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別の道。
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『・・・小森先生のお電話で間違いないでしょうか。』
電話の向こうで聞こえた声に、私は聞き覚えがあった。
この声は・・・実習先の幼稚園の先生だ。
「え!?・・幼稚園の先生!?」
『そうです。お久しぶりね。』
「ど・・どうしたんですか・・・?」
実習が終わってから関りがなかった幼稚園の先生。
こちらから連絡をすることがあっても、幼稚園側から連絡が来ることなんてないのだ。
『実は・・・小森先生に伝えないといけないことがあって・・・』
「伝えないといけないこと・・?」
幼稚園の先生は私が実習を終えたあとのことを話し始めた。
『あの日、実習最後の日って小森先生が作った絵本を読み聞かせする予定だったでしょ?』
「はい。」
『小森先生が早退したあと、私が園児たちに読み聞かせたのよ、せっかくだったから・・・。』
「え!?そうなんですか!?」
『うん。それでね?ものすごく反響があって・・・お絵描きの時間にみんながあの絵本を画用紙に移し始めて・・・
』
「えぇぇ!?」
『持って帰って家で保護者に読んでもらってるらしいのよ。』
その言葉を聞いて、私は驚きすぎて何も言えなかった。
『でね?今度は保護者から問い合わせがあって・・・』
「保護者から!?」
『絵はあるけどお話の文章がないから読み聞かせができないって・・・だから、あの絵本、よかったらコピーさせてもらえないかしら?』
「コピー!?」
『そしたらお家で読み聞かせができるのよ。・・・どう?』
思っても見ないことになってしまってる事態に、私は驚きに嬉しさ、それに困惑が頭の中を駆け巡っていた。
「コピーは・・・どうぞ、好きにしていただいて大丈夫です・・・。」
そう答えるしかできなかった。
『本当!?ありがとう・・っ!』
「いえ・・・もう捨てたものだと思ってたんで・・・」
ゴミ同然だと思っていた私の絵本。
私自身はゴミには思ってなかったけど、他人からみたらゴミにしか見えないだろうから捨てられただろうと思っていたのだ。
迷惑をかけた手前、回収にいくこともできないから忘れることにしていた。
『・・・あのね、小森先生。絵本作家とか・・・興味ない?』
「絵本・・作家・・?」
『そう。向いてると思うわ、これだけ子供たちや保護者を夢中にさせるんだもの。』
「夢中に・・・・?」
考えてもみなかったことだ。
『・・・もし、新しい絵本を作ったら読み聞かせに来て?待ってるから。』
「新しい絵本・・・」
『子供たちも楽しみにしてるから・・・。じゃあ連絡待ってるね。コピーの件、ありがとう。』
そう先生が言ったあと、電話は切れた。
呆然と海を見つめがら、ツーツーと鳴る通話終了の音だけが耳に聞こえてくる。
「一華?・・・一華っ!」
桐生さんに肩を揺さぶられ、私はハッと我に返った。
「あ・・桐生さん・・・」
「電話、幼稚園からだったんだろ?なんて?」
「それが・・・」
私はさっきの内容を桐生さんに伝えた。
私の絵本が思いのほか園児たちの間で好評なことと、コピーしたいと言われたこと。
それに・・・絵本作家の道を進めてもらったことを。
「あぁ、それは俺も思う。」
「へ!?桐生さんまで!?」
「絵のクオリティも高いし・・・何より一華は子供たち目線で描いてるだろ?」
「それは・・・・そうですけど・・・」
絵本は子供たちが理解できる言葉じゃないと意味が無いと思った私は、できるだけわかりやすいように文章を考えた。
短い文に、難しくない言葉。
それらを組み合わせて出来上がったのが、あの絵本だったのだ。
「もう一つ作ってみたら?それから考えてもいいだろうし・・・。」
「そ・・そうですね・・・ちょっと頭が追いつかないですけど・・・」
「出来上がったら見せてくれない?俺が最初に見たい。」
独占欲を出してくれたのか、私が知らない一面を見せてくれた桐生さん。
それが嬉しくて私は思わず頷いてしまった。
「はいっ。」
「よし、約束な。」
そう約束したはいいけど、私が絵本をちゃんと完成させれるかどうか心配だった。
初めて作った絵本は実習のために作ったものだったから・・・『絵本を作ろう』と思って作れるかが不安なのだ。
(とりあえず今描いてる絵のを完成させてみよう・・・。)
家に帰ったら絵の続きを描くことを決めたものの、気がかりなことがたくさんできてしまって私はこの後のデートを集中できないまま終わらせることになってしまった。
電話の向こうで聞こえた声に、私は聞き覚えがあった。
この声は・・・実習先の幼稚園の先生だ。
「え!?・・幼稚園の先生!?」
『そうです。お久しぶりね。』
「ど・・どうしたんですか・・・?」
実習が終わってから関りがなかった幼稚園の先生。
こちらから連絡をすることがあっても、幼稚園側から連絡が来ることなんてないのだ。
『実は・・・小森先生に伝えないといけないことがあって・・・』
「伝えないといけないこと・・?」
幼稚園の先生は私が実習を終えたあとのことを話し始めた。
『あの日、実習最後の日って小森先生が作った絵本を読み聞かせする予定だったでしょ?』
「はい。」
『小森先生が早退したあと、私が園児たちに読み聞かせたのよ、せっかくだったから・・・。』
「え!?そうなんですか!?」
『うん。それでね?ものすごく反響があって・・・お絵描きの時間にみんながあの絵本を画用紙に移し始めて・・・
』
「えぇぇ!?」
『持って帰って家で保護者に読んでもらってるらしいのよ。』
その言葉を聞いて、私は驚きすぎて何も言えなかった。
『でね?今度は保護者から問い合わせがあって・・・』
「保護者から!?」
『絵はあるけどお話の文章がないから読み聞かせができないって・・・だから、あの絵本、よかったらコピーさせてもらえないかしら?』
「コピー!?」
『そしたらお家で読み聞かせができるのよ。・・・どう?』
思っても見ないことになってしまってる事態に、私は驚きに嬉しさ、それに困惑が頭の中を駆け巡っていた。
「コピーは・・・どうぞ、好きにしていただいて大丈夫です・・・。」
そう答えるしかできなかった。
『本当!?ありがとう・・っ!』
「いえ・・・もう捨てたものだと思ってたんで・・・」
ゴミ同然だと思っていた私の絵本。
私自身はゴミには思ってなかったけど、他人からみたらゴミにしか見えないだろうから捨てられただろうと思っていたのだ。
迷惑をかけた手前、回収にいくこともできないから忘れることにしていた。
『・・・あのね、小森先生。絵本作家とか・・・興味ない?』
「絵本・・作家・・?」
『そう。向いてると思うわ、これだけ子供たちや保護者を夢中にさせるんだもの。』
「夢中に・・・・?」
考えてもみなかったことだ。
『・・・もし、新しい絵本を作ったら読み聞かせに来て?待ってるから。』
「新しい絵本・・・」
『子供たちも楽しみにしてるから・・・。じゃあ連絡待ってるね。コピーの件、ありがとう。』
そう先生が言ったあと、電話は切れた。
呆然と海を見つめがら、ツーツーと鳴る通話終了の音だけが耳に聞こえてくる。
「一華?・・・一華っ!」
桐生さんに肩を揺さぶられ、私はハッと我に返った。
「あ・・桐生さん・・・」
「電話、幼稚園からだったんだろ?なんて?」
「それが・・・」
私はさっきの内容を桐生さんに伝えた。
私の絵本が思いのほか園児たちの間で好評なことと、コピーしたいと言われたこと。
それに・・・絵本作家の道を進めてもらったことを。
「あぁ、それは俺も思う。」
「へ!?桐生さんまで!?」
「絵のクオリティも高いし・・・何より一華は子供たち目線で描いてるだろ?」
「それは・・・・そうですけど・・・」
絵本は子供たちが理解できる言葉じゃないと意味が無いと思った私は、できるだけわかりやすいように文章を考えた。
短い文に、難しくない言葉。
それらを組み合わせて出来上がったのが、あの絵本だったのだ。
「もう一つ作ってみたら?それから考えてもいいだろうし・・・。」
「そ・・そうですね・・・ちょっと頭が追いつかないですけど・・・」
「出来上がったら見せてくれない?俺が最初に見たい。」
独占欲を出してくれたのか、私が知らない一面を見せてくれた桐生さん。
それが嬉しくて私は思わず頷いてしまった。
「はいっ。」
「よし、約束な。」
そう約束したはいいけど、私が絵本をちゃんと完成させれるかどうか心配だった。
初めて作った絵本は実習のために作ったものだったから・・・『絵本を作ろう』と思って作れるかが不安なのだ。
(とりあえず今描いてる絵のを完成させてみよう・・・。)
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