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幽霊?の正体。
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ーーーーー
それからまた三日後、午前の診察が終わり、医局でカルテの整理をしてると業務放送が流れた。
「業務連絡です。内線5番、お願いします。繰り返しますーーーーーー」
「!!・・・『スタットコール』だ!!」
緊急招集であるスタットコールは、この病院では月に何度かかかる。
スタッフの名前も言われない『内線連絡』は『緊急』を意味する。
そして『5番』は『5階』のことだ。
俺はしていた仕事をそのままにして医局を飛び出た。
外にある非常階段をダッシュで駆け上がる。
すると医師何人かと一緒になった。
「お、桐生も今日出勤か?」
走りながら聞いてきたのは同期の・・・『小森 一哉』だ。
「小森もか?科が違うから滅多に会わないしな。」
俺は内科、小森は外科。
同じ大学、同じ研修先を経て違う病院に勤務していたけど・・・
二カ月前に小森のいるこの病院に俺が来た。
「桐生が来て結構経つけど・・・もう慣れたか?」
「あぁ、だいぶな。まぁ仕事内容はどこも変わんないけど・・・スタットコールの多さが違うな。」
「前は少なかったのか?」
「滅多になかった。なのにここは二週間に一度はある。」
「まぁ、デカい病院だからな。」
俺たちは一緒になって階段を駆け上がり、現場となる場所に急いだ。
そこは廊下だったようで、もう人だかりができていて・・・結構な数の医師と看護師が対応にあたっていた。
床には大量の血。
倒れてる人の服や体にもべったりと血がついていた。
「取れるだけライン取って!」
「ストレッチャー取って来い!!」
「オペ室に連絡しました!!」
がやがやと指示が飛び交う中で、俺と小森はその様子を見ていた。
特に出番はなさそうな感じがするけど、何があるか分からない。
全てが片付くまで様子を見てると・・・近くにあの女の子の姿を見つけた。
黄色のカーディガンに、ふわふわとした茶色のスカート。
髪の毛は後ろで一つに束ねられ、側に小さい男の子が立っていた。
「あっ・・・!」
思わず声を出した俺の声に気がついた小森が、俺の視線を追った。
「ん?どうした?・・・・って、一華!?」
「え!?」
小森が驚いてる時、スタットコールがかかった患者がストレッチャーに乗せられて運ばれていった。
それを見送り、小森が彼女に向かって歩いて行った。
俺も後を追う。
「一華、何してんだ?」
小森の言葉に、女の子はしゃがんだ。
隣に立っている小さな男の子の手を取り、口を開いた。
「『スタットコール』がかかったから来た。ちょうどすぐ近くにいたし。」
「お前はスタッフじゃないだろ・・・。」
「この子、さっきの人の家族みたいなの。容態が落ち着くまで保護してあげて?」
幼稚園くらいの小さな男の子は、目に涙をいっぱい溜めていた。
かける言葉を間違えたら・・・滝のように溢れ出そうな感じがする。
「あー・・・わかった。その子は看護師に見ててもらうから・・・」
「よかったっ。」
小森は近くにいた看護師を呼んだ。
女の子はその看護師を確認してから、男の子に話しかけた。
「このお姉さんが側にいてくれるからね。だれかお家の人が迎えに来るまで・・・もうちょっと待ってようね?」
優しく・・ゆっくりと話す言葉に、男の子は安心したのか看護師のもとに行った。
手を引かれ、歩きながら振り返って・・・小さく手を振っていた。
何度も何度も。
「ふふ。ばいばーい。」
男の子の姿が見えなくなるまで手を振ってから立ち上がった彼女。
その様子を見ながら小森が後ろ手に頭を掻いてる。
「はぁー・・・・」
ため息をつく小森を他所に、俺は彼女に聞いた。
「なぁ・・・生きてる・・よな?」
そう聞くと彼女はぽかんとした顔で俺を見た。
その直後に手を口にあててクスクスと笑い始めた。
「・・・ふふっ、生きてますよ?」
「幽霊じゃ・・ない・・・。」
俺の言葉に、今度は小森がぽかんとした顔を見せた。
「はぁ?幽霊?一華が?」
「あ・・・実はーーーーー」
俺はこの前の出来事を小森に話した。
待ち合いで彼女が具合悪そうにしてたこと。
診ようと思ったら消えてたこと。
その何日か後に彼女を見かけたけど、声をかける前に消えたことを。
「あぁ、待ち合いで椅子に座ってたやつは俺が連れてった。一華が来る予定だったのになかなか来ないから探しに行ったんだよ。」
「それで『消えた』のか・・・。」
「あと、駐車場のは俺と一緒に来たときだな。こないだうちに泊まった日、送ってくつもりがお互い寝坊したし。」
小森のその言葉に、彼女はクスクスと笑いながら会話に加わってきた。
「あはは、何度も起こしたのに起きなかったのが悪いんじゃんっ。」
「お前がなかなか寝かせてくれないから寝坊したんだろ?」
二人の会話から・・・恋人同士であることがすぐにわかった。
もしかしたら俺と・・・リエ?みたいな関係かもしれないけど、俺には関係ないことだ。
「幽霊じゃないこともわかったし、俺は戻るわ。」
「おぉ、お疲れ。またな。」
俺は院内の通路を医局に向かって歩き始めた。
仕事のことを考えながらも、小森と彼女のことが頭をよぎる。
(あいつ・・・あんなタイプの子が好きなのか・・。)
随分と若そうな女の子。
くりくりの大きな目にぷくっと膨らんだ頬。
丸い顔立ちは幼く見えるけど、屈託のない笑顔で笑うその姿から小森のことを好きで・・・信頼してることがわかる。
そんな風に見てもらえる小森が少し羨ましく思った。
(俺ももう28だしなー・・・そろそろ真面目に彼女欲しい。)
彼女なんてそこらに転がってるものじゃない。
『欲しい』と思ってすぐに手に入るものじゃないのは百も承知だ。
それでも・・・同期のやつに彼女がいるとわかってしまうと欲しくなってくる。
(・・・今度どこで出会ったのかとか聞いてみよ。)
俺はこの時はまだ気づいてなかった。
まさか・・・同期の小森の彼女のことが気になり始めてるなんて・・・・。
それからまた三日後、午前の診察が終わり、医局でカルテの整理をしてると業務放送が流れた。
「業務連絡です。内線5番、お願いします。繰り返しますーーーーーー」
「!!・・・『スタットコール』だ!!」
緊急招集であるスタットコールは、この病院では月に何度かかかる。
スタッフの名前も言われない『内線連絡』は『緊急』を意味する。
そして『5番』は『5階』のことだ。
俺はしていた仕事をそのままにして医局を飛び出た。
外にある非常階段をダッシュで駆け上がる。
すると医師何人かと一緒になった。
「お、桐生も今日出勤か?」
走りながら聞いてきたのは同期の・・・『小森 一哉』だ。
「小森もか?科が違うから滅多に会わないしな。」
俺は内科、小森は外科。
同じ大学、同じ研修先を経て違う病院に勤務していたけど・・・
二カ月前に小森のいるこの病院に俺が来た。
「桐生が来て結構経つけど・・・もう慣れたか?」
「あぁ、だいぶな。まぁ仕事内容はどこも変わんないけど・・・スタットコールの多さが違うな。」
「前は少なかったのか?」
「滅多になかった。なのにここは二週間に一度はある。」
「まぁ、デカい病院だからな。」
俺たちは一緒になって階段を駆け上がり、現場となる場所に急いだ。
そこは廊下だったようで、もう人だかりができていて・・・結構な数の医師と看護師が対応にあたっていた。
床には大量の血。
倒れてる人の服や体にもべったりと血がついていた。
「取れるだけライン取って!」
「ストレッチャー取って来い!!」
「オペ室に連絡しました!!」
がやがやと指示が飛び交う中で、俺と小森はその様子を見ていた。
特に出番はなさそうな感じがするけど、何があるか分からない。
全てが片付くまで様子を見てると・・・近くにあの女の子の姿を見つけた。
黄色のカーディガンに、ふわふわとした茶色のスカート。
髪の毛は後ろで一つに束ねられ、側に小さい男の子が立っていた。
「あっ・・・!」
思わず声を出した俺の声に気がついた小森が、俺の視線を追った。
「ん?どうした?・・・・って、一華!?」
「え!?」
小森が驚いてる時、スタットコールがかかった患者がストレッチャーに乗せられて運ばれていった。
それを見送り、小森が彼女に向かって歩いて行った。
俺も後を追う。
「一華、何してんだ?」
小森の言葉に、女の子はしゃがんだ。
隣に立っている小さな男の子の手を取り、口を開いた。
「『スタットコール』がかかったから来た。ちょうどすぐ近くにいたし。」
「お前はスタッフじゃないだろ・・・。」
「この子、さっきの人の家族みたいなの。容態が落ち着くまで保護してあげて?」
幼稚園くらいの小さな男の子は、目に涙をいっぱい溜めていた。
かける言葉を間違えたら・・・滝のように溢れ出そうな感じがする。
「あー・・・わかった。その子は看護師に見ててもらうから・・・」
「よかったっ。」
小森は近くにいた看護師を呼んだ。
女の子はその看護師を確認してから、男の子に話しかけた。
「このお姉さんが側にいてくれるからね。だれかお家の人が迎えに来るまで・・・もうちょっと待ってようね?」
優しく・・ゆっくりと話す言葉に、男の子は安心したのか看護師のもとに行った。
手を引かれ、歩きながら振り返って・・・小さく手を振っていた。
何度も何度も。
「ふふ。ばいばーい。」
男の子の姿が見えなくなるまで手を振ってから立ち上がった彼女。
その様子を見ながら小森が後ろ手に頭を掻いてる。
「はぁー・・・・」
ため息をつく小森を他所に、俺は彼女に聞いた。
「なぁ・・・生きてる・・よな?」
そう聞くと彼女はぽかんとした顔で俺を見た。
その直後に手を口にあててクスクスと笑い始めた。
「・・・ふふっ、生きてますよ?」
「幽霊じゃ・・ない・・・。」
俺の言葉に、今度は小森がぽかんとした顔を見せた。
「はぁ?幽霊?一華が?」
「あ・・・実はーーーーー」
俺はこの前の出来事を小森に話した。
待ち合いで彼女が具合悪そうにしてたこと。
診ようと思ったら消えてたこと。
その何日か後に彼女を見かけたけど、声をかける前に消えたことを。
「あぁ、待ち合いで椅子に座ってたやつは俺が連れてった。一華が来る予定だったのになかなか来ないから探しに行ったんだよ。」
「それで『消えた』のか・・・。」
「あと、駐車場のは俺と一緒に来たときだな。こないだうちに泊まった日、送ってくつもりがお互い寝坊したし。」
小森のその言葉に、彼女はクスクスと笑いながら会話に加わってきた。
「あはは、何度も起こしたのに起きなかったのが悪いんじゃんっ。」
「お前がなかなか寝かせてくれないから寝坊したんだろ?」
二人の会話から・・・恋人同士であることがすぐにわかった。
もしかしたら俺と・・・リエ?みたいな関係かもしれないけど、俺には関係ないことだ。
「幽霊じゃないこともわかったし、俺は戻るわ。」
「おぉ、お疲れ。またな。」
俺は院内の通路を医局に向かって歩き始めた。
仕事のことを考えながらも、小森と彼女のことが頭をよぎる。
(あいつ・・・あんなタイプの子が好きなのか・・。)
随分と若そうな女の子。
くりくりの大きな目にぷくっと膨らんだ頬。
丸い顔立ちは幼く見えるけど、屈託のない笑顔で笑うその姿から小森のことを好きで・・・信頼してることがわかる。
そんな風に見てもらえる小森が少し羨ましく思った。
(俺ももう28だしなー・・・そろそろ真面目に彼女欲しい。)
彼女なんてそこらに転がってるものじゃない。
『欲しい』と思ってすぐに手に入るものじゃないのは百も承知だ。
それでも・・・同期のやつに彼女がいるとわかってしまうと欲しくなってくる。
(・・・今度どこで出会ったのかとか聞いてみよ。)
俺はこの時はまだ気づいてなかった。
まさか・・・同期の小森の彼女のことが気になり始めてるなんて・・・・。
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