好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。

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デート。

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「んっ・・・」


軽く重ねた唇を名残惜しそうに話すと、一華は恥ずかしそうにぬいぐるみで顔を隠した。


「一華・・・それは逆効果なんだよ・・・。」


そんなかわいい姿を見せられるともっとしたくなるのが男心。

でもそこはぐっと堪えて車のエンジンをかけた。


「家まで送る。」

「はい・・・。」


アクアリウムの駐車場を出て、一華の家に向かう。

何気ない会話も一華とするものの、時々一華がぬいぐるみを見つめて微笑む姿がかわいくて仕方ない。


(俺・・かわいい子が好みだったんだろうか・・・。)


今まで付き合ってきた女の子たちとは、時間が合えばデートをするくらいだった。

向こうが忙しかったら声がかかるまで待ってたし、こっちが忙しかったら連絡をすることはない。

そうやって付き合っていたけど、一華は全然違った。

付き合う前までは『ダメだ』と思ってしなかったこともたくさんあったけど、付き合ってる今、気持ちが爆発しそうで困る。

一華を側に置いて離したくないと思ってる。


(あー・・ダメだダメだ。そんなのダメだ。)


一華には夢がある。

その夢を叶えるのは難しいかもしれないけど・・・邪魔はしたくない。


(俺にできることはある。それまで・・・我慢だ。)


キスだけは我慢できそうになく、それ以外を邪魔しないように我慢することに決めて俺は一華を家まで送って行った。


「お仕事、頑張ってくださいねっ。」


家の前で一華を下ろすと、一華は大きなペンギンのぬいぐるみを抱きかかえて俺に笑顔を向けてくれていた。

その笑顔だけでいくらでもがんばれそうだ。


「一華も無理するなよ?」

「はいっ。・・・ペンちゃん、ありがとうございます。一緒に寝ますね?」

(ペンちゃん・・・。)


恥ずかしそうに言う一華は嬉しそうにぬいぐるみに頬を寄せていた。

買ってよかったと心底思いながら、俺は一華に向かって手を振った。


「また連絡するから・・。しっかり戸締りもしろよ?」

「はいっ。」


数時間もかからずに終わってしまった初デートだったけど、とりあえず一華とでかけることができてよかったと思った。

7年も前から俺を想ってくれてた一華にどう応えたら応えきれるのかを考えながら、俺は車を走らせていった。



ーーーーー



ーーーーー



ーーーーー

一華side


桐生さんと初めてのデートをした後、私は自分のベッドにペンちゃんを寝かせた。

大きいペンちゃんはベッドの大半を占領してしまってる。


「ふぁ・・・かわいすぎる・・・。」


ふわふわのタオル地のボディを持つペンちゃんは、短い手足がとてもかわいかった。

黒と白の色味がペンギンらしくて、黄色いくちばしも柔らかい生地だ。

ぎゅっと抱きしめると少し形が変わるけど、抱きしめてる感があって好きでたまらない。


「これ・・高いよね・・・。」


値段は見てなかったけどぬいぐるみは高いもの。

大きさに比例して金額も上がるものなのだ。


「・・・でも嬉しい。」


ほぼ7年ぶりに再会?した桐生さんは、初めて会った時よりかっこよくなっていた。

相変わらず優しくて・・・姿を見るだけで胸が苦しくなる。


「はー・・・もうほんと好き・・・。」


私はベッドにいるペンちゃんに抱きつきながら横になった。

次に一緒にいられる日を楽しみにしながら、目を閉じて見る。


「キス・・・しちゃった・・・。」


今日のことを思い返しながら私は幸せな気持ちに浸る。

考えなきゃいけないことはたくさんあるけど、今は桐生さんのことだけを考えていたかった。

叶った想いだけど・・・これは夢なんじゃないかと毎回思ってしまうのだ。


「『好き』って・・・何度も言いたいけどダメかな・・・。」


7年も燻ぶらせてきた気持ちが通じた今、どう行動したらいいのかわからないまま私は夢に落ちていった。



ーーーーー



ーーーーー



それから、桐生さんと私は週に1度くらい会うようになっていった。

私の大学が忙しかったり、桐生さんのお仕事が忙しかったりしたら一緒にご飯を食べるくらいしかできないけど、会えることが嬉しすぎて短い時間でも幸せを感じていた。

そんな日々が一周、二週と過ぎていき、季節は夏から秋に移り変わっていった。


「一華、どした?なんか考えごと?」


久しぶりに丸一日一緒にいれる今日、ぼーっとしていた私を覗き込むようにして桐生さんが話しかけて来た。


「ふぁっ・・!?」

「熱でもある?デートやめて家まで送ろうか?それとも病院?」

「やっ・・!大丈夫っ・・!大丈夫ですからっ・・!」

「そう?なら予定通り海行くけど・・・」


朝から晩まで一緒にいれる今日は、海に行く話になっていた。

朝に桐生さんが私を迎えに来てくれて、今、海に向かってる真っ最中なのだ。

隣でハンドルを握ってる桐生さんの腕が・・・逞しい。

そんな逞しい桐生さんの腕をちらちら見てると、桐生さんが笑い始めてしまった。


「うん?どした?」


笑顔でそう聞いてくれた桐生さんだけど、どう言ったらいいのかわからずに私はふと思い出したことを聞いた。


「あっ・・あの・・・前に私が桐生さんに点滴してもらった時に・・・仲がよさげな看護師さん、いませんでした・・?」


朧げな記憶の中にあったのは大好きな桐生さんと仲良さそうに話していた看護師さん。

熱が高かったけど、嫉妬心もあってか記憶に残っていたのだ。


「あー・・・あの看護師はもう辞めたから・・・話すことはもうないよ。」

「え?辞めたんですか?」

「うん。」


桐生さんの話では、あの看護師さんは短期での勤務だったらしい。

看護師として優秀なのかと聞かれたら首を縦に振ることはできなかったそうだけど、外科の部長さんと仲が良い関係になってるのだとか。


「外科部長・・!?」

「あの看護師が来た時、俺はもう一華が好きだった。だから・・・気にするな。」


そう言って桐生さんは私の頭をぽんぽんっと撫でた。

最初の頃はこんなことされたら嬉しくて恥ずかしくてどうにかなりそうだったけど、今は心地いいと思ってしまう私がいた。


「~~~~っ。」

「ん?頭撫でられるの好き?いくらでも撫でてやるよ。」


そう言って桐生さんは私の頭を撫で繰り回し始めた。

わしゃわしゃと撫でられて私の髪の毛が大変なことになっていく。


「ちょっ・・・!?」


私はぐちゃぐちゃになりかけてる髪の毛を手で押さえた。

せっかくかわいく見えるようにセットしてきたのに台無しになってしまう。


「むー・・・。」

「ははっ。」


ご機嫌な桐生さんの笑顔に、私も笑みがこぼれて来る。

笑いながら手で髪の毛を整えてると、視界に海の景色が飛び込んできた。

建物と建物の間にちらちら見えて来た海は、車がカーブを曲がった瞬間、視界いっぱいに広がった。


「わっ・・・!海だっ・・・!」

「お?もう見えたのか。」


助手席側に広がってる海は、太陽に照らされて水面がキラキラと輝いていた。

海水浴場になってるのか砂浜も見え、波が静かに寄せてる。

もう秋にさしかかってる今、気温が低くて泳いでる人はいない。

加えて今日は平日ということもあり、人の姿は見えなかった。


「もうちょっと行ったところに駐車場があるからそこで下りるか。」

「はいっ。」









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