シンデレラストーリーだけじゃ終われない!?

すずなり。

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本当の家族。

亜子とピアノの部屋。

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歩きながら聞いた直哉に、先生は言うか悩んだものの家族のことだからと思って話すことにした。


「実は・・・」


先生は直哉に、昼くらいから亜子の姿が消えたこと、誰も見つけれてないことを伝えた。

それは保護者に連絡したこともだ。


「亜子がいないんですか!?」


思っても見なかった先生の言葉に、直哉は顔が青ざめた。

学校でのことは、どこか自分が管理しないといけない気がしていた直哉は『亜子に何かあったら』と不安に支配された。


「たぶん、教室がわからないだけだと思うから大丈夫。」


そう先生に言われたけど、直哉はじっとなんてしてられなかった。


「俺も探します!」

「見つかったらすぐに言いに行くから教室に行きなさい。」

「でも・・!」

「大人に任せて。・・・わかった?」


先生のいい方に、直哉は何も言えなかった。


「・・・わかりました。」


そう言ってその場を離れたけど、気になって仕方ない直哉は辺りをキョロキョロと見回しながら歩いた。

もしかしたらその辺に亜子がいるかもしれないからだ。


(トイレでも行って迷ってんのか?)


亜子は施設の外に出たことがないと、父親から聞いていた。

学校の中はおそらく初めてだろうから、教室の方向がわからなくなったのかもしれない。

でも、それにしては探してる先生の数が多すぎると、直哉は感じていた。


(すぐに見つかったらいいけど・・・。)


姿が見えない不安と、自分は探しに行けない苛立ちを抱えながら直哉は仕方なく教室に足を踏み入れた。



ーーーーー



同時刻、学校から電話をもらった父親の彰と恭介。

二人は慌てて連絡を取り合っていた。


「父さん!亜子は学校いったんだろ!?」

「行ったよ!先生に連れられて教室に行った!」

「じゃあなんで『行方不明』って連絡が!?」

「それはわからない!探すために一旦家で落ち合おう!」


そんな会話をケータイでした後、二人はお互いに家に向かった。

二人とも車で職場を出たけど、先に家に着いたのは恭介だ。


「学校の中で行方不明ならまだいいけど・・もし外に出てたら・・・。」


不安にかられながら車から下りると、耳に微かに聞こえてくるピアノの音に気がついた。

それは・・・聞き覚えのある音だ。


「・・・かぁさんのピアノ?」


疑問を確信に変えるため、玄関に急いだ。

足を進めるごとに大きくなっていく音は、自宅から聞こえてくる音で間違いはない。


(一体なんでピアノの音が聞こえるんだ・・・?)


そう思いながらドアノブに手をかけると、鍵は開いてなかった。

がっつり聞こえるピアノの音に、空耳なのかと思いながらも鍵を取り出して開けてみる。

すると、外で聞こえてた音がまた大きく聞こえた。


(ピアノの部屋は塞いであるハズなのに・・・。)


そう思って玄関に入ってすぐ左にある棚を見た。

天井近くまである棚は、この先に通じてる部屋の扉を隠す役割をしてる。

『潰すことのできない部屋』を『隠す』役割を・・・。


(泥棒・・がピアノ弾くわけないよな。じゃあ一体誰が・・・)


真実を確かめるためには扉を開けるしかなかった。

どうやって開けようか悩んだ時、玄関の扉からそっと父親が入ってきた。


「恭介・・ピアノの音聞こえるんだけど・・・」


青ざめた顔で俺を見る父親に、人差し指を立てて唇にあてた。

そのまま棚を動かしたい旨を手で伝え、二人でゆっくり棚を動かした。

鳴りやまないピアノの音に怖さを覚えながら、俺はそっと扉を開けた。


「・・・亜子!?」


扉の向こうの・・ピアノの部屋にいたのは亜子だった。

俺の声に気がついたのか、驚いた顔をしてる。


「お兄ちゃん・・・お父さんも・・」

「亜子、学校抜け出して帰ってきたのか?それにしてもどうやってこの部屋に・・・」

「えと・・・」


亜子は言葉に詰まった。

どこから話したらいいのか分からないようだ。


「あの・・学校で?色々あって・・?それで帰ってきたら鍵がかかってて・・えと・・ぐるぐる回ったらここの窓が空いてて入り・・ました。」

「・・・。」


鍵がかかってるのはわかった。

今日、最初に家に帰ってくる予定なのは直哉だ。

それも亜子を連れて帰ってくるように言ってあったから、直哉と一緒に入ればいいと思っていたからだ。


「学校で色々って?」

「それは・・・」


言いたくないのか、亜子は俯いて黙ってしまった。

それを見た父親が・・・口を挟んできた。


「亜子、とりあえずリビングに行かないか?」

「はい・・・。」


亜子は椅子から立ち上がり、ピアノの蓋を閉めて縁を一撫でした。

そのまま扉に向かい、俺たちはリビングに行った。



ーーーーー


「・・・で、何があった?」

「・・・。」


亜子をリビングのソファーに座らせ、俺は隣に座った。

とぅさんは学校に『亜子が見つかった』と連絡を入れて、キッチンで紅茶を淹れてる。


「ちょっと・・いろいろ?あって・・・どうしたらいいのか分からなくなって家に・・・」


手をこねながら言う亜子の手を、ぎゅっと上から握った。


「その『いろいろ』を聞きたいんだけどな。」

「・・・。」


言いたくないのか、言えないのか・・・亜子は俯いて黙ってしまった。


(どう聞いたら話してくれるか・・・。)


亜子と一緒にいる時間はまだまだ短い。

考えが読めなければ、行動パターンもまだわからないでいた。

悩みながら天井を仰いだとき、亜子が口を開いた。


「あの・・お兄ちゃん・・・?」

「なんだ?」

「その・・コンタクトって・・私もできますか・・?」

「!!」


その言葉を聞いて、俺ととぅさんは顔を見合わせた。

おそらく学校で・・眼のことを言われたのだろう。


(コンタクトは・・亜子には早すぎる。まだ成長途中の身体には負担のリスクの方が大きい。)


目は大事だ。

外からの情報の90%以上を視覚から取り入れてる。

その目を傷つけるようなことは避けたい。


「そ・・うだな。亜子はその眼、隠したいのか?」


そう聞くと亜子は無言で頷いた。


「もっと亜子の身体が大きくなって、これ以上大きくならないってわかったらできるけど・・今は無理だな。」

「そうですか・・・。」


明らかに落ち込む亜子に、とぅさんが紅茶を持って来た。


「亜子、学校は行きたくなかったら行かなくていいよ?中学だし。」


とぅさんの言葉に、亜子はパッと顔を上げた。


「そうなんですか!?」

「まぁ、何回かは行ったほうがいいけど・・・無理に行く必要はない。ただ、お勉強はしないとね。」

「家でお勉強・・ですか?」

「そう。とりあえず明日、試験的にしてみる?」


亜子は制服のスカートを指で少し摘まみながら、悩んだ顔を見せた。


「・・・学校行きます。でも・・・」

「でも?」

「明日は・・家でのお勉強したいです・・・。」


とぅさんと俺は、同時に亜子の頭を撫でた。

小さい身体で、一生懸命考えて出した答えだったから。


「よし。・・・ところで亜子、ピアノ・・習ってたのか?」


ピアノの部屋を開ける前から聞こえてた亜子の演奏。

拙さがあるものの、ちゃんと『演奏』になっていた。


「習ってないです。音の出るピアノ、初めて触りました。」


その言葉に、俺ととぅさんは思わず大きな声で聞き返してしまった。


「は!?」

「初めて!?」

「?・・はい。」


俺はリビングにあるかぁさんの写真を見た。

そして亜子を見る。

同じ髪色に、同じ眼の色。

輪郭も何もかもそっくりな二人に、俺は思ったことがあった。

かぁさんにそっくりな亜子は・・・もしかしたらかぁさんの才能を受け継いでるのかもしれないと・・。


「でも指は練習しないと動かないハズだけど・・・。」


才能を受け継いだところで、それをものにするには練習が必要だ。

それはどの世界でも共通する。


「あ、えーと・・壊れたピアノがあって・・時々その部屋で弾いてました。」

「壊れたピアノ?そんなので練習できるのか?」

「音は出ないんですけど、前に一度、テレビでピアノの音を聞いていたんで覚えてます。」


その言葉で亜子はかぁさんから才能を受け継いだことを確信した。


「亜子・・・ちょっと話、聞いてくれる?」

「?・・・はい。」


俺はかぁさんのことを亜子に話した。

前に伝えたのは亡くなったことと亜子とそっくりなことくらいだったから、今度はもっと詳しく話すことにした。


「亜子、亜子のかぁさんは・・・ピアニストだったんだよ。」

「・・・ピアニスト?」

「世界を飛び回るくらい・・有名な人だった。」





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