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いつもの海。
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秋臣side・・・
年は明け、寒くて寒くて仕方がないある日、りらが海に行きたいと言い出した。
りら「いつものとこ行こ?」
学校の昼休みに弁当を食べてるときのことだった。
教室内というのに首にはマフラー、耳にはマスクが引っかかってる。
ご飯を食べるために顎にずらしていた。
秋臣「・・・いいけど寒いぞ?」
りら「行ったらすぐに帰るからっ、カイロもいっぱい持ってくし・・・!」
まだりらから『結婚』の返事をもらってない。
りらの様子からして・・・きっと返事だろう。
秋臣「・・・わかった、お兄さんにはちゃんと言っとけよ?」
りら「わかってるー。」
昼ご飯を食べ終え、5時間目の授業を受けた俺たちは放課後、学校帰りにそのまま電車に乗り込み、いつもの海に向かった。
ガタゴトと電車に揺られて1時間。
もう夕陽が完全に沈みそうなとき、俺たちは海に着いた。
秋臣「座らせたいけど・・・冷たいから無理だな。」
いつも腰かける岩は、外気温の影響でかなり冷たくなっていた。
座らせるとりらの身体が冷えてしまうことは明白だ。
りら「立ったままでいいよ。」
秋臣「そう?」
次の電車が来るまでは30分。
俺たちは駅に近いところで立ったまま海を見つめていた。
寄せては返す波が出す音だけ・・・よく聞こえる。
りら「あのね?前に言ってくれてた『結婚』のことなんだけど・・・。」
秋臣「・・・・うん。」
りら「私と結婚したらきっとオミくんの重荷になる。」
秋臣「・・・・・うん。」
りら「私がいなくなったあとも・・・私を忘れることができなくなっちゃうよね?きっと。」
秋臣「忘れるわけないだろ?こんなに好きになったんだから・・・。」
俺の秘密まで明かした。
それだけりらのことを大事に思ってる。
りら「でも・・・覚えてて欲しいの・・。」
秋臣「・・・え?」
りら「私のこと、忘れないで・・・っ・・・ずっと私だけを好きでいて欲しい・・・。」
秋臣「りら・・・。」
りら「我儘なのは・・・わかってる。私がいなくなったあとも私の事をずっと好きでいてくれるなら・・・結婚・・・したい。」
りらは目に涙を溜めて・・・俺の目を見るために見上げてきた。
水平線上と同じ高さにある夕陽が・・・りらの目に溜まった涙を照らしていた。
秋臣「・・・・俺はりら以外の人は見ない。それは・・・俺の命が朽ちるまでだ。ずっと・・・俺と一緒にいてくれる?」
そう聞くとりらは目に溜めていた涙を一粒こぼした。
りら「・・・はい。」
秋臣「幸せにするから・・・。」
りら「ふふ。もう幸せだよっ。」
ぎゅっとりらの身体を抱きしめたとき、ちょうど電車が来る音が聞こえた。
秋臣「やばっ・・!駅に戻るぞ。」
りら「うんっ。」
俺たちは慌てて駅に戻り、電車に飛び乗った。
ガラガラの車内で椅子に座り、手を繋ぐ。
りら「・・・・ふふ。」
秋臣「嬉しそうだな。」
りら「うんっ。」
秋臣「このまま病院行って、お兄さんに言うからな?わかった?」
りら「うんっ。またここに来ようね?」
秋臣「そうだな、もうちょっと暖かくなってからにしような。」
来た時と同じように電車に揺られ、俺たちはりらの病院に戻った。
りらは疲れたのか・・・それとも嬉しいからか、俺の肩にもたれかかって、時々クスクス笑っていた。
その姿も愛しくて、りらの頭に俺の頭を乗せたりする。
りら「重いー・・・。」
秋臣「そう?」
りら「でもいいよ?」
秋臣「・・・ははっ。」
傍から見ればラブラブなカップルか・・・『バ』のつくカップルだろう。
りらが可愛いことは事実だし、想い合ってることもまた事実。
俺たちの時間がより濃いものになるように・・・りらの手をぎゅっと握った。
ーーーーーーーーーー
病院に近い駅で電車から降りた俺たちは、りらの部屋に向かって歩き始めた。
もう真っ暗になってしまった道。
りらが珍しく・・・俺の仕事のことを聞いてきた。
りら「オミくん、仕事は?また曲作ってるの?」
『クレセント』に提供してる俺の曲。
最初の頃は打ち合わせや編曲作業で忙しかったけど・・・最近はクレセントがツアーに回ってて俺は暇だった。
秋臣「ぼちぼち書いてる。りらと付き合い始めて半年くらいで100曲くらいできたからなー・・編曲作業が結構面倒くさいな。」
りら「へぇー・・・また聞かせてね?」
秋臣「もちろん。」
歩きながら病院の入り口をくぐる。
エレベーターに乗って5階に上がり、部屋に入るとお兄さんがソファーに座っていた。
俺たちを待ってたかのようだ。
葵「・・・おかえり。」
りら「ただいまー。」
秋臣「オジャマシマス・・・。」
部屋に入るなり、座っていたソファーから立ち上がるお兄さん。
俺とりらが繋いでる手を・・・仁王立ちで見てくる。
秋臣「?・・・あの・・・」
葵「式はなるべく早くな。」
秋臣「へ!?」
葵「?・・・『結婚』・・することにしたんだろ?」
秋臣「そう・・・ですけど・・。」
葵「学校側には言うなよ?面倒だからな。」
秋臣「・・・そうですね。」
結婚が原因で停学や退学になると俺もりらも困る。
りらは高校卒業を目指して頑張ってるんだから。
葵「オミの誕生日前後で式をして婚姻届出してこい。挙式のプランが決まったら教えてくれ。」
そう言ってりらのお兄さんは部屋から出ていった。
りら「挙式・・・って、ドレス着れるの?」
秋臣「着たい?・・・ってか、着て欲しいけど。」
りら「!・・・着る!」
秋臣「じゃあ明日、学校帰りに本屋行こう。式場のこと調べないと・・・。」
りら「行く行く!」
こうして俺たちは次の日から忙しくなった。
普段の勉強に加えて、前倒しテストの勉強。
式場のことや、ドレス、小物のことを調べて申し込み、打ち合わせ。
さらに俺は作曲や編曲の仕事をこなしていく。
秋臣「前倒しテストが最後の一つで助かったな・・・。」
暇さえあれば受け続けた前倒しテスト。
りらが発作を繰り返してるうちに、とうとう俺はりらに追い付いたのだ。
秋臣「式が終わったら・・・二人でテストだな(笑)」
挙式することを決めてから数週間。
りらは発作を起こすこともあったけど、なんとか挙式当日までに打ち合わせを終わらせることができた。
楽しい準備をする時間はあっという間に過ぎるもので・・・
とうとう明日は・・・結婚式だ。
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