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一華とランチ。

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ーーーーー



「・・・ここ・・ですか?」


車を走らせて着いた場所は古民家のような店だった。

表に『ひよこ』とひらがなで書かれてる。


「ランチには少しだけ早いけど、混んでないだろ。」


そう言って店の扉を開けた。


「いらっしゃいませ、お二人でしょうか。」

「はい。」

「こちらどうぞー。」


白いブラウスに黒いエプロンスカートのシンプルな制服を身に纏った店員さんに案内された席は大きな窓の側だった。

向かい合わせに二人掛けの席だ。

少し厚くて大きめのテーブルは一枚板なのか歪な形をしていた。

椅子に使われてる木も、同じような感じで『キレイな形』の物でない。

周りを見回せばテーブル席は個々を含めて二席しかなく、カウンターに四席ほどあるくらいだった。


(随分小さい規模の店なんだな・・・。)


そんな感想を持ちながら、俺と一華は席に座った。

店内の客はまだ俺たちしかいない。


「ご注文は『今月のランチ』でよろしいですか?」


そう聞かれ、店員さんはポケットから写真くらいの大きさのものを取り出した。

プラスチックのケースに入れられた『それ』には飲み物の種類が書かれていた。


「えっと・・・?」


よくわからなかった俺が飲み物のメリューを受け取った時、店員さんが説明を始めてくれた。


「あ、当店、フードのメニューは一種類しかございません。『今月のランチ』のみです。お飲み物だけ選んでいただくことになるのですが、お飲み物のみのご注文も賜ります。いかがいたしましょうか。」

「なるほど・・・。」


この店の仕組みを知った俺は、飲み物のメニューを一華に見せた。


「一華、なに飲む?」

「えっと・・・ストレートのアイスティーお願いします。」

「俺はホットコーヒーお願いします。・・・あ、ランチ二つも。」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


そう言って店員さんは店の奥に向かって行った。

その後姿を見ながら店内を見回す。

そんなに広くない店内は観葉植物で溢れ、オシャレな雑貨が飾られていた。

高い天井に木で囲まれた空間は女の子が好きそうだ。


「こんな素敵なお店、桐生さんよく来るんですか?」


一華も俺と同じように店内を見回しながら聞いてきた。


「いや?初めて来た。」

「そうなんですか?」

「患者さんが喋ってたのを覚えててさ、一華が好きそうだなって思って。」


そう言うと一華は驚いた顔をした。

大きな目を更に大きくして俺をじっと見てる。


「わたし・・?」

「あっ・・・」


俺の言葉に一華が引いたのかと思った。

こんな年上の・・・しかも自分の兄と同い年のおっさんに『好きそうな店』と言われたら気持ち悪いだろう。


「ごめん。・・でも学生の子が好きそうな店ってここしか思いつかなくて・・・」


泣き叫んでいた一華を少しでも元気づけたくて映える店を選んだ。

告げられた話を消し去ることは不可能だけど、自分が楽しい気持ちになるとあまり重く受け止め過ぎなくなる傾向がある。

だから少しでも楽しく感じて欲しかったのだ。


「あ、違うんです・・!桐生さんが『私を』考えてくれたことが嬉しくて・・・」

「え?」

「ふふっ・・・桐生さんは覚えてないかもしれないですけど・・・7年前に会ってるんですよ?私たち。」

「え!?」


一華は窓の外を見ながら昔話を始めた。


「私が中学生の時、かずくんは大学生だったんですけどケータイを家に忘れて行っちゃった時があったんです。その日、私と約束をしててーーーーー」


待ち合わせの約束をしてるのにケータイが無いと出会えないかもしれない。

そう思った一華は大学まで届けることにしたらしい。

でも初めての大学構内で迷子になり、どこに持って行ったらいいのかわからず困ってる時に俺が声をかけたらしいのだ。


「!!・・・覚えてる!覚えてるよ!!確か・・・部活の話を聞いたよな!?」

「そうですっ!!」

「あの忘れ物って・・・小森のケータイだったのか・・・!」


あの日、二人は無事会えたらしく、一華は俺のことを小森に聞いたのだとか。


「『桐生ーっ!』って呼ばれてたの聞いてて、かずくんに聞きました。かずくんにお礼をお願いしたんですけど・・・」

「・・・あれ?聞いたかな・・?」


記憶を引っ張り出すけどお礼を聞いた記憶はなかった。

聞いてたらあの子が『小森の妹だった』ということで覚えてるハズだ。


「もー・・かずくんー・・・。」

「いや、礼を言われるようなことしてないからいいよ。」


礼なんてどうでもよかった。

あの日、一華が持って来た忘れ物がちゃんと届けられたならそれでよかったのだ。


「じゃあ・・・今、お礼言いますっ。あの時、事務局まで案内してくれてありがとうございました。」


そう言って一華が頭を下げた時、店員さんがランチプレートを二つ持って来てくれた。


「お待たせいたしました、今月のランチでございます。」

「あ、ありがとうございま・・・す!?」


テーブルにそっと置かれたランチプレートは、オムライスだった。

赤いケチャップライスの上に、丸く整えらたオムレツが乗ってる。

それに目や足、くちばしになるように絵が描かれていて『ひよこ』の形になっていた。

同じプレート上にスープやサラダ、小さいデザートもある。


「あ、店名が『ひよこ』だから・・・?」


そう呟くと店員さんは微笑みながら答えた。


「ふふ、そうなんです。すぐにお飲み物お持ちしますね。」


店員さんが飲み物を取りに戻ってる間、一華はずっとランチプレートを眺めていた。

目を輝かせていて・・・まるで子供みたいだ。


「ははっ、気に入った?」


そう聞くと一華は無言のまま、首を何度も上下に振った。

嬉しそうな表情から、この店に決めて良かったと思う。


「そういえばこの店・・・スタッフの人っていない?」


思えば店内に入って来た時から一人の店員さんしか見てない気がした。

もしかしたら奥にいるのかもしれないけど、人の気配が感じられなかったのだ。


「一人でしてるんですかね、席数も少なめ?な感じがしますし・・・。」

「そういえばメニューも一つしかない・・・。もしかしたら一人で経営してるのかもな。」


そんな話をしながら一華と一緒にオムレツにスプーンを入れた。

ふわふわなたまごを崩すと、とろっと半熟の卵がケチャップライスの上にかかった。


「わ・・!キレイ・・・!」

「すごいな。」


添えられてた小さな器に入ったソースをかけてオムライスを口に運ぶ。

すると口の中でふわふわなたまごとソースが絡み合い、絶妙な味が広がった。


「美味い・・・!」

「おいしいっ・・!」


同じ感想を同時に言った俺たちは目を合わせた。

思わず笑みがこぼれてしまう。


「お飲み物、お待たせしました。・・・幸せそうに笑ってる恋人同士さんを見ると私も幸せになりますー。」


そう言って店員さんが飲み物を置いてくれた。



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