・ほんとにすみません、結城さん・・・」
いろいろいっぱいいっぱいだったことは言い訳にならない。
会ったときにひたすら謝ることを決めて立ち上がったとき、店の入り口に人が立ってるのが見えた。
あれは・・・慎太郎だ。
「!!」
「よぉ、桃。」
「!?・・・結城さん!?」
「なんでここに・・・って、え!?働いてるの!?」
「あ・・・・」
私は私がここにいる理由を大雑把に結城さんに説明した。
本社の人がどうこう言ってきたのは伏せて、今日から復帰することになったことも一緒に伝える。
すると結城さんは深いため息を漏らした。
「はぁー・・・・熱あったんだし、あんなことがあったんだから休養させないとだめだろ。本社は何してんだよ・・・。」
「あ・・・それはちょっと期待できそうにない・・というか・・・」
回りに見えるお客さまに視線を向けると、結城さんは察してくれたのか私の手元にあるボウルを覗き込んできた。
「ちょっとこれは予測つかないけど・・・とりあえず全部売れたら閉店って感じ?」
「え?・・・あ、そうですね。あとは店内のお客さまが出られたら閉店するしかないので・・・」
今日の目標売上は達成してるし、提供できるものももうドリンクのみになってくる。
なら閉店してしまっても何の問題もないのだ。
「じゃあ残りを全部もらうよ。1時間あったら閉店にできる?」
「へっ・・!?」
「1時間後に迎えに来るから裏口で待ってて。わかった?」
そう言って結城さんはポケットから財布を取り出した。
「その残りでいくつくらい作れるの?」
「え?・・・あ、たぶん30個くらいかと・・・」
「ならこれで。」
結城さんは財布から1万円札を取り出してレジの横に置いた。
「あとで秘書に取りに来させるから作っておいてくれる?おつり、あるならあとで受け取るから持っておいて?」
「??・・・はい・・・?」
「じゃああとで。」
そう言って結城さんはお店から出て行ってしまった。
あまりの早業にぽかんと口を開けてしまっていた私だけど、ハッと我に返ってお店の外に出た。
『CLOSE』の看板を出して、お店の入口のところに置く。
「え?え?・・・私、閉店作業で合ってるんだよね・・・?」
残りの卵を使ってサンドイッチを作り、頂いた1万円で清算をする。
そのサンドイッチはあとで結城さんの秘書さんが取りに来るから渡して、今、店内にいる人がお店を出たら閉めて裏口に行く。
1時間後に結城さんが迎えに来てくれるから、その時におつりを渡す・・・ことで合ってるはずだ。
「あれ・・もしかして結城さん・・怒ってた・・・?」
初めて聞いたかもしれないくらい呆れたようなため息を聞いたような気がする。
ちゃんと言うことを聞かないダメな女だと嫌われたらどうしようと不安がよぎる。
「謝る・・べきだよね・・・?」
事情があるとはいえ、働くことを決めたのは私だ。
私に全ての責任がある。
「ちゃんと謝ろう・・!」
そう決めて私はサンドイッチを作り始めた。
もう『CLOSE』看板を出してるからお客さまが来店されることはなく、ゆっくり作業ができる。
「サンドイッチを30個もどうするんだろう・・・あ、会社の人に配るのかな?」
買ってくれたのは嬉しいけど、無理に買ってくれたのなら申し訳ない気持ちだった。
私のせいでこの卵の数になったわけではないけど、私のせいで結城さんは残りのサンドイッチを買ってくれたのかもしれないのだ。
「・・・お金、全部返そう。」
せめてもの償いとして代金をもらわないことに決めた私は、自分の財布からお金を支払うことにした。
サンドイッチを作ってる間に店内にいたお客さまは帰られ、黙々と一人で作ることに。
そして全部を作り終えたとき、お店にひょこっと顔を出してくれてる一人の男の人の姿が目に入ったのだ。
「?」
「・・・あ、桜庭店長さんですか?」
「え?・・・あ、はい。そうですが・・・」
「わたくし、佐伯と申します。『YKホールディング』で結城の秘書をしております。」
「あ!!・・・結城さんにはいつもお世話になっております。」
頭を深く下げると、佐伯さんは『CLOSE』の看板を避けながら店の中に入って来た。
「いえいえ、こちらこそいつも結城がぐぃぐぃいってるのではないかと・・・ご迷惑をおかけしてすみません。」
「いえ・・私こそこの数日お世話になりっぱなしで・・・」
「あ、一昨日の夜は結城が会社に戻って来なかったので何かあったのかと心配しましたが、桜庭さんと一緒だったと聞いて安心しましたよー。」
「え?」
「もう1年以上桜庭さんのことを見ていましたからねぇ・・・やっと実ったのを見て私も一安心です!・・・あ、こちらがサンドイッチですか?」
「え?・・・あ、はい。そうです・・・ね・・」
「じゃあ頂いていきますね!やー・・ほんとおいしそうです!ありがとうございます!」
そう言って佐伯さんはサンドイッチが入ったボックスを両手に持ち、お店から出て行った。
その後姿をぽかんと見つめながら、さっきの言葉を思い返す。
「1年以上私を見てたって・・・確か結城さんに最初に言われたような・・・」
ホテル代の支払いで頭がいっぱいの時に持ち掛けられた『お願い』の時のことだ。
もう1年以上私のことを見てたと言われたけど、内心『そんなことない』と思って聞き流していたのだ。
それを思い返され、結城さんが一体どんな気持ちで私の側にいてくれたのか思い知らされてしまう。
「嘘・・拷問だよね・・・?」
『好きだ』と伝えて返事を待ちながらのデートのようなお出掛け。
熱を出したときは朝まで一緒にいてくれて・・・結城さんの立場から考えたら早く返事が欲しいに決まっていた。
なのにちゃんと『待つ』と言ってくれたのは私のことを想ってくれてるからで・・・
「すっ・・!すぐ返事・・・!」
あと5日も待たせることなんて考えられず、私はスマホを手に取った。
でも結城さんの連絡先を聞いてないことに気がつき、スマホを握りしめたままその場にしゃがみ込む。
「あぁぁぁ・・・・」
今、連絡ができなくても、もう少ししたら結城さんが私を迎えに来てくれる。
それまで待つしかない。
「うぅぅ・・・ほんとにすみません、結城さん・・・」
いろいろいっぱいいっぱいだったことは言い訳にならない。
会ったときにひたすら謝ることを決めて立ち上がったとき、店の入り口に人が立ってるのが見えた。
あれは・・・慎太郎だ。
「!!」
「よぉ、桃。」
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