上 下
15 / 36

見てしまう。

しおりを挟む
桐生さんの口から何度も聞いてる『小森の妹だから』という言葉。

一人の『女性』として見てもらえてないことは明らかだった。


(いつか・・私を女として見てくれる日がくるかな・・・。)


熱がまだ下がりきってない私は、その不安を抱えたまま目を閉じていった。




ーーーーー



翌週・・・。


「はーい!みんなー!今日は教育実習のお姉さんたちが来てくれてるよー!たくさん遊んでもらおうねー!」


私は幼稚園教諭の資格を取るために必須の教育実習に来ていた。

今まで何回か実習には来てるけど、今日と明日でラスト。

この二日で自作のものを使って園児たちと遊ぶのが最後の課題なのだ。


(最初に出席カードのチェックして、そのあとお庭遊び、終わったら手洗いとうがいをさせてお部屋に入れて・・・)


園の一日の流れをぶつぶつ言いながら復唱し、近くにいた園児たちと一緒に行動を始めた。

周りにいる園児にも気を配りながら全員に声をかけていく。


「お庭遊びする子は、いちか先生と一緒に行くよーっ。」


声をかけるとクラスのほとんどの子が廊下に出始めた。


「私はお部屋の子を見とくから。」


指導してくださる担任の先生に言われ、私は靴を履き替えて園庭にでた。

暑い陽射しが照り付けていて、思わず自分の腕で太陽を遮断する。


「暑い・・・熱中症も気をつけないと・・・。」


子供たちは外部からの温度干渉に弱く、すぐに体温が上昇してしまう。

少し走り回るくらいでも1度くらいは軽く上がってしまうのだ。


「こまめに水分補給と・・・あと、お庭遊びの時間を少し短くした方がいいかも。」


そんなことを考えながら、私は子供たちのところを回った。

砂場でおままごとをしてる女の子たちに入れてもらったり、滑り台を滑る子を支えたり、一輪車に乗ってる子の補助をしたりと、忙しく駆け回る。


「はぁっ・・はぁっ・・子供って元気だなぁ・・・。」


息を切らしながら動き回るけど、子供たちが楽しそうに遊んでる姿を見れば自然と笑みがこぼれる。

無邪気に遊ぶ子供たちは本当にかわいいのだ。


「ふふっ・・!鬼ごっこしたい子、こっちに集まれーっ!」


教育実習最後の二日間、後悔の無いようにしっかり勉強しようと私は子供たちと一緒に走り回った。


ーーーーー



「小森先生、明日の打ち合わせしましょうか。」

「はいっ。」


園児たちを降園させたあと、指導してくださる先生と打ち合わせを始めた。


「明日は給食があります。30分で完食できるように進めてるので時間を見ながら声掛けをしてあげてください。」

「はい。」

「午前は今日と同じような感じで園児たちは過ごします。午後からは新しいお歌を歌うので・・・その後、小森先生の『遊び』を入れましょうか。」

「!!・・・はいっ。」

「どんな遊びをするのか聞いてもいいですか?」


そう言われ、私は作って来た絵本を自分の鞄から取り出した。


「あの・・絵本を作ってきたので・・それを読み聞かせしようかと・・。」


取り出した絵本を先生に見せると、先生は驚いた顔をしながら絵本を手に取った。


「これを自分で作ったの・・?」

「はい。いろんな種類の魚たちがいろんな場所から集まってきて、同じ場所で暮らす話なんですけど・・・」


この話は私自身でちゃんとしたコンセプトがあった。

それを絵や、幼稚園児でもわかるような言葉で説明してあるのだ。


「これ・・『幼稚園』のお話?」


先生は私が作った絵本を読んでくれたようで、ページをめくりながら聞いてくれた。


「はい!そうです!いつかは卒園してしまう子供たちですけど、今、この時間を覚えてて欲しくて・・・。」


卒園する子供たちはこれから先、たくさんのことを学び、経験していく。

その膨大な情報を脳に吸収させていくことによって、過去のことが薄れていってしまうのだ。

4歳や5歳の出来事は、大人になって鮮明に残ってる人はかなり少ない。

その中でも、印象的なことがあれば・・・思い出すことがあるかもしれないのだ。


「大きくなった時にこの絵本のことを思い出して・・・それに関連づいたことも思い出してくれたらなと思って・・・みんなで楽しく遊んだこの時間を思い出してくれたらと思って・・・。」


そう話すと、先生は私に笑顔を向けてくれていた。


「いいわね、そういうの。」

「ほんとですか!?」

「私、卒園生を何人も見送って来たけど・・・大きくなった子たちはあまり園のことを覚えてないのよね。成長すると子供たちの顔つきも変わってくるし・・・この時間を大切にしたいって気持ちはよくわかるわ。」


先生は『余談だ』といいながら今まで担当した園児のことを話してくれた。

卒園した後も交流がある子もいるらしいけど、ほとんどは交流がないことを。

保護者の事情で引っ越しする子も多く、風の便りで時々卒園生のことを知るくらいだとか。

少し寂しい気もするけどその子たちが園児だった時を思い返すのも楽しいらしい。


「私はみんなのことを思い出すけど・・・みんなは思い出さないまま大人になって行くのよね。」

「そうですね・・・。」

「でもこういうことを覚えてる子も中にはいる。その時思い出して『幼稚園のとき、砂場でよく遊んだよね』とか話してくれたら・・・嬉しいな。」


そう言って先生は私の絵本をそっと撫でた。

そしてそれを私に返してくれた。


「明日の読み聞かせ、楽しみにしてるわね。」

「!!・・・はいっ!」


先生の想いに、私は『幼稚園の先生になりたい』という夢をより一層強く想い直した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

シンデレラストーリーだけじゃ終われない!?

すずなり。
恋愛
身寄りのない子が暮らす養護施設。そこで暮らしていた13歳の女の子に『引き取りたい』との申し出がきた。中学生の彼女は施設で最年長であったことから自分を引き取ってくれる人はいないだろうと諦めていたのにチャンスが舞い込んできたのだ。しかもそれは彼女の本当の家族だった。 施設を出て晴れて本当の家族と一緒になった彼女。楽しいこともたくさんある中で色んな壁がやってくる。 施設の外を知らない彼女は一つ一つそれらを受けいれていくが・・・彼女には彼女も知らない才能が眠っていた。 そんな彼女は中学・高校と進学していく。 その中で出会った男が・・・彼女に近づいてくる。 「お前の全てが欲しい。」 ※お話は全て想像の世界です。現実とはなんの関係もありません。 ※メンタルが薄氷につき、コメントはいただくことができません。すみません。 ※スランプ明けなので文章が怪しいところが多々あります(以前もです。)。日々精進します。 ※ただただ暇つぶしに読んでいただけたら幸いです。 それではすずなり。の世界をお楽しみください。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

処理中です...