シンデレラストーリーだけじゃ終われない!?

すずなり。

文字の大きさ
上 下
13 / 41
本当の家族。

恭介お兄ちゃんの仕事。

しおりを挟む
「私・・お兄ちゃんに嫌われてます・・よね?」


あまりにも唐突な言葉に、俺は持っていたヘアオイルのボトルを床に落とした。

ドサドサといい音が、変に風呂場にこだまする。


「・・・は!?なんで!?」

「昨日・・なんとなくそんな感じがしたんですけど・・。」


昨日は亜子にどう接していいのかわからなかったから喋らなかっただけだ。

『今日から!』と思っていたけど、どうやら亜子は俺に『嫌われた』と思ったらしい。


「・・・。」

「えと・・違いました・・?」


どう説明すればいいものかと悩んだとき、兄の声がリビングの方から聞こえて来た。


「直哉ー!そろそろヤバいぞー!」

「あ!!学校!!」


俺は落としたボトルを拾い集め、俺専用の棚にぶち込んだ。


「帰ってきてから話すけど、俺は亜子を嫌ってるわけじゃないから。じゃな!」


そう言って風呂場からダッシュで部屋に戻った。

まだ部屋着なことに気がついて、急いで着替え、鞄を持って家を飛び出る。


「いってきます!」

「車に轢かれるなよー!」


兄の声が軽く聞こえたところで玄関のドアは閉まった。

俺はそのまま走って・・・学校に向かった。



ーーーーー



直哉が学校に向かって家を出たあと、亜子はリビングに戻った。

そこにいた恭介が、亜子のきれいになった髪の毛を見て呆然と立っていた。


「・・・お兄ちゃん?」

「あ・・ごめん、亜子の髪の毛ってかぁさんにそっくりなんだな。」


そう言われ、私は棚に置いてあるお母さんの写真を覗きに行った。

昨日は髪の毛の色が違うと思っていたけど、さっきキレイにしてもらってからは同じ色に変わっていた。


「本当だ・・・。」


直哉お兄ちゃんがしてくれたドライヤーで、サラサラに仕上がった髪の毛を指ですくう。

今まで体験したことのない感触に、いつまでも触っていられそうだった。


「すごい・・・。」

「・・・直哉は美容師目指してるからな、そういうのは得意だと思うよ。」

「美容師さん!」


そう言われて納得だった。

頭を優しく洗ってもらい、ツヤツヤになるように蒸しタオルで包んでくれた。

いい匂いの何かまで塗ってもらって、こんなにサラサラになるなんて思いもしなかったことだった。


「さて、直哉がキレイにしてくれたことだし、制服と服、買いに行こうか。」

「はいっ。」


恭介お兄ちゃんに連れられて、私は学校用品を売ってるところに連れて行ってもらった。

そこで制服を採寸してもらい、他に学校で必要なものを揃えてもらった。

服屋さんにも連れて行ってもらい、普段着に部屋着にパジャマに下着にとたくさん買ってもらい、家に帰ったのはお昼を回ったころだった。


「亜子、すぐにご飯するからちょっと待ってな?」

「ありがとー・・ございますー・・。」


私は歩くのに疲れて、ソファーに倒れこむようにして座った。

そのままウトウトと眠気に襲われ始める。



ーーーーー




「亜子ー、そういえばアレルギーとか聞くの忘れてたんだけど、無いよなー?」


簡単にうどんにしようと思ってキッチンから声をかけた。

でも亜子から返事が帰ってこない。


「亜子ー??」


気になってソファーを覗きに行くと、亜子は目を閉じて静かに寝息を立てていた。


「zzz・・・。」

「あー・・疲れたよなー・・。」


初めて尽くしの環境に、買い物をして回った。

ただでさえ細っこくて体力もなさそうなのに連れまわしたことを少し後悔した。

でも必要なものを揃えるために仕方ない。


「起きてからでいいか、ご飯。」


俺は自分の部屋に行き、小さめのブランケットを取ってきた。

それを亜子の小さい身体にかける。


「風邪引くなよ?そして明日からもちょっと忙しいからな?」


そう言って亜子の背中をぽんぽんっと叩いた。


ーーーーー


翌日・・・

私は朝から恭介お兄ちゃんと一緒に車に乗っていた。

朝ご飯を食べたあとお弁当を持たされて・・・どこかに行くみたいだ。


「あの・・どこに行くんですか?」


窓の外を見ながら聞くと、お兄ちゃんは窓の外を指差した。

その方角に大きな大きな建物が見える。


「あそこ。俺の仕事場。」

「・・・お仕事?」

「連休も昨日で終わりだから今日から仕事なんだよ。だから亜子は俺の仕事場でいい子で留守番しててくれないか?」

「わかりました。」


仕事があることに驚いたけど、そもそも自分の家族と呼べる人たちが何歳なのかもしらないことに気がついた。


「あの・・お兄ちゃんっていくつなんですか?」

「俺?俺は26だよ。直哉は14。」

「26歳・・!あの、お仕事って・・・」

「医者だよ。内科の医者。」

「お医者さん・・・!?」


窓の外を見ていた視線をお兄ちゃんに移した。

驚く私の頭をぽんぽんっと撫で、お兄ちゃんは続きを話し始める。


「ちょっとずつ知ればいいよ。急がなくていい。知りたいことは聞いてくれたら答えるし。」

「・・・。」

「ほら、もう着くよ。」


そう言われて視線を前に向けると、大きい建物が目の前にあった。

車がたくさんある駐車場に、車は進んで行って止まった。


「よし、ちょっと歩くからなー。」


私はお兄ちゃんの後ろをついて病院の中に入った。




ーーーーー



「亜子、こっち。」


病院の中に入った私はお兄ちゃんに連れられて『心療内科』にやってきた。

診察室らしき部屋をお兄ちゃんはノックする。


コンコン・・・


一木いちき、今日も暇か?」


そう言ってドアを開けた。


「おいおい、随分失礼な言い方だな・・・。」


部屋の中にいた人が笑いながら答えた。


「いつも暇なのは事実だろ?ちょっと頼まれてくれないか?」

「なんだ?」


お兄ちゃんはこの人に私の事を説明し始めた。


「この前言ってた妹。一人で留守番はまだ難しいと思うから連れて来たんだよ。」

「あー・・行方不明だった妹さんか。」

「そうそう。弁当持たせてあるから勤務時間終わるまで預かってくれ。」

「・・・いいけど。暇だから。」


ポンポンと進む会話に、私は二人を交互に見ていた。


「じゃ、よろしくな!時々見に来るわ。亜子、いい子でいろよ?」


そう言ってお兄ちゃんは部屋からでていってしまった。

お兄ちゃんの後ろ姿を見送ったあと、振り返る。


「僕は一木。キミは?」


一木さんは白衣ではなく、ブルーのカッターシャツに黒いパンツを履いてる人だった。

黒縁のメガネをかけていて、椅子に腰掛け、両手を動かしながら話してる。


「二階堂 亜子です。」

「亜子ちゃんか。年はいくつかな?」

「13歳です。」

「お、直哉と一つ違いか。」


一木さんは私に色々聞いてきた。

好きな食べ物や、好きな色、好きな遊びに、好きな匂い。

様々な質問に、答えれるだけ答えていく。


「あ、立ったままでごめんね?よかったらそこのプレイエリアにいろんなものあるから使って?」


一木さんは壁で仕切られた隣の部屋らしきところを指差した。

壁が途切れてるところまで進み、中を覗いてみる。


「うわぁ・・・。」


中はたくさんのもので溢れかえっていた。

小さい子が遊ぶようなおもちゃに絵本、テレビに大きなボールまである。


「すごい・・・。」


そう呟くと一木さんは私の後ろに立った。


「気に入った?好きに遊んでていいよ?二階堂が来るまで一緒に遊んでもいいし。」

「え、あの・・お仕事は・・・?」


遊んでいたら仕事にならないことは私でもわかることだった。


「あぁ、患者は滅多に来ないから大丈夫ー。」


そう言って一木さんは絵本を1冊取り出した。

そしてそれを私に向かって差し出してきた。


「読んでみてくれる?音読で。」

「?・・・はい。」


私はその本を受け取り、パラパラっとめくった。

最初の文字から順番に読んでいく。


「『星の金貨。昔々あるところに女の子がおりました。その女の子はとても貧しく、今日、食べるものにも困っておりました。』」


特に詰まることもなく、読みすすめていき、私は5分くらいで話を読み終えた。


「上手だねー。次は計算とかやってみようか。」


一木さんはどこから出したのか、計算問題が書かれたプリントを出してきた。

プレイエリアにあるテーブルに置いて、問題を解き始める。


「・・・できました。」

「お疲れ様。じゃあ次はこっちもできるかな?」


一木さんは次から次に問題を出してきた。

計算問題が終わったら理科の問題。

それが終わったら今度は社会。

終わる度にプリントを渡され、気がついたら時計はお昼を指していた。


「おや、もうお昼だね。お弁当食べよっか。」


全部終わったのかどうかはわからなかったけど、『お昼』と言われ、私は持たされたお弁当を開けた。

小さいおにぎりが4つに、卵焼きとウィンナーが入ってるやつだ。


「えへへっ、いただきまーす。」


お箸を持って食べ始めようとしたとき、電話が鳴った。


プルルルル・・・


「おっと?ちょっと食べといてねー。」


一木さんは電話に出た。


「はい、心療内科の一木です。はい・・はい、はい・・・大丈夫ですよー。」



そう言って電話を切った。


「亜子ちゃんごめん。患者さん来ることになったからちょっと静かにしててくる?」

「はい。」


私が答えるのと同時に、一木さんは慌ただしく動き始めた。

ロッカーみたいなところから白衣を取り出して羽織っていく。

そして大きな椅子に腰掛けた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...