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残酷な通告2。
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ーーーーー
ーーーーー
「お、戻って来た。」
車で待つこと30分。
俯きながらとぼとぼ歩いて来る一華の姿が目に入った。
俺は車から下りて一華に駆け寄った。
「一華、どうだった?」
そう聞くと一華は歩いていた足を止めた。
「一華?」
覗き込むと、一華は唇をきゅっと結び、目にいっぱい涙を溜めていた。
一度でも瞬きをしてしまうと大粒の涙がこぼれそうだ。
「どうした!?」
「ふぇっ・・・うぅー・・・。」
「と・・とりあえず車に行こう。な?」
今にも大声で泣き叫びそうな一華の肩を抱き、車に戻る。
助手席に一華を乗せて俺も運転席に座った時、一華の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれていた。
「どうした?何があった?」
小さい子を慰めるように頭を撫でると、一華は言葉を詰まらせながら話始めた。
「さっ・・き・・事務のっ・・・人が・・・っ」
一華の言葉を邪魔しないように背中も擦る。
どうも一華は大学の事務局でこの前の実習の結果報告を受けたらしい。
園側からの報告だ。
それによると『子供が好きなことが体で表現されてる』とか『ちゃんと園児全員と関われていた』とかいいことが書かれていたらしい。
それに一華も喜んだみたいだけど、最後に驚く言葉が書かれていた。
「びょ・・病気がある人は・・・っ・・先生になるのは無理じゃないかっ・・・て・・・」
「え?」
「突然の休みとか・・っ・・子供たちも混乱するかも・・・って・・・それに・・・」
『もし』子供たちの前で倒れたりしたらという懸念があって、採用は厳しいだろうと書かれていたらしい。
「単位取り直しても・・・無理だった・・・。私は・・・幼稚園の先生になれない・・・」
一華はそう言うと、涙をぼろぼろ落とした。
手で拭いもせずに服を濡らしていく。
そんな姿を見て・・・俺は一華の身体を引き寄せた。
小さな体をぎゅっと抱きしめて背中をゆっくり擦る。
「うわぁぁぁ・・・・」
「・・・。」
かける言葉を見つけることができない俺は、一華が落ち着くまで側にいることしかできなかった。
ーーーーー
ーーーーー
「スミマセンでした・・・。」
ひとしきり泣いた一華は平静を取り戻し、俺に謝って来た。
恥ずかしいのか、両手で顔を隠してる。
「いや、俺は大丈夫だけど・・・一華は平気か?もっと泣く?」
「~~~~っ。・・・も、大丈夫です・・・。」
手を団扇の代わりにして仰ぐ一華。
その顔は赤くなっていた。
「車出すけど・・・行きたいとこある?」
そう言って俺はハンドルに手をかけた。
とりあえず車を走り出させる。
「一旦家に・・・戻りたいですね・・・。」
「おけ。住所教えてくれる?」
俺は一華に住所を聞き、そこに向かってハンドルをきった。
一華の住んでるところは一人暮らし用の小さなアパートで、そこに車を寄せると一華はささっと荷物を取りに行った。
ものの数分でアパートから出てきて、少し大きめのリュックを持ってる。
「後ろに乗せとくよ。」
そう言って俺は一華の荷物を受け取り、後部座席に乗せた。
「あと何日かで退院じゃないのか?こんなに荷物いる?」
ベッドの上は病院着じゃなくてもいいとして、それでも荷物は多いように感じた。
「あ、ちょっとお絵描きセットを・・・。」
「お絵描き?」
「退院できる日まで暇な時間が多くて・・・時間つぶしの道具ですね。」
「へぇー・・・。」
退院待ちの患者さんたちは基本的に元気だから時間を潰すのが難しい。
テレビを見たり、院内を散歩したり、本を読んだりと各々過ごしてはいるだろうけど、時間の感じ方は人それぞれだ。
あっという間に一日が終わる人もいたら、何度時計を見ても進んでないように感じる人もいる。
楽しい時間ほど早く過ぎるものだったりもするけど・・・
「一華は絵を描くのが好きなんだな。」
俺は前に小さいアクアリウムに連れて行った時に描いてた絵を思い出していた。
あの時は色とりどりの小さい魚が画用紙みたいなのに描かれていたけど、かわいらしくて味のある絵が印象的でだった。
「好きですっ。がっつり描いて来たわけじゃないんですけど、教科書の端とか、ノートとか?ちょこちょこ描き続けてましたっ。」
「・・・・教科書はダメだろう。」
「へへっ。」
いつもと変わらないような笑顔を見せる一華だったけど、さっきのことを忘れたわけじゃないだろう。
笑ったあとにふと真顔に戻る表情が、心の不安定さを物語っていた。
「・・・一華、メシ行こう。」
「へっ?」
「もう常食だよな?」
「えっ?あ・・そうですけど・・・?」
「ならご飯食べて腹いっぱいにしたほうがいい。行こう。」
一華のシートベルトをしめさせ、俺は車を走り出させた。
頭の中で一華の好きそうな店を探す。
(確か・・・『映える』って評判の店があるって主婦の人たちが言ってたな。)
診察の最中にたくさん喋ってくれる主婦の人たち。
最近話題のランチの店の話を聞くことが多いのだ。
そのうちの一つに、一華が好きそうな店があったのを覚えていた。
「すぐ着くから。」
俺は記憶の中の住所を引っ張り出しながら店を目指した。
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「お、戻って来た。」
車で待つこと30分。
俯きながらとぼとぼ歩いて来る一華の姿が目に入った。
俺は車から下りて一華に駆け寄った。
「一華、どうだった?」
そう聞くと一華は歩いていた足を止めた。
「一華?」
覗き込むと、一華は唇をきゅっと結び、目にいっぱい涙を溜めていた。
一度でも瞬きをしてしまうと大粒の涙がこぼれそうだ。
「どうした!?」
「ふぇっ・・・うぅー・・・。」
「と・・とりあえず車に行こう。な?」
今にも大声で泣き叫びそうな一華の肩を抱き、車に戻る。
助手席に一華を乗せて俺も運転席に座った時、一華の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれていた。
「どうした?何があった?」
小さい子を慰めるように頭を撫でると、一華は言葉を詰まらせながら話始めた。
「さっ・・き・・事務のっ・・・人が・・・っ」
一華の言葉を邪魔しないように背中も擦る。
どうも一華は大学の事務局でこの前の実習の結果報告を受けたらしい。
園側からの報告だ。
それによると『子供が好きなことが体で表現されてる』とか『ちゃんと園児全員と関われていた』とかいいことが書かれていたらしい。
それに一華も喜んだみたいだけど、最後に驚く言葉が書かれていた。
「びょ・・病気がある人は・・・っ・・先生になるのは無理じゃないかっ・・・て・・・」
「え?」
「突然の休みとか・・っ・・子供たちも混乱するかも・・・って・・・それに・・・」
『もし』子供たちの前で倒れたりしたらという懸念があって、採用は厳しいだろうと書かれていたらしい。
「単位取り直しても・・・無理だった・・・。私は・・・幼稚園の先生になれない・・・」
一華はそう言うと、涙をぼろぼろ落とした。
手で拭いもせずに服を濡らしていく。
そんな姿を見て・・・俺は一華の身体を引き寄せた。
小さな体をぎゅっと抱きしめて背中をゆっくり擦る。
「うわぁぁぁ・・・・」
「・・・。」
かける言葉を見つけることができない俺は、一華が落ち着くまで側にいることしかできなかった。
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「スミマセンでした・・・。」
ひとしきり泣いた一華は平静を取り戻し、俺に謝って来た。
恥ずかしいのか、両手で顔を隠してる。
「いや、俺は大丈夫だけど・・・一華は平気か?もっと泣く?」
「~~~~っ。・・・も、大丈夫です・・・。」
手を団扇の代わりにして仰ぐ一華。
その顔は赤くなっていた。
「車出すけど・・・行きたいとこある?」
そう言って俺はハンドルに手をかけた。
とりあえず車を走り出させる。
「一旦家に・・・戻りたいですね・・・。」
「おけ。住所教えてくれる?」
俺は一華に住所を聞き、そこに向かってハンドルをきった。
一華の住んでるところは一人暮らし用の小さなアパートで、そこに車を寄せると一華はささっと荷物を取りに行った。
ものの数分でアパートから出てきて、少し大きめのリュックを持ってる。
「後ろに乗せとくよ。」
そう言って俺は一華の荷物を受け取り、後部座席に乗せた。
「あと何日かで退院じゃないのか?こんなに荷物いる?」
ベッドの上は病院着じゃなくてもいいとして、それでも荷物は多いように感じた。
「あ、ちょっとお絵描きセットを・・・。」
「お絵描き?」
「退院できる日まで暇な時間が多くて・・・時間つぶしの道具ですね。」
「へぇー・・・。」
退院待ちの患者さんたちは基本的に元気だから時間を潰すのが難しい。
テレビを見たり、院内を散歩したり、本を読んだりと各々過ごしてはいるだろうけど、時間の感じ方は人それぞれだ。
あっという間に一日が終わる人もいたら、何度時計を見ても進んでないように感じる人もいる。
楽しい時間ほど早く過ぎるものだったりもするけど・・・
「一華は絵を描くのが好きなんだな。」
俺は前に小さいアクアリウムに連れて行った時に描いてた絵を思い出していた。
あの時は色とりどりの小さい魚が画用紙みたいなのに描かれていたけど、かわいらしくて味のある絵が印象的でだった。
「好きですっ。がっつり描いて来たわけじゃないんですけど、教科書の端とか、ノートとか?ちょこちょこ描き続けてましたっ。」
「・・・・教科書はダメだろう。」
「へへっ。」
いつもと変わらないような笑顔を見せる一華だったけど、さっきのことを忘れたわけじゃないだろう。
笑ったあとにふと真顔に戻る表情が、心の不安定さを物語っていた。
「・・・一華、メシ行こう。」
「へっ?」
「もう常食だよな?」
「えっ?あ・・そうですけど・・・?」
「ならご飯食べて腹いっぱいにしたほうがいい。行こう。」
一華のシートベルトをしめさせ、俺は車を走り出させた。
頭の中で一華の好きそうな店を探す。
(確か・・・『映える』って評判の店があるって主婦の人たちが言ってたな。)
診察の最中にたくさん喋ってくれる主婦の人たち。
最近話題のランチの店の話を聞くことが多いのだ。
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