シンデレラストーリーだけじゃ終われない!?

すずなり。

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本当の家族。

直哉にお兄ちゃんとお出かけ。

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(心療内科のお仕事って・・・どんなだろう。)


お兄ちゃんと同じ『医者』という職業。

その中ででもよくわからない科目だ。

興味はあるけど、私がご飯を食べてるところからは一木さんしか見えない。

『患者』と呼ばれる人が座るであろう場所は壁で見えないのだ。


(『静かに』って言われてるし・・。まぁ、いいや。)


そう思ってお弁当を食べ進めた。

おにぎりを2個食べ、卵焼きを口に放り込んだ時、ドアが開く音が聞こえた。


ガラガラガラ・・・


「・・一木先生。急な診察を受けてくださりありがとうございます。」


優しい声が耳に入ってきた。


「いえいえ、園田そのださんもお忙しいでしょう。どうぞお掛けください。」


ギシっと椅子がきしむ音が聞こえる。


「・・・。」

「・・・。」


椅子がきしむ音が聞こえたあと、会話は聞こえなくなった。

時々どちらかの椅子の音が聞こえるだけだ。


(何も話さないのかな?)


そう思いながらお弁当を食べ進めた私は、二人が何も話さないままに食べ終わってしまった。

音を立てないようにしてお弁当を片付けていく。


「今日も寒いですねー。」

「そうですね。」


二人は天気のことだけを話始めた。

特になんてことのない会話に、私は聞き耳を立てることを諦めてプレイエリアにあるものを見回した。

壁に沿って作られてる棚に、いろんなおもちゃが入ってる。

その中で・・・とても小さいグランドピアノがあることに気がついた。


(あ・・・!)


音を立てないように立ち上がり、そのピアノのところへ行く。

棚の上に置かれていた小さいグランドピアノは黒い色をしていて、鍵盤の数は32。

音がでるのか出ないのかわからない。


(触ってみたい・・・!)


ふいに手が出るけど、すぐにその手を引っ込めた。

一木さんに『静かに』と言われたことを守らないといけないからだ。


(診察が終わったら弾いてもいいよね・・?)


そう思って診察が終わるのを聞き耳立てて待つことにした。

二人は天気や季節の話ばかりしていて肝心の『診察』をするような気配がない。


「今日はお時間あるんですか?」


一木さんがそう聞くと、優しい声をした人が答えた。


「いえ、そろそろ行かないと。」

(!!・・やった!もう出る!)


期待に胸を膨らませながら、私は待った。


「じゃあ。」


そう言って椅子がギシっときしむ音が聞こえた。

ドアがガラガラと音を立てて開けられ、また同じ音を立てて閉まっていく。


「ふふっ・・」


二人が出て行ったところで、私は右手の人差し指で小さいグランドピアノの鍵盤を叩いた。


♪~・・・


「うわぁ・・・!きれいな音・・・。」


施設の『部屋』のピアノは音がでなかった。

施設長の部屋の掃除をしてるときに、時々目に入るテレビでピアノの『音』は知っていた。

でも実際に自分で音を奏でるのは初めてのことだ。


「ふふっ・・・」


私は指が赴くままに鍵盤を叩いた。

きれいな音を重ねていき、その『音』を脳に刻んでいく。


「♪~・・」


初めての体験に酔いしれながら鍵盤を叩いてると、声が聞こえてきた。


「お前・・何者・・?」


その声に驚いた私は手を引っ込め、声のした方をみた。

そこには黒いスーツに身を包み、黒くて長いコートを着た男の人が立っていた。


「え・・え・・・?」

「もう一回弾いてくれ。」

「え?」

「もう一回。」


私は言われるままに鍵盤に手を置いた。

よくわからないままに音を重ねていく。


♪~♬~・・・


(さっき一木さんと出て行ったんじゃなかったんだー・・。)


チラっとこの人を見ると、立ったまま目を閉じてピアノの音を聞いていた。

どこまで弾けばいいのか分からないまま5分ほど弾くと、その人は口を開いた。


「ありがとな。」


そう言って診察室から出て行った。


「なんだったんだろう・・・。」


私はピアノを弾くのをやめ、近くにあった本を手に取った。

床に座ってそれを読み始める。


「えーと・・・。」


私はこの日、お兄ちゃんが迎えにくるまでずっと本を読んでいた。




ーーーーー




翌日・・・

今日は土曜日で朝から直哉お兄ちゃんが家にいた。

目が覚めてリビングに下りて行った私に、直哉お兄ちゃんは声をかけてきた。


「おはよ、亜子。今日俺と出かけない?」

「おはようございますー・・。え、お出かけですか?」


直哉お兄ちゃんはどうしても行きたいところがあるらしく、一緒にと誘ってくれたようだ。


「私が行っていいなら・・行きたいです。」


そう言うと直哉お兄ちゃんは嬉しそうに首を縦に振ってくれた。

一昨日に『亜子のこと、嫌ってない』と言ってくれたことは本当みたいだ。


「よし!じゃあ、朝飯食って、着替えたら行こう!」


私は朝ご飯を急いで食べ、恭介お兄ちゃんに買ってもらった服に着替えた。

そして直哉お兄ちゃんと一緒に家を出る。


「行ってきます!」

「行ってきます・・・。」


家の周辺を歩くのが初めてな私は、辺りをキョロキョロしながら歩いて行く。

道路は車が時々通り、建ち並んでる家からは楽しそうな家族の笑い声が漏れ聞こえてくる。


「どこ行くんですか?」


お兄ちゃんの少し後ろを歩きながらついて行く私は行き先を聞いた。


「俺が通ってるとこ。」

「?」


聞いたところで分からないことは分かっていた。

それでも聞いたけど、やっぱりわからなかった。


「ついてくればわかるから。」


そう言われ、歩いてついていく。

真っ直ぐ歩いたかと思えば、道の角を曲がったり、道路を渡ったり・・・。

自分が今、どこを歩いて来たのか分からなくなるくらい歩いたとき、お兄ちゃんは足を止めた。


「ここ。」

「ここ・・ですか。」


足を止めたところにあったのは大きなビルだ。

1階の自動ドアからはいい匂いがこぼれてる。


「予約入れてるから。」

「?」

「ほら、行くぞ。」


私はお兄ちゃんに手を引かれ、ビルの中に連れて行かれた。






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