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式のあと。
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翼「・・・・オミ、聞きたいことがある。」
着替えが終わって教会の外でりらを待ってる時、翼が俺に声をかけてきた。
神妙な面持ちから、翼と二人のほうがいいと判断した俺は両親たちの居場所を確認した。
キョロキョロと辺りを見回すと、俺の両親とりらのお兄さんは少し遠いところで話をしてるのが見える。
ここなら聞こえないだろう。
秋臣「なんだ?」
翼「・・・中谷って・・・病気・・治んないのか?」
秋臣「治らない。」
翼「治らないなら・・・余命・・とかあったりするのか・・?」
翼の手がぎゅっと握られたのが見えた。
さっきのりらの『誓い』から翼は予測を立てたんだろう。
高校生のうちにする結婚式。
『私の命が終わるまで』や『りらが俺の前から消えても』・・・の、ワード。
涙を堪える親族。
ここは本当のことを言ったほうがいいと思った。
秋臣「もってあと1年。」
翼「!!・・・・それ、まじかよ・・。」
秋臣「翼はさ、『前倒しテスト』って知ってるか?」
翼「希望する奴は先々のテスト受けれるやつだろ?めっちゃ難しいって聞いたことある。」
秋臣「それ、俺とりらは受けてる。次が卒業試験なんだよ。」
りらは半年前に卒業試験を受けたけど通らなかった。
難しいのと、発作が重なって厳しかったみたいだ。
翼「え!?」
秋臣「高校は卒業したいんだってさ。試験さえクリア出来たらりらは卒業できる。」
翼「あと1年とか・・・オミは信じてるのか?」
秋臣「いいや?でも・・・発作も増えてきてる。大きいのが来るたびに・・・りらの命が削られていくのがわかるんだよ・・・。」
付き合い始めた頃よりも元気はない。
息切れするのも早くなってきた。
風邪一つでも・・・恐怖感に襲われる。
翼「でも・・・・!」
翼が何か言いかけた時、式場のスタッフの人が慌てて駆けてきた。
スタッフ「すみません!花嫁さまが倒れられて・・・!!」
りらの発作が出た。
俺はりらのお兄さんに向かって叫ぶ。
秋臣「お兄さん!!りらが発作です!!」
葵「!!・・・すぐ行く!」
式場のスタッフさんと共に、りらが着替えてる部屋に向かった。
走ってりらのもとに向かう途中で、りらのお兄さんがケータイを使って電話をかけてる。
葵「もしもし?中谷だけど、救急車頼む。場所はーーーーーーー」
りらの発作が軽度であっても、重度であっても病院に連れて行くことは必須。
軽度であることを祈りながら、りらが着替えをしてた部屋に飛び込んだ。
秋臣「りら!!」
葵「!!」
ウエディングドレスからラフな服に着替えたところで倒れたっぽいりら。
痛みに耐えるためか、身体を横向きにしてる。
いつもなら苦しそうに息をしてるのに・・・今回は完全に意識がなさそうだった。
葵「りら!起きてるか!?」
お兄さんが声をかけながら頬を叩くけど、何の反応もない。
お兄さんはすぐさま呼吸の確認をして、状態を診始めた。
葵「息はしてる。・・・・ただ弱いな・・。」
秋臣「!!・・・・俺、救急車の誘導してきます!」
葵「頼む。」
そのまま部屋を飛び出して、俺は式場の駐車場に向かった。
ほどなくして到着した救急車を誘導して、りらを乗せた。
葵「オミはあとで来い。」
秋臣「・・・お願いします。」
ピーポーピーポーと音を立てて走り去る救急車を見送り、俺は式場に戻った。
スタッフの人に迷惑をかけたことを謝って回る。
秋臣「お騒がせしてすみませんでした。」
スタッフ「いえいえ・・・お幸せになってくださいね。」
秋臣「ありがとうございます。」
式場を出ると、両親と翼が心配そうに駆け寄ってきてくれた。
母親なんてもう泣きそうだ。
母「りらちゃんは!?大丈夫なの!?」
秋臣「かぁさん・・・大丈夫だから。俺はこのまま病院いくし・・・二人で帰れる?」
父「家のことは気にするな。早く病院に向かいなさい。」
秋臣「ありがと。」
翼「・・・・頑張れよ。」
秋臣「おぅ。」
俺は3人と別れ、タクシーを拾って病院に向かった。
ーーーーーーーーーー
葵「早かったな。」
病院につくと、りらは部屋で眠っていた。
点滴を5つぶら下げて・・・。
秋臣「今日はまた・・・点滴が多いですね・・。」
葵「まだ学校には行きたいだろうからな。ちょっと強いやつ入れてる。・・・ってか、これが最後の種類だな。」
秋臣「最後って・・・・」
葵「これが一番強い薬なんだよ。」
お兄さんの説明では、りらは最初、薬の成分がそんなに強くないものから始めてて・・・効かなくなると少しずつ強い薬に変えていってたそうだ。
葵「しばらくはこれでもつ。もう体育はさせないからオミも見ててくれよ?」
秋臣「わかりました。」
すぅすぅと気持ちよさそうに眠ってるりら。
その頭を撫でて・・・りらの目が覚めるのを待った。
りらは点滴が終わるまで眠り続けて・・・5時間が経った頃、りらの目が覚めた。
りら「んぁ・・・・?」
秋臣「お、目が覚めた?」
りら「んー・・・・。」
目を擦りながらベッドから体を起こしたりら。
俺はその体を支えながら、ナースコールを押した。
最初の頃はナースステーションまで言いに行ってたけど、何回かするとりらのお兄さんがナースコールの存在を教えてくれたのだ。
ピーッ・・・ピーッ・・・ガチャンッ・・・
秋臣「切られたな。お兄さんが来るぞ?」
りら「んー・・・。」
まだ眠いのか目を擦り続けてる。
秋臣「まだ寝るか?」
りら「だいじょーぶ・・・。」
乱れたりらの髪の毛を手で押さえながら整えてると、廊下でパタパタと人が歩いてくる音が聞こえてきた。
あれはお兄さんだ。
ガラガラガラ・・・
葵「りらー、目が覚めたって?」
りら「うんー・・式場で倒れた・・・。」
葵「記憶はしっかりしてそうだな。もう体育はするなよ?先生にも言っとくから。」
りら「うー・・・はい・・。」
りらのお兄さんはりらの診察を終わらせて部屋から出て行った。
俺はまだ眠そうなりらの身体をベッドに沈めて・・・俺もベッドに潜り込んだ。
りら「ちょ・・・せまいんですけど・・・。」
秋臣「俺も一緒に寝る。今日は楽しかったし幸せだったけど・・・ちょっと疲れた。」
りら「・・・ふふ、じゃあ一緒にお昼寝しよっか。」
秋臣「・・・っと、その前に。」
俺はポケットから小さな包みを取り出した。
それをりらの手に握らせる。
りら「?・・・これなに?」
秋臣「開けたらわかる。これから必要になるもの。」
りら「?」
りらは寝っ転がったまま包みを開け始めた。
ガサガサと包みを開けていくと・・・
中から出てきたのは印鑑だ。
りら「!!・・・ハンコ!」
秋臣「いるだろ?その名字のハンコ。」
彫ってあるのは『工藤』の文字。
書類関係に判を押すときには必要になってくる。
りら「いる!それにかわいい・・・。」
秋臣「そんなのも流行ってるんだってさ。」
りらに渡したのはピンクのハンコ。
回りにキラキラと光る石も埋まってて・・・アクセサリーみたいだ。
りら「すごい・・・。」
秋臣「使ってくれよ?・・・奥さん。」
りら「!!・・・はいっ。」
俺の腕にりらの小さい頭を乗せてぎゅっと抱きしめた。
そのまま背中を擦りながら・・・幸せを感じながら俺たちは眠っていった。
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