死が二人を別こうとも。

すずなり。

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出資。

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とぅさんに研究費用のことを相談してから1週間。

俺は今・・・とぅさんの会社に来ている。

思ってたよりも大きい会社に・・・思わず口からこぼれた言葉がある。

それは・・・






秋臣「・・・でかっ!」





持っていたスーツに身を包んで、会社の前で立ってると、中からとぅさんが出てきた。

俺を出迎えるために。




父「迷わなかったみたいだな。」

秋臣「ケータイにナビがあるから。」

父「今どきは便利だな。・・・こっちだ。」

秋臣「はい。」




とぅさんに連れられて俺は会社の中に入った。

『製紙工場』で働いてると言ってた父親は・・・正確には『製紙工場の研究部員』として働いていた。

本社と呼ばれてる大きなビルの一角で・・・日夜成分の研究や新しい商品を開発してるらしい。




秋臣「俺・・・工場で働いてると思ってた。」

父「まぁ・・・あんまり変わらないさ。」




そんな話をしながらエレベーターに乗り込み、父親は17階のボタンを押した。




ピッ・・・




ぐんぐんと上っていくエレベーター。

それに伴って俺の心臓もばくばくと音を立て始めた。




秋臣「やばい・・・緊張する・・・。」

父「お前が?全国で売れてる曲を作ってるのに?」

秋臣「・・・俺は作ってるだけ。演奏してるのは雄星たちだし。」

父「まー・・・出資の話するだけなんだし・・・楽にしとけよ。」





そう・・・今日、俺はとぅさんの会社から出資の件で呼び出されたのだ。

利用価値が見いだせない『水に溶ける紙』の開発。

それに1億の出資を申し出たもんだから・・・なにか企んでるんじゃないかと思われたみたいだ。




秋臣「ただ欲しいだけなのに・・・。」

父「それを素直に伝えればいい。後々で利用価値がでるかもしれないしな。」

秋臣「・・・ガンバリマス。」





そんな話をしてるうちにエレベーターは17階に到着し、俺は大会議室に通された。

目の前にはこの会社の役員と呼ばれそうな感じのするオジサマ方が10人ほど・・・テーブルを挟んだ向こう側に座ってる。





役員「キミが工藤 秋臣さん?」

秋臣「はいっ。」

役員「どうぞ、お掛けになってください。」

秋臣「失礼します。」




用意されていた椅子に座ると・・・とぅさんは役員側の席に座った。

それも・・・俺の正面から右に2つ目の席だ。




秋臣(まさか・・・とぅさんって結構な役職についてた・・・?)




知らなかった親の一面にどきどきしてると、俺の真正面にいる人が・・・口を開いた。




役員「この度は出資のお話・・・ありがとうございます。」

秋臣「・・・はい。」

役員「なぜ『水に溶ける紙』の研究にご出資を?」

秋臣「それは・・・・・」

役員「あまり利用価値が見いだせないものより・・・他の分野にご出資される気はありませんか?」

秋臣「他の分野って・・・・・・」

役員「弊社では昔からーーーーーーーーで、-------のーーーーーーーなのでーーーーーーー」





よくわからない分野の説明を一生懸命する役員。

俺はそんな分野、一ミリも興味なかった。



役員「------ですからこちらの分野はどうでしょうか。」

秋臣「・・・あのっ・・・僕・・その分野なら出資はしません。」

役員「・・・・え?」

秋臣「僕にとっては・・・『水に溶ける紙』じゃないと意味が無いんです。」

役員「それはなぜ?」

秋臣「それは・・・」





俺は自分の言葉で・・・役員たちに伝わるように説明を始めた。



大切な人が亡くなったこと。

その人が海を泳いでみたかったこと。

その供養のために・・・水に溶ける『環境に優しい紙』が欲しいことを。





役員「・・・・では、出資後の研究成果の見返りは?」

秋臣「・・・いりません。ただ・・・その紙を定期的に購入させていただきたい。」

役員「・・・・。」





無償で1億譲ると言ってるようなものだ。

まともな大人なら『裏がある』と思って警戒するだろう。

でも俺は裏なんてない。

ただその紙が欲しいだけだ。





父「・・・ちょっとよろしいでしょうか。」

秋臣(とぅさん・・・!)

役員「なにか意見でも?」




父「近年、紙製品はリサイクルに出してもらえることが多くなってはきましたが、100%とまではいきません。環境汚染を防ぐ為にも・・・水に溶けて、尚且つ生活に役立てる製品の開発に持っていけれは・・・需要は深くなると思います。」

役員「それは・・・そうだが・・・。」

父「海で亡くなった方にお手紙を・・・という想いをもつ方は少ないでしょうけど・・・おられると思います。その需要も無視できないものかと。」

役員「確かに・・・。」

父「何よりもこれだけの出資に見返りは無し。どうか・・・息子の想いを叶えさせてやってはもらえないでしょうか。」


秋臣「とぅさん・・・・・。」





父親は席から立ち上がり・・・一歩下がって深く礼をした。

俺も立ち上がって一緒に礼をする。



役員「本来なら我々が出資をお願いしないといけないものなのですが・・・。・・・・是非、よろしくお願いします。」

秋臣「!!・・・ありがとうございます!」

父「ありがとうございます。」






俺は1億の出資をすることが決まり、安堵の息を漏らしながら会議室をあとにした。

俺の後ろからとぅさんが追いかけてくる。




父「・・・秋臣っ。」

秋臣「?・・・どうしたの?」

父「下まで送る。」

秋臣「・・・別にいいのに。」




俺はエレベーターの前に立ち、ボタンを押した。

エレベーターはすぐにやってきてくれて・・・俺ととぅさんで乗り込む。




父「これからよろしくな。」

秋臣「こちらこそ。」




その他に喋ることもなく、エレベーターは1階に到着した。

父親はビルの外まで見送ってくれ・・・その場で別れた。




父「気をつけるんだぞ?」

秋臣「わかってるよ。とぅさんもね。」

父「また家でな。」

秋臣「ん。」








水に溶ける紙の確約は取れた。

もうちょっといい感じの紙ができたらいいとして・・・俺は帰り道に文房具屋に立ち寄る。

本番に備えて練習するために折り紙を買う。





秋臣「今のとこたった1枚しかない紙を無駄にするわけにはいかないからな。」




買った折り紙は100枚。

俺は時間の空いたときに・・・『鶴』を折る練習を始めた。







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