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元カレ参上。
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ーーーーー
「店長ー!お先に失礼しまーす!」
桜の舞い散る四月の木曜日。
アルバイトで働いてくれてる『ミキちゃん』がバックヤードから声をかけてきた。
店内にある時計を見ると時間は午後七時。
アルバイトの子たちがみんないなくなり、閉店まで店長である私が一人になる時間だ。
「あ、お疲れさまー!また明日もよろしくね?」
「はーいっ!」
パタパタと走る音が遠くなっていくのを聞きながら、私は閉店の準備に取り掛かった。
私が働いてるこのカフェの閉店時間は午後八時なのだ。
「もうお客さまも来ないかなー?」
昼から夕方は賑わう店内だけど、今はがらんとしていた。
夜にカフェに来る人はあまりいないのだ。
「奥の方の椅子を上げて掃除しちゃお。」
ダスターを手に取り、少し濡らしてから私は一番奥のテーブルを拭いていった。
そして椅子をテーブルの上にあげ、席数を減らしていく。
「3テーブルくらい残しておいたら大丈夫かな?」
全部で10テーブルほどしかない店内は狭く、私一人での掃除も時間はかからない。
鼻歌を歌いながら順番に椅子を上げていくと、ちょうど最後の一つを上げたときにお店の扉が開く音が聞こえてきた。
カランカラン・・・
「いらっしゃませ。何名様でしょ・・・・・」
そう言いながらお店の入口を見ると、そこには知ってる男が立っていた。
「よぉ、桃。」
「---っ!」
不気味な笑みを浮かべながら店に入ってきたのは私の元カレだった。
無精ひげを生やし、よれたTシャツと汚れたジーンズを身に纏ってる。
「どうしてここがわかったの・・・」
手に持っていたダスターをぎゅっと握りながら聞くと、元カレ・・・『慎太郎』は両手を大きく広げて自信ありげに話し始めた。
「はっ・・!『どうして』?・・・そんなの決まってるだろ?探偵を雇ったんだよ。」
「探偵・・・?」
「お前が姿を消して1年・・・。どれだけ探したと思ってんだよ!!」
そう言って慎太郎は近くにあったテーブルを蹴り飛ばした。
「きゃぁっ・・・!?」
ガンっ・・!!という大きな音に驚いた私はその場にしゃがみ込んでしまった。
本能的に頭を守るように手で押さえ、身を小さくしてしまう。
「わっ・・私は別れるって言った・・!慎太郎も『いい』って言ったじゃない・・!」
1年前、慎太郎との交際に『もう無理だ』と思った私は別れを切り出した。
すると慎太郎はあっさり認めてくれ、私はそのまま遠くに引っ越したのだった。
「は・・・?お前は俺無しじゃ生きていけないだろ?そろそろ別れたことを後悔してると思ってこうして迎えに来てやったんじゃないか!!」
その言葉を聞いて、私は理解ができなかった。
『俺無しじゃ生きていけない』とか『別れたことを後悔』とか、一体何を言ってるのかわからなかったのだ。
「ほらさっさと戻って来い!!帰るぞ!!」
そう言って慎太郎は私の前までずんずん進んできて腕を掴んだ。
ガシッと握られた手に優しさの欠片なんてなく、骨が折れそうに痛いだけだった。
「痛ぃっ・・・!!」
「立てよ!!」
手を引き上げられて無理矢理立たされたとき、お店の扉が開く音が聞こえた。
「・・・こんばんは、桜庭店長。営業妨害としてその男、取り押さえてもらいますね。」
少し低めの甘い声でそう言ったのは、このカフェの常連さん『結城』さんだった。
「は?お前、何言ってんの?」
慎太郎は私の手を離し、結城さんにゆっくり近づいていった。
暴力癖のある慎太郎は結城さんを力でどうにかしようと思ってるようで、首を左右に傾けてゴキゴキと鳴らしてる。
「何って・・・営業妨害は営業妨害だろう?あとは暴行罪も成立するんじゃないか?」
「暴行罪?何言って・・・・」
その時、また扉が開く音が聞こえた。
そしてカフェの中に入ってきたのは・・・複数人の警察官だった。
「!?」
「通報を受けたもので・・・ちょっと署まで同行願いますかね。」
そう言われ、慎太郎は後ずさりを始めた。
「おっ・・・俺は何もしてない!!」
「署でお話聞きたいですねー。」
「!!・・・ちっ!!」
慎太郎は警察官に捕まりたくなかったのか、踵を返して私の方に戻って来た。
その表情は『どうにかしてここから逃れたい』というものではなく、『私を人質にして逃げる』と思ってる不気味な笑顔だった。
「---っ!!」
危険を感じた私は咄嗟に近くのテーブルの下に潜り込んだ。
背が高くない私は一番奥まで入り込むことができ、慎太郎は端から必死に手を伸ばすけど私の体に掠ることすらできない。
「おい!!桃!!こっちに来い!!!」
そう叫んでるうちに警察官が慎太郎を取り押さえてくれ、慎太郎は二人の警察官に両脇を抱えられるような形でカフェから出て行かされた。
「くそっ・・!!放せ!!俺は悪くない!!俺は桃を迎えに来ただけだ!!」
「はいはい、署で聞きますねー。」
抵抗しながら連れていかれる姿をテーブルの隙間から見ていた私は、恐怖のあまり手で自分の鼻と口を押えていた。
心臓はバクバクとうるさく鳴り、もう息を吸ってるのか吐いてるのか分からない。
「桜庭店長?もう大丈夫ですよ?出てきてください。」
テーブルの端で屈み、私を呼ぶ結城さんの姿が霞んで見えた。
動こうにも恐怖からか体が動かず、だんだん意識が遠のいていくのを感じる。
「ぁ・・・・・」
「!?・・ちょ・・!桜庭店長!?」
私はそのまま意識を失い、テーブルの下で倒れてしまった。
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「店長ー!お先に失礼しまーす!」
桜の舞い散る四月の木曜日。
アルバイトで働いてくれてる『ミキちゃん』がバックヤードから声をかけてきた。
店内にある時計を見ると時間は午後七時。
アルバイトの子たちがみんないなくなり、閉店まで店長である私が一人になる時間だ。
「あ、お疲れさまー!また明日もよろしくね?」
「はーいっ!」
パタパタと走る音が遠くなっていくのを聞きながら、私は閉店の準備に取り掛かった。
私が働いてるこのカフェの閉店時間は午後八時なのだ。
「もうお客さまも来ないかなー?」
昼から夕方は賑わう店内だけど、今はがらんとしていた。
夜にカフェに来る人はあまりいないのだ。
「奥の方の椅子を上げて掃除しちゃお。」
ダスターを手に取り、少し濡らしてから私は一番奥のテーブルを拭いていった。
そして椅子をテーブルの上にあげ、席数を減らしていく。
「3テーブルくらい残しておいたら大丈夫かな?」
全部で10テーブルほどしかない店内は狭く、私一人での掃除も時間はかからない。
鼻歌を歌いながら順番に椅子を上げていくと、ちょうど最後の一つを上げたときにお店の扉が開く音が聞こえてきた。
カランカラン・・・
「いらっしゃませ。何名様でしょ・・・・・」
そう言いながらお店の入口を見ると、そこには知ってる男が立っていた。
「よぉ、桃。」
「---っ!」
不気味な笑みを浮かべながら店に入ってきたのは私の元カレだった。
無精ひげを生やし、よれたTシャツと汚れたジーンズを身に纏ってる。
「どうしてここがわかったの・・・」
手に持っていたダスターをぎゅっと握りながら聞くと、元カレ・・・『慎太郎』は両手を大きく広げて自信ありげに話し始めた。
「はっ・・!『どうして』?・・・そんなの決まってるだろ?探偵を雇ったんだよ。」
「探偵・・・?」
「お前が姿を消して1年・・・。どれだけ探したと思ってんだよ!!」
そう言って慎太郎は近くにあったテーブルを蹴り飛ばした。
「きゃぁっ・・・!?」
ガンっ・・!!という大きな音に驚いた私はその場にしゃがみ込んでしまった。
本能的に頭を守るように手で押さえ、身を小さくしてしまう。
「わっ・・私は別れるって言った・・!慎太郎も『いい』って言ったじゃない・・!」
1年前、慎太郎との交際に『もう無理だ』と思った私は別れを切り出した。
すると慎太郎はあっさり認めてくれ、私はそのまま遠くに引っ越したのだった。
「は・・・?お前は俺無しじゃ生きていけないだろ?そろそろ別れたことを後悔してると思ってこうして迎えに来てやったんじゃないか!!」
その言葉を聞いて、私は理解ができなかった。
『俺無しじゃ生きていけない』とか『別れたことを後悔』とか、一体何を言ってるのかわからなかったのだ。
「ほらさっさと戻って来い!!帰るぞ!!」
そう言って慎太郎は私の前までずんずん進んできて腕を掴んだ。
ガシッと握られた手に優しさの欠片なんてなく、骨が折れそうに痛いだけだった。
「痛ぃっ・・・!!」
「立てよ!!」
手を引き上げられて無理矢理立たされたとき、お店の扉が開く音が聞こえた。
「・・・こんばんは、桜庭店長。営業妨害としてその男、取り押さえてもらいますね。」
少し低めの甘い声でそう言ったのは、このカフェの常連さん『結城』さんだった。
「は?お前、何言ってんの?」
慎太郎は私の手を離し、結城さんにゆっくり近づいていった。
暴力癖のある慎太郎は結城さんを力でどうにかしようと思ってるようで、首を左右に傾けてゴキゴキと鳴らしてる。
「何って・・・営業妨害は営業妨害だろう?あとは暴行罪も成立するんじゃないか?」
「暴行罪?何言って・・・・」
その時、また扉が開く音が聞こえた。
そしてカフェの中に入ってきたのは・・・複数人の警察官だった。
「!?」
「通報を受けたもので・・・ちょっと署まで同行願いますかね。」
そう言われ、慎太郎は後ずさりを始めた。
「おっ・・・俺は何もしてない!!」
「署でお話聞きたいですねー。」
「!!・・・ちっ!!」
慎太郎は警察官に捕まりたくなかったのか、踵を返して私の方に戻って来た。
その表情は『どうにかしてここから逃れたい』というものではなく、『私を人質にして逃げる』と思ってる不気味な笑顔だった。
「---っ!!」
危険を感じた私は咄嗟に近くのテーブルの下に潜り込んだ。
背が高くない私は一番奥まで入り込むことができ、慎太郎は端から必死に手を伸ばすけど私の体に掠ることすらできない。
「おい!!桃!!こっちに来い!!!」
そう叫んでるうちに警察官が慎太郎を取り押さえてくれ、慎太郎は二人の警察官に両脇を抱えられるような形でカフェから出て行かされた。
「くそっ・・!!放せ!!俺は悪くない!!俺は桃を迎えに来ただけだ!!」
「はいはい、署で聞きますねー。」
抵抗しながら連れていかれる姿をテーブルの隙間から見ていた私は、恐怖のあまり手で自分の鼻と口を押えていた。
心臓はバクバクとうるさく鳴り、もう息を吸ってるのか吐いてるのか分からない。
「桜庭店長?もう大丈夫ですよ?出てきてください。」
テーブルの端で屈み、私を呼ぶ結城さんの姿が霞んで見えた。
動こうにも恐怖からか体が動かず、だんだん意識が遠のいていくのを感じる。
「ぁ・・・・・」
「!?・・ちょ・・!桜庭店長!?」
私はそのまま意識を失い、テーブルの下で倒れてしまった。
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