好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。

文字の大きさ
上 下
30 / 36

別の道。

しおりを挟む
『・・・小森先生のお電話で間違いないでしょうか。』


電話の向こうで聞こえた声に、私は聞き覚えがあった。

この声は・・・実習先の幼稚園の先生だ。


「え!?・・幼稚園の先生!?」

『そうです。お久しぶりね。』

「ど・・どうしたんですか・・・?」


実習が終わってから関りがなかった幼稚園の先生。

こちらから連絡をすることがあっても、幼稚園側から連絡が来ることなんてないのだ。


『実は・・・小森先生に伝えないといけないことがあって・・・』

「伝えないといけないこと・・?」


幼稚園の先生は私が実習を終えたあとのことを話し始めた。


『あの日、実習最後の日って小森先生が作った絵本を読み聞かせする予定だったでしょ?』

「はい。」

『小森先生が早退したあと、私が園児たちに読み聞かせたのよ、せっかくだったから・・・。』

「え!?そうなんですか!?」

『うん。それでね?ものすごく反響があって・・・お絵描きの時間にみんながあの絵本を画用紙に移し始めて・・・


「えぇぇ!?」

『持って帰って家で保護者に読んでもらってるらしいのよ。』


その言葉を聞いて、私は驚きすぎて何も言えなかった。


『でね?今度は保護者から問い合わせがあって・・・』

「保護者から!?」

『絵はあるけどお話の文章がないから読み聞かせができないって・・・だから、あの絵本、よかったらコピーさせてもらえないかしら?』

「コピー!?」

『そしたらお家で読み聞かせができるのよ。・・・どう?』


思っても見ないことになってしまってる事態に、私は驚きに嬉しさ、それに困惑が頭の中を駆け巡っていた。


「コピーは・・・どうぞ、好きにしていただいて大丈夫です・・・。」


そう答えるしかできなかった。


『本当!?ありがとう・・っ!』

「いえ・・・もう捨てたものだと思ってたんで・・・」


ゴミ同然だと思っていた私の絵本。

私自身はゴミには思ってなかったけど、他人からみたらゴミにしか見えないだろうから捨てられただろうと思っていたのだ。

迷惑をかけた手前、回収にいくこともできないから忘れることにしていた。


『・・・あのね、小森先生。絵本作家とか・・・興味ない?』

「絵本・・作家・・?」

『そう。向いてると思うわ、これだけ子供たちや保護者を夢中にさせるんだもの。』

「夢中に・・・・?」


考えてもみなかったことだ。


『・・・もし、新しい絵本を作ったら読み聞かせに来て?待ってるから。』

「新しい絵本・・・」

『子供たちも楽しみにしてるから・・・。じゃあ連絡待ってるね。コピーの件、ありがとう。』


そう先生が言ったあと、電話は切れた。

呆然と海を見つめがら、ツーツーと鳴る通話終了の音だけが耳に聞こえてくる。


「一華?・・・一華っ!」


桐生さんに肩を揺さぶられ、私はハッと我に返った。


「あ・・桐生さん・・・」

「電話、幼稚園からだったんだろ?なんて?」

「それが・・・」


私はさっきの内容を桐生さんに伝えた。

私の絵本が思いのほか園児たちの間で好評なことと、コピーしたいと言われたこと。

それに・・・絵本作家の道を進めてもらったことを。


「あぁ、それは俺も思う。」

「へ!?桐生さんまで!?」

「絵のクオリティも高いし・・・何より一華は子供たち目線で描いてるだろ?」

「それは・・・・そうですけど・・・」


絵本は子供たちが理解できる言葉じゃないと意味が無いと思った私は、できるだけわかりやすいように文章を考えた。

短い文に、難しくない言葉。

それらを組み合わせて出来上がったのが、あの絵本だったのだ。


「もう一つ作ってみたら?それから考えてもいいだろうし・・・。」

「そ・・そうですね・・・ちょっと頭が追いつかないですけど・・・」

「出来上がったら見せてくれない?俺が最初に見たい。」


独占欲を出してくれたのか、私が知らない一面を見せてくれた桐生さん。

それが嬉しくて私は思わず頷いてしまった。


「はいっ。」

「よし、約束な。」


そう約束したはいいけど、私が絵本をちゃんと完成させれるかどうか心配だった。

初めて作った絵本は実習のために作ったものだったから・・・『絵本を作ろう』と思って作れるかが不安なのだ。


(とりあえず今描いてる絵のを完成させてみよう・・・。)


家に帰ったら絵の続きを描くことを決めたものの、気がかりなことがたくさんできてしまって私はこの後のデートを集中できないまま終わらせることになってしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...