40 / 56
りらの誕生日。
しおりを挟むーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
夏休も終盤に差し掛かった8月の下旬。
セミがまだミンミンとうるさい中、
俺は大きな箱を抱えながらりらのいる病院に向かって歩いていた。
秋臣「あっちー・・・。」
今日の最高気温は38度。
りらが外に出たら一瞬で倒れる気温だ。
秋臣「今日も散歩はできないな・・・ま、これを渡したらこれで遊ぶか。」
抱えてる大きな箱の中身は・・・りらへの誕生日プレゼントだ。
明日に誕生日を控えてるりらに・・・1日早いけどプレゼントを渡す。
秋臣「喜ぶ・・・といいけど・・。」
そんなことを考えながら病院についた俺はナースステーションを横切ってりらの部屋に向かった。
部屋の前で一旦荷物を置いて汗を拭う。
秋臣「病院の中は冷房効いてるから・・・一気に汗が出てきたな。」
拭えど拭えど汗は止まらない。
秋臣「もうこのままでいっか。」
俺は置いていた荷物を抱え、汗を流しながら部屋のドアをノックした。
コンコン・・・
りら「はーいっ。」
ガラガラとドアを開けて中に入る。
秋臣「おはよ。」
りら「おはよ・・・ってどうしたの?その荷物にその汗・・・。」
秋臣「外、超暑い・・・明日、誕生日だろ?一日早いけど・・・プレゼント。」
そう言ってソファーの前にある小さいテーブルの上にプレゼントが入った箱を置いた。
りら「・・・え!?私、オミくんのとき何もあげてないよ!?」
秋臣「あのときもりらは調子悪かったからな・・・。」
春生まれの俺の誕生日は季節の変わり目だ。
寒い日が数日続いて・・・りらが熱を出したんだった。
りら「なのに・・・・」
秋臣「じゃあ次の誕生日、期待してる。」
りら「!!・・・わかった!」
秋臣「とりあえずこれ・・・誰よりも一番に渡したくて今日持ってきた。・・・開けてみて?」
りらは箱をガサガサと開け始めた。
結構大きめな箱から出てきたのは・・・
りら「!!・・・ちっちゃいグランドピアノ!」
秋臣「『トイピアノ』ってやつな。ちゃんと音もでる。」
前にうちに遊びにきたとき、俺のピアノの音を気に入ってたりら。
よくレンタルするCDの中に、ピアノオンリーのCDもよくある。
ピアノの音が好きそうだったから・・・これにした。
りら「押してもいい!?」
秋臣「キレイな音がすると思うよ。」
りらは人差し指で一つ鍵盤を押した。
♪~・・・
りら「すごい・・・!」
秋臣「気に入った?」
りら「こんなすごいのもらっていいの・・・?」
秋臣「指輪・・・とかのほうがよかった?」
付き合い初めて一年。
アクセサリー系を買ってもよかったけど、それは大事な時に取っておきたかった。
りら「!?・・・やっ・・!そんなのもったいないし・・・!」
秋臣「?・・・まぁ、調子が良くても出れない時に遊んで?」
りらはトイピアノが気に入ったのか、ベッド脇の小さな棚に置いた。
棚はベッドの高さとほぼ同じで・・・寝ながらも手を伸ばせば鍵盤を押せそうだ。
りら「・・・ありがと。」
トイピアノを撫でながら俺を見て笑うりら。
その姿が可愛くて・・・俺は両手を広げた。
秋臣「りら、抱きしめていい?」
手を繋ぐことはほぼ毎日ある。
キスも・・・何度かした。
その先に進みたいと思うこともあるけど、りらの身体には負担がかかる。
・・・抱きしめるだけでも・・・十分だ。
りら「・・・いいよ?」
そう言ってりらは俺の前まで歩いてきて・・・ぎゅっと抱きついてきた。
秋臣「・・・ちっさ。」
ぎゅっと抱きしめ返して・・・りらに言う。
秋臣「16歳、お疲れ。17歳の一年も楽しく・・・一緒にいような。」
りら「!!・・・・うんっ。」
いつもにこにこ笑いながら部屋で勉強したり・・・学校に来たりしてたりら。
外の暑さが少しマシになってきたころ、俺たちはまたあの海に行ったり・・外でデートをしたり・・・。
『運動』という制限を除けば、普通のカップルと同じような時間を過ごしていってた。
時々発作を起こしたり熱を出したりすることもあったけど、とても大きな病気を抱えてるようには見えなかった。
でもそれは『見えない』ってだけで・・・病魔は着実にりらの命を喰っていってた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
秋臣「・・・また発作ですか・・。」
暑い季節は終わって、寒い季節になった。
その寒さにやられたのか、りらはよく発作を起こすようになってきた。
学校に行くために迎えにくると・・・点滴をしながらりらはベッドで横たわっていた。
葵「そんなにデカくはないんだけど・・・ちょっと続き過ぎてるな・・。」
ベッドで苦しそうに息をしてる姿が・・・見ててこっちも苦しくなる。
りら「はっ・・はっ・・・。」
葵「薬、効いてきたら楽になるからな。」
りら「だ・・いじょぶ・・・。」
胸を押さえて身体を丸くしてることから・・・きっと痛いんだと思った。
秋臣「りら?俺にできることある?」
苦しそうだから背中を擦りながら聞いた。
少しでも楽になったらいいと思って・・・。
りら「まだ・・・大丈夫だから・・・がっこ・・行って・・・。」
秋臣「ここにいたいんだけど・・・。」
りら「帰りに・・・寄ってくれたら・・・嬉しい・・・。」
秋臣「・・・・わかった。」
俺は手を伸ばしてりらのトイピアノの鍵盤に触れた。
最近りらが気に入ってる曲のワンフレーズを奏でる。
♪~・・・
りら「・・・・ふふ。」
秋臣「行ってくる。またあとで来るから。」
りら「いってら・・しゃい・・。」
俺は鞄を持ってりらの部屋を出た。
歩きながら・・・自分の胸が嫌な音を立ててる。
秋臣(このまま死ぬとか言わないよな・・・?)
りらが発作を起こすたびに襲われる恐怖。
当の本人であるりらはもっと怖いことだろう。
秋臣(今の医療じゃ治せない。・・・そうお兄さんは言ってた。)
治したくても治せない。
医者にも限界がある。
それはこの1年半、りらとお兄さんを見てきてわかってるつもりだった。
秋臣(時間が限られてるなら・・・もっと一緒に入れる方法ってないのか・・?)
そんなことを思いながら学校につき、俺は授業を受け始めた。
10
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
あの頃に戻れたら、会いたいだけで会いに行ける
川原にゃこ
恋愛
文官アルドリック・オルテガと女官メルロスは誰もが羨む恋仲であった。もう三つの春を共に過ごしたのだから、その付き合いは長い。そもそもの始まりは堅物のアルドリックの方からメルロスに何度も何度も熱っぽく求愛したのだから、何とも分からないものである。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる