好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。

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崩れる夢。

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ーーーーーー



翌日。

実習二日目を迎えた私は朝、起きてから自分の身体に違和感を感じていた。

なんだか・・・息がしにくい。


「?・・なんだろ・・緊張してるのかな?」


胸に手をあて、深呼吸を繰り返しながら支度をする。

着替えに、お弁当に、水筒、それに私が作った絵本をお気に入りのリュックに入れていった。


「今日の実習が終わったら・・・幼稚園教諭に一歩近づく。・・がんばろ!」


そう意気込んで、私は家を出た。




ーーーーー



「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」


園児たちが登園してくる2時間前に到着した私は、出勤していた先生方に挨拶をして担当のお部屋の掃除を始めた。

窓を開けて換気をし、床を箒で掃いていく。


「今日も欠席ナシでみんな来れたらいいなぁ。」


園に来てくれるのを楽しみにしながらゴミを拾おうと屈んだ。

その時・・・急に息が苦しくなった。


「---っ。・・・えっ・・?はぁっ・・ぁっ・・・」


上手くできない呼吸に、私は膝から崩れた。

床に片手をついて必死に息をする。


「ぅあ・・はっ・・・はぁっ・・・!」


この前した検査からそんなに日にちは空いてない。

だから病気のせいではないような気がするものの、こんな症状は初めてだった。


(待って・・・!今日だけ・・今日を乗り切らないと幼稚園の先生になれない・・!)


自分の身体に言い聞かせるように息を繰り返す。

すると呼吸が少し楽になってくれたのだ。


「はぁっ・・はぁっ・・・」


荒くなった息を整えるようにゆっくり呼吸し、私は身体を起こした。

さっきよりは随分マシな息だけど、胸が異様に苦しい。


「実習終わったら・・・お兄ちゃんのとこに行ったほうがいいかも・・。」


そう思ったけど、私の考えは甘かった。

まさかあんなことになるなんて・・・この時は思いもしなかったのだ。


「あれ?小森先生、お掃除してくれてたの?」


私の指導をしてくださってる先生がお部屋に入って来た。

今のことがバレないように、平静を装う。


「は・・はいっ、子供たちが気持ちよくお部屋に入れるようにと思って・・・」

「そう、ありがとう。・・・あ、今日の出席、小森先生が取ってみない?最後の実習だし、いい思い出になると思うの。」

「・・・いいんですか!?」


子供たち一人一人の名前を呼ぶ『出欠確認』は実習の中では結構憧れだったりする。

デジタル化が進んでる今、メールで欠席連絡が済む幼稚園もあるけどこの幼稚園は園児たちの出欠をとる幼稚園なのだ。

もちろん、欠席連絡は保護者からしてもらうけど、私たちが園児一人一人の顔を見て体調を確認をしてる。


「もちろん、全てを任せることはできないから私も隣で出席取るし。どうかな?」


そんな嬉しいことを聞かれて断る実習生はいないだろう。

私は首を何度も上下に振った。


「しますします!させてくださいっ!」

「あらあら、園児に負けないくらいの笑顔になってるわよ。」


笑いながら言う先生に少し恥ずかしさを覚えた。

そんな私に、先生が出席簿を手渡してくれた。

ずっしりと重たく感じる出席簿の表紙をじっと見つめる。


「わぁ・・・。」

「ふふ。じゃあよろしくね。小森先生。」

「はいっ・・!」


私は出席簿をぎゅっと抱きしめたあと、先生用の机に置いた。

子供たちが登園してくる準備をしながら時々出席簿に目をやる。

もう少しで子供たちの名前を読み上げれるのかと思うと、胸がドキドキして鳴りやまないでいた。


そして・・・私が楽しみにしていた時間がやってくる。



「みなさん、おはようございます。」


先生の挨拶につられて、子供たちも大きな声で挨拶をしてくれた。


「おはよーございますっ!」

「今日は実習の先生がみなさんのお名前を呼んでくれるので、大きな声でお返事しましょうね。」

「はぁい!!」

「じゃあ小森先生、お願いします。」

「はいっ!・・・みんな、順番にお名前を呼んでいくので、大きな声で返事してくださいね?えーと・・・こうすけくーん!」


私は出席簿にある名前を順番に読んでいった。

名前を呼ばれた子供たちは現よく返事をしてくれる。


「はーい!」

「あゆみちゃーん!」

「はいっ!」


(ふふっ・・かわいー。)


一生懸命返事をしてくれる子供たちがかわいすぎて、私は笑顔を溢しながら出席簿にチェックを入れていく。

大学を卒業したらどこかの幼稚園でこうやって働けたらいいなと思いながら。


「じゃあ次はー・・・」


まだ名前を呼んでない子供たちに視線を合わせて出席簿に視線を落とした時、ふっ・・・と、意識が飛びそうになった。

目に映る景色がぐるぐる回ってるように見える。


「え・・・・?」


突然のことにパニックになりそうになるのを堪え、なんとか視線を合わせれるようにして前を向く。

ぼやける視界に映る子供たちは、私を見てる。


「えっと・・・次は・・・みかちゃんー?」

「はーい!」

「えっと・・・ゆうじくんー?」

「はぁーい!」


ぼやける視界は文字なんて正確に写してはくれない。

私は記憶を頼りに子供たちの名前を呼んでいった。

途切れそうになる意識を繋ぎ留め、なんとか最後の一人の名前を呼ぶ。


「そ・・そうたくんー・・・?」

「はーい!」

「みんな・・上手にお返事・・できました・・。」


もう限界を迎えてしまっていた私は、子供たちの前で倒れるわけにいかない。

お部屋から出ようと足を廊下に向けた。


「せんせいちょっと・・・トイレにいってくるね・・・。」


そう言うと指導をしてくださる先生が私に気がついてくれたのか、身体をぎゅっと抱きしめて支えてくれた。

ちょうど近くにあった内線電話を手に取るのが見える。


「空いてる先生、来てもらえますかー?ちょっとお手伝いお願いしますー。」


園児たちに気取られないように明るい声で言う先生。

そのあと園児たちにも声をかけていた。


「みんな、ちょっとお部屋で遊んでてくれる?先生、小森先生をトイレまで案内してくるからー。」


そう言った時、職員室からヘルプの先生が駆けつけてきてくれた。


「わ・・!小森先生どうしたんですか?」

「急に体調が悪くなったみたいで・・・とりあえず保健室にお願いできます?」

「わかりました。・・・小森先生歩けますかー?」


ふわふわと宙を歩いてるような感覚の中、私はヘルプの先生に付き添われて保健室に向かった。



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