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崩れる夢3

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兄side


看護師から一華のことをことを聞いた俺は、救命救急センターに足を踏み入れた。

処置を受けてる一華の姿が目に入る。


「一華!!どうした!?」


側に駆け寄ると、一華は目を開けていた。

朧げに見えてるのか、視点が合ってない。


「状況は?」


そう聞くと処置にあたってくれてる医師たちが答えてくれた。


「突発的に血圧が急上昇したみたいです。救急隊が駆けつけた時には意識がありませんでした。」

「突発的?」

「今は落ち着いてます。時間にしておよそ30分。急な血圧の上昇で意識を失ったのかと。」

「そうか・・・。」

「念の為、精密検査はしておいた方がいいでしょう。入院の手続き取っといてもらえますか?」

「わかった。・・・一華、聞こえるかー?」


肩を叩きながら聞くものの、一華は微かに口を開くだけだった。


「脳の検査からだな。悪いけどあと頼む。」


そう言って俺は救命センターを出た。

廊下にいるエプロン姿の女の人が目に入り、声をかける。


「すみません、小森一華の付き添いで来られた方ですか?」

「あ・・はい。彼女、今日幼稚園の教育実習でして・・私はそこの職員です。」


職員の方の話によると、朝、子供たちの出席を取ってる時に様子がおかしくなったらしい。

そして一華を保健室に連れて行き、救急車を呼んだとこのこと。


(聞いた話じゃケガとかじゃなさそうだな。頭を打ったようなこともなさそうだし・・・。)


やっぱり生まれ持ってる血液系の病気が、なんらか原因を作ったと考えるのがよさそうだった。


「付き添っていただいてありがとうございます。申し遅れましたが、私、小森一華の兄です。妹がお世話になってます。」

「あ・・!お兄さんだったんですか・・!」

「はい。・・・妹は生まれつき疾患がありまして・・・今回もそれが影響したと考えられます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「疾患・・・・。」


俺は一華の病気のことを大まかに説明した。

昔は突然倒れることもあったけど、ここ数年、そういうことは無いことを。

加えて食事制限も無ければ運動の制限もないことも。

職員さんは俺の話を真剣に聞いてくれてたけど、少し考えるようなそぶりも見て取れた。

そして


「実習は今日で終了の予定だったので、あとのことは学校でお願いしますとお伝えください。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「では・・・失礼します。」


職員さんは軽く頭を下げて、帰っていった。


「実習・・・最後まで受けれなかなった場合はどうなるんだろ・・・」


せっかくの実習を途中リタイアした一華は、目が覚めたらきっと悔やむだろう。

準備してきたものや、今まで学んできたことを最後までやり切ることができなかったのだ。


「もう一度、チャンスが来るといいな。」


そう思いながら、俺は事務に向かって歩き始めた。




ーーーーー

一華side


「ん・・・・」


目が覚めた私は、霞んで見える視界に何度か瞬きをした。

だんだんと合ってくる焦点に、ここがどこなのか理解できた。


「・・・びょーいん。」


真っ白な壁に鼻につく消毒液の匂い。

慣れた光景だけど、私はここが病院であることを理解した瞬間、ベッドから飛び起きた。


「今何時!?まだ間に合う!?」


幼稚園教諭の資格を取るには実習は必須科目だ。

他の科目はレポートや試験で単位が決まるからやり直しがきく。

でも実習は・・・やり直しがきかないのだ。

幼稚園側にも都合があるし、こちらの勝手で日にちを変えたりできるものではない。

だから今日の実習最終日をクリアできないと・・・資格を手にすることができないのだ。


「時計・・・!!」


私は時計を探して部屋の中を見回した。

白い壁をぐるっと一周見るけど時計はない。


「・・・スマホ!」


自分のスマホで時間がわかることに気がついたけど、鞄も見当たらないのだ。

部屋に時計がないなら、外に探しに行くしかない。


「ナースステーションに行けば時間がわかる・・・!」


私はベッドから降りて扉に向かった。

幸いにも足元もふらつかず、倒れる前より気分はいい。


「点滴もされてないし・・・一時のなんかだったのかなぁ。」


そんなこと思いながら、扉の取っ手に手を伸ばした。

その時、私が開けるよりも先に扉が開いた。


「へっ?」


扉の向こうには兄が立っていたのだ。


「・・・かずくん!?」

「一華!!目が覚めたのか!!」


驚いたような顔で私を見る兄。

その姿を見て『今日』は、私が倒れた日ではないことを悟った。


「かずくん・・何日経った・・・?」


諦めるように俯きながら聞くと、兄は私の肩をぽんぽんっと優しく叩いた。


「3日だ。朧気に目を開けるときはあったけど・・・」

「・・・・。」

「とりあえずベッドに戻れ。」


兄に体を支えられながら、私はベッドに戻った。

腰掛けるように座ると、兄が聴診器を取り出す。

そして胸の音をじっくり聞き始めた。


「体調はどうだ?息苦しくないか?」

「うん・・・」

「意識は?ハッキリしてる?」

「うん・・・」

「痛いとこはない?」

「・・・・。」


兄の問診なんて私にとってはどうでもよかった。

今まで病気と上手く付き合ってきたつもりだったのに、一番大事なとこで裏切られたのだ。


「一華?」

「・・・・。」


俯きながら床をじっと見つめる私を心配したのか、兄は聴診器をポケットにしまった。

そして私の隣に座った。


「一華、大学から伝言がある。」


その言葉に私は視線を床から兄に移した。


「『教育実習お疲れ様でした。最終日の実習は途中終了とみなし、単位修得は不可とさせていただきます。貴殿のこれからの活躍をお祈りいたします。』・・・って。」

「ーーーっ!!」


大学からの通告で、免許は取れないことが確定した。

これまでがんばってきたことが水の泡になり、私の目から涙がこぼれ落ちた。


「うぅー・・・・。」


寝ずにがんばった試験も、一生懸命練習したピアノも、何度もやり直しして作った絵本も全て無意味となった。

私は幼稚園の先生に・・・なれない。


「うわぁぁぁぁああ・・・・!」

「一華・・・。」


声を上げて泣く私を、兄はぎゅっと抱きしめてくれていた。

なだめるように背中をさすってくれている。


「がんばったのに・・・私、がんばったのにぃーーー・・・!」

「うん、一華はがんばったよ。」

「どうして・・・っなんでっ・・!うわぁぁぁぁあ・・・・!」

「よしよし、いっぱい泣け、にぃちゃんがいるから。」


私は涙が枯れるまで泣き続けた。

3日も寝ていた私は体力が落ちていて、兄の腕の中で気を失うようにして眠りについていき、その後1週間眠り続けてしまった。












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