好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。

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眠りと目覚め。

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桐生side



「寝たな。」

「あぁ。」


一華の目が完全に閉じ、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

その状態を確認し、俺と小森は一華にモニターを装着していく。


「ナースステーションにも情報は送られるし、何か異変があったらこれですぐに気づくな。」

「そうだな。」


仕事があるからずっと一華の側にいることはできない。

機械任せになってしまうが時間ができる度に覗きに来ることを決め、俺と小森は病室を後にしたのだった。




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ーーーーー



一華が薬を飲み始めて1週間の時間が流れたある日、一華が薬を飲む前に俺は少し話をしていた。

薬を飲めば20時間は一華との会話はできなくなる。

病状も良くなってるか確認も兼ねての会話だった。


「1ヶ月も寝てたら歩けなくなりそうだよー・・・。」


ベッドで伸びをしながらふくらはぎを揉んでいく一華。

筋肉が落ちてるのか、細い足がさらに細くなってるように見える。


「薬が終わったらリハビリだな。ある程度回復したら一緒に出掛けてリハビリもいいしな。」


デートの約束をするように言うと、一華の目が輝き始めた。


「ふふっ。じゃー・・・またあのお店でランチしたいなー?」

「あの店って・・・ひよこのとこ?」

「うんっ。」


随分気に入ってくれたのか、嬉しそうにねだってくる一華。

そんな願い、叶えないなんてわけがない。


「月替わりランチだったハズだから、あのひよこのオムライスじゃないと思うけど・・・」

「え!・・・でもそれはそれで楽しみだなぁ・・・。」

「ははっ、じゃあ約束な?他はどこか行きたいとこあるか?退院が決まったらどこでも連れてってやるぞ?」


この1週間で一華の状態はだいぶ落ち着いたように見えていた。

特に重大な副反応も起こらず、順調そのものだ。


「うーん・・・じゃあ、桐生さんのお家、見てみたいかな?」


膝を立て、その上に顔を乗せて聞いて来た一華。

ちょっと驚きながらも俺はその一華の顔に自分の顔を近づけた。


「それは・・・こういうことか?」


そう言って一華の唇に自分の唇を重ねた。


「んっ・・・・」

「かわいいな。」

「でも私・・・病気があるからできないよ?」


そう言って一華は申し訳なさそうに俺を見てるけど、俺は違った。

この薬が終了したら、一華の体はもう・・・


「・・・じゃあ紅茶でも淹れてやるよ。映画見てもいいしな、うち、スクリーンあるから迫力満点だし。」

「!!・・・じゃあアクション系だね!」

「そこは恋愛なんじゃ・・・」

「えー、迫力満点ならアクションが一番じゃない?」

「ならホラーだな。すっげぇ怖いやつ用意しとくよ。」

「!?!?・・・寝れなくなるよ!!」

「ははっ。」


そんな話をした後、一華は薬を飲み、また長い眠りについた。

長い髪の毛を指ですくい、小さな頭をそっと撫でる。


「・・・俺んちに来たら・・・覚悟しろよ?」




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一華side


私が薬を飲み始めてから1か月の時間が流れた。

1週間前に終わった薬の後は毎日がリハビリ三昧で、筋力をつけるためにリハビリ室に毎日通っていた。

時間があれば廊下を歩いたり病室でストレッチをしたりして時間を過ごし、1週間が経った今日、私は退院することになったのだ。


「なんかあったらすぐ連絡しろよ?」


病室で荷物をまとめてると兄が嬉しそうに笑いながらそう言って来た。

いつもは心配そうな表情が混じっていたのに、今日はそんな表情は微塵もない。


「?・・・うん。」

「桐生はもう上がるけど・・・送ってもらうのか?」

「うん、このあとランチに行こうって話してるー。」


私の退院の日に合わせて夜勤を入れていた桐生さん。

仕事が終わる時間に合わせて私の退院の時間も決めていたのだ。


「なら荷物は置いていくか?デートの邪魔だろ?」

「ううん?大丈夫。車だから置いて行けるし、洗濯もしたいしね。」

「そっか。」


そんな話を兄としてると、病室の扉がノックされる音が聞こえてきた。

コンコンっ、と鳴ったあと、静かに引き戸が開かれていく。


「準備できたか?一華。」


扉を開けたのは桐生さんだ。

白衣を脱ぎ、モノトーンコーデの私服姿だった。


「うんっ。」


カバンを持ち、私は桐生さんに駆け寄った。

桐生さんは私の手にあるかバンをひょいと取り上げ、兄に向かって口を開く。


「メシ食ったら家まで送り届けるから。」

「おー、気をつけてな?」

「かずくん、いってきまーす!」


私は兄に手を振り、長い時間お世話になった病室をあとにしたのだった。




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小森(兄)side


一華と桐生が出て行ったあと、一人病室に残った俺は窓から外を見ていた。


「もう戻って来ることはなさそうだな。」


1か月前、桐生が持ってきた薬は一華にドンピシャな薬だった。

俺が今までしてきた点滴の作用のおかげで体調が良くなっていた一華には別の病気が現れていて、その病気を隠すように血液の成分がおかしかったのだ。


「俺が治療をしていくことで現れた病気。それを治すのに五十嵐先生の薬はまさにビンゴだったな。」


俺では思いつくことができなかった薬。

桐生が五十嵐先生と繋がっていてくれたおかげで、一華は病気を治すことができたのだ。


「これからなら幼稚園の先生だって保育園の先生にだってなれる。もう一度夢を追いかけて来い、一華。」


そう思いながら、俺はふと桐生のことが頭をよぎった。

あいつも一華がもう大丈夫なことを理解してる。


「・・・一華、今日は家に帰れないだろうな。兄ちゃん、複雑だよ・・・。」




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