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買い物。
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ーーーーー
それから何日か経ったある日、仕事が休みの俺は街をぶらぶら歩いていた。
そろそろ陽の光が強くなってきて、薄手の服が欲しい。
そう思って探し回っていた。
「ポロシャツが二枚くらい欲しいとこだな。そんな出かけることないし。」
病院とマンションを往復するくらいの生活。
白衣の下は私服だけど、オシャレをする必要なんてどこにもない。
むしろ動きやすさが重要だ。
「さて・・・・」
服屋を探しながら歩いてると、紳士服ものの服を売ってる店の前で立ってる女の子が目に入った。
じーっとショーウィンドウを見つめてるその子は・・・小森の彼女だ。
今日は黒のパンツに深い青のTシャツ。
薄手の白いパーカーを羽織っていて髪の毛は下ろしていた。
ショーウィンドウを見つめてる横顔は若さゆえか、とても綺麗だ。
「・・・何見てんの?」
いつの間にか彼女に向かって足を進めていた俺は、話しかけていた。
俺の声に気がついた彼女はぱっと俺を見た。
「・・・あ、病院の・・・」
「『桐生』って言います。」
自分の名前を名乗ると、彼女はショーウィンドウを指差した。
「かずくん、来週誕生日なんですよ。だからプレゼントを探してて・・・」
指差されたショーウィンドウを見ると、スーツを着たマネキンが立っていた。
「スーツ?」
「あはは、そんな高いの買えないですよ。あのネクタイがいいかなーって見てて。」
スーツを着たマネキンがつけてるネクタイは、シックな赤色のネクタイだ。
「ペイズリー柄ですけどそんな派手じゃないし?シルクみたいだから手触りもいいだろうし・・・。」
「あぁ、いいんじゃない?仕事柄、ネクタイをすることも多いし。」
そう答えると彼女は俺のことを上から下までじーっと見た。
そしてその後ニヤッと笑って・・・
「ねぇ、あのネクタイ、合わせてみてくれません?」
「へ?・・何で俺が?」
「身長も体格もかずくんと似てるし・・・なんだか雰囲気も似てるから(笑)」
確かに俺と小森は身長が同じくらいだった。
「えぇぇ・・・・。」
「ほら早くっ。」
俺は手を引かれ、強引に店の中に連れ込まれてしまった。
「いらっしゃいませ。」
店内に入るとすかさず店員がやってきた。
彼女は迷うことなくショーウィンドウを指差し、答えた。
「あのネクタイ、見せてもらえますか?」
「かしこまりました。」
店員はマネキンからネクタイを外すと、彼女のもとに持って来た。
他の店員がそのネクタイの色違いを持ってやってくる。
「こちら、マネキンがしてるネクタイと同じもので色違いでございます。よかったらどうぞ合わせてみてください。」
「ありがとうございます。」
彼女はネクタイを受け取り、俺の首元に合わせてきた。
仕方なくじっと立って、終わるのを待つ。
「うーん・・・緑のほうがいいかな・・・いやでも赤がいいと思うんだけど・・・」
ぶつぶついいながら色々手に取って合わせていく彼女。
ネクタイ一本を真剣に選んでくれる彼女とか、正直『いいな』と思ったけど合わせてる相手が『俺』というのはどうかと思った。
小森に・・・申し訳ない。
「やっぱ赤にします!これください!」
「ありがとうございます。お会計はあちらでお願いします。」
「はいっ。」
会計に向かって足を進める彼女は、ぱっと振り返って俺に言った。
「あ、待っててくださいね?」
「・・・わかった。」
なぜ待たないといけないのか分からなかったけど、言われたことは従う。
特に急ぐ用事もない。
俺は店内を見ながら彼女の会計が終わるのを待つことにした。
ーーーーー
「お待たせしましたっ。」
小さい紙袋を持った彼女が、会計を終わらせて戻ってきた。
満足のいくものが買えたのか、笑顔を振りまいてる。
「じゃ、俺はこれで。」
そう言うと彼女は俺の手をがしっと捕まえてきた。
「!?」
「これ、お礼に受け取ってください。」
彼女は小さい紙袋を二つ持っていて、そのうちの一つを俺に差し出してきた。
「え!?」
「無理矢理付き合ってもらってすみません。かずくんと色違いですけど・・・よかったら使ってください。」
その言葉から紙袋の中身はネクタイということになる。
俺自身、ネクタイはいくらあっても困るものじゃないけど・・・小森と色違いとかどうかと思った。
それに、小森の彼女が俺に合わせて選んだって言うのもどうかと思って受け取るわけにいかなかった。
「や、申し訳ないけど受け取れないよ。」
そう言うと彼女は少し俯き加減になりながらも差し出した紙袋を引かずに言った。
「かずくんと同期って聞いてたんで・・・色違いは嫌でした?」
「いや、そうじゃないけど・・・小森が嫌がるだろ?」
俺なら自分の彼女が他の男に合わせたネクタイは欲しくない。
更に色違いのお揃いとか・・・複雑な気持ちになりそうだ。
「かずくんは嫌がらないと思いますけど・・・。」
俺は悩んだ。
これを受け取って、使わずに置いとくか・・・受け取って小森に渡すかを。
色違いを俺が持ってるって考えるだけで、小森と会う時に複雑な気持ちになりそうだ。
かといって小森にこのネクタイを渡すと『なんで彼女が桐生に?』って考えることになるだろう。
「それでもこれは受け取れない。そもそもこんなお礼をされるようなことしてないしな。」
そう言うと彼女は紙袋を引いてくれた。
俺は帰ろうと思って踵を返す。
「じゃ。」
そう言うと彼女はまた俺の手を掴んだ。
「ちょ・・・」
「じゃ・・じゃあっ・・・お礼にコーヒー・・・ならいいですか?」
それから何日か経ったある日、仕事が休みの俺は街をぶらぶら歩いていた。
そろそろ陽の光が強くなってきて、薄手の服が欲しい。
そう思って探し回っていた。
「ポロシャツが二枚くらい欲しいとこだな。そんな出かけることないし。」
病院とマンションを往復するくらいの生活。
白衣の下は私服だけど、オシャレをする必要なんてどこにもない。
むしろ動きやすさが重要だ。
「さて・・・・」
服屋を探しながら歩いてると、紳士服ものの服を売ってる店の前で立ってる女の子が目に入った。
じーっとショーウィンドウを見つめてるその子は・・・小森の彼女だ。
今日は黒のパンツに深い青のTシャツ。
薄手の白いパーカーを羽織っていて髪の毛は下ろしていた。
ショーウィンドウを見つめてる横顔は若さゆえか、とても綺麗だ。
「・・・何見てんの?」
いつの間にか彼女に向かって足を進めていた俺は、話しかけていた。
俺の声に気がついた彼女はぱっと俺を見た。
「・・・あ、病院の・・・」
「『桐生』って言います。」
自分の名前を名乗ると、彼女はショーウィンドウを指差した。
「かずくん、来週誕生日なんですよ。だからプレゼントを探してて・・・」
指差されたショーウィンドウを見ると、スーツを着たマネキンが立っていた。
「スーツ?」
「あはは、そんな高いの買えないですよ。あのネクタイがいいかなーって見てて。」
スーツを着たマネキンがつけてるネクタイは、シックな赤色のネクタイだ。
「ペイズリー柄ですけどそんな派手じゃないし?シルクみたいだから手触りもいいだろうし・・・。」
「あぁ、いいんじゃない?仕事柄、ネクタイをすることも多いし。」
そう答えると彼女は俺のことを上から下までじーっと見た。
そしてその後ニヤッと笑って・・・
「ねぇ、あのネクタイ、合わせてみてくれません?」
「へ?・・何で俺が?」
「身長も体格もかずくんと似てるし・・・なんだか雰囲気も似てるから(笑)」
確かに俺と小森は身長が同じくらいだった。
「えぇぇ・・・・。」
「ほら早くっ。」
俺は手を引かれ、強引に店の中に連れ込まれてしまった。
「いらっしゃいませ。」
店内に入るとすかさず店員がやってきた。
彼女は迷うことなくショーウィンドウを指差し、答えた。
「あのネクタイ、見せてもらえますか?」
「かしこまりました。」
店員はマネキンからネクタイを外すと、彼女のもとに持って来た。
他の店員がそのネクタイの色違いを持ってやってくる。
「こちら、マネキンがしてるネクタイと同じもので色違いでございます。よかったらどうぞ合わせてみてください。」
「ありがとうございます。」
彼女はネクタイを受け取り、俺の首元に合わせてきた。
仕方なくじっと立って、終わるのを待つ。
「うーん・・・緑のほうがいいかな・・・いやでも赤がいいと思うんだけど・・・」
ぶつぶついいながら色々手に取って合わせていく彼女。
ネクタイ一本を真剣に選んでくれる彼女とか、正直『いいな』と思ったけど合わせてる相手が『俺』というのはどうかと思った。
小森に・・・申し訳ない。
「やっぱ赤にします!これください!」
「ありがとうございます。お会計はあちらでお願いします。」
「はいっ。」
会計に向かって足を進める彼女は、ぱっと振り返って俺に言った。
「あ、待っててくださいね?」
「・・・わかった。」
なぜ待たないといけないのか分からなかったけど、言われたことは従う。
特に急ぐ用事もない。
俺は店内を見ながら彼女の会計が終わるのを待つことにした。
ーーーーー
「お待たせしましたっ。」
小さい紙袋を持った彼女が、会計を終わらせて戻ってきた。
満足のいくものが買えたのか、笑顔を振りまいてる。
「じゃ、俺はこれで。」
そう言うと彼女は俺の手をがしっと捕まえてきた。
「!?」
「これ、お礼に受け取ってください。」
彼女は小さい紙袋を二つ持っていて、そのうちの一つを俺に差し出してきた。
「え!?」
「無理矢理付き合ってもらってすみません。かずくんと色違いですけど・・・よかったら使ってください。」
その言葉から紙袋の中身はネクタイということになる。
俺自身、ネクタイはいくらあっても困るものじゃないけど・・・小森と色違いとかどうかと思った。
それに、小森の彼女が俺に合わせて選んだって言うのもどうかと思って受け取るわけにいかなかった。
「や、申し訳ないけど受け取れないよ。」
そう言うと彼女は少し俯き加減になりながらも差し出した紙袋を引かずに言った。
「かずくんと同期って聞いてたんで・・・色違いは嫌でした?」
「いや、そうじゃないけど・・・小森が嫌がるだろ?」
俺なら自分の彼女が他の男に合わせたネクタイは欲しくない。
更に色違いのお揃いとか・・・複雑な気持ちになりそうだ。
「かずくんは嫌がらないと思いますけど・・・。」
俺は悩んだ。
これを受け取って、使わずに置いとくか・・・受け取って小森に渡すかを。
色違いを俺が持ってるって考えるだけで、小森と会う時に複雑な気持ちになりそうだ。
かといって小森にこのネクタイを渡すと『なんで彼女が桐生に?』って考えることになるだろう。
「それでもこれは受け取れない。そもそもこんなお礼をされるようなことしてないしな。」
そう言うと彼女は紙袋を引いてくれた。
俺は帰ろうと思って踵を返す。
「じゃ。」
そう言うと彼女はまた俺の手を掴んだ。
「ちょ・・・」
「じゃ・・じゃあっ・・・お礼にコーヒー・・・ならいいですか?」
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