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初めてのプール。
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梅雨が明け、セミがミンミンとうるさく鳴き始めたある日のクラス会。
翼が教壇に立って・・・黒板に日にちを書き始めた。
『7月23日』
生徒「『7月23日』?」
生徒「なんかあんの?」
生徒「その日って日曜じゃない?」
意味深な感じのする書き方でクラスの全員が翼に注目した。
それはりらも例外じゃない。
りら「?」
翼「・・・この高校のすぐ近くに市民プールがあるの・・知ってるよな?」
生徒「知ってるー。」
生徒「結構でかいもんな。」
翼「そこの職員さんから・・・『タダ』で使わせてくれるって話が舞い込んできた。」
そう翼が言うと、クラスのみんなが一気に騒ぎ始めた。
生徒「うそ!?タダ!?」
生徒「あそこスライダーとかめっちゃ本格的なのある・・・!」
翼「点検を兼ねてプールの水を半分くらい抜くそうだ。それでもいいなら・・・貸し切りで遊ばせてもらえるらしい。・・・・みんな行くよな!?」
生徒「行く行く!!」
生徒「全然おっけー!!」
翼「じゃあみんなこの日が予定空けとけよ!?」
生徒たち「ラジャー!!」
とんとん拍子に話は進み、クラスの全員がオッケーを出した。
ただ、りらだけはどうしようか迷ってる顔をしてる。
行きたくても心臓に疾患のあるりらは・・・プールで泳ぐなんて無理な話だ。
秋臣「りら?お兄さんに聞いてみたら?プールはダメだろうけど水は半分みたいだし・・・。」
そう聞くとりらはケータイを取り出した。
指が画面を忙しそうに押してる。
お兄さんにメールを打ってるみたいだ。
秋臣(いつもなら『帰ったら聞いてみるー。』とかいうのに・・・許可が下りる確信持ってるな。)
今日、クラスのみんなに話をすることはお兄さんも知ってる。
おそらくすぐに返信が来るだろう。
ピピッ・・・
思った通りすぐに返信がきた。
りらはケータイの画面を見て目を輝かせた。
りら「!!・・・私も行くっ・・!」
翼「!!」
秋臣「!!・・・楽しみだな。」
りら「うんっ。」
このクラス会が終わった後、急ぎ足で病院に帰ったりらは、お兄さんに水着を催促したらしい。
あとでお兄さんから俺にメールが来て、そのことを知った。
秋臣(楽しみだなー・・・りらの水着・・。)
プールに行く日を楽しみにしながら、俺たちは暑い毎日を過ごしていった。
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7月23日・・・
朝早くから俺はりらのお兄さんと一緒にプールの水深チェックをするためにプールに来ていた。
流れるプールや、25メートルプール、波のプールの深さを一つ一つ入念にチェックしていく。
葵「うん、大丈夫。念のためにスタッフの一部にうちの看護師いれてあるし。」
秋臣「助かります。」
葵「いや、こっちこそ・・・。こんな大掛かりなのは俺はできないしな。」
秋臣「前に海に行った時に『波ってどんな感じ?』って聞いてきたんで・・・入らせてあげたいって思っただけです。」
りらの望むことで叶えられることはしてあげたい。
だから今日のプールを計画しただけだ。
葵「・・・聞くのも怖いんだけどさ、ここの貸し切り料って・・いくら払ったんだ?」
俺のことを恐る恐る見るお兄さん。
俺はいくら払ったのか頭の中で計算した。
秋臣「えーと・・・だいたい・・・2000万くらいですかね。」
葵「!?!?・・・はぁー・・りらの為にとはいえ申し訳ない・・。」
秋臣「?・・・そうですか?全然安いですけど・・。」
葵「!!・・・怖いわ、その金銭感覚・・・。」
そのあと、俺とお兄さんは別れた。
お兄さんは病院に戻り、俺は一旦家に戻る。
昼を挟むとりらのご飯が大変だから、みんなとの集合はお昼からになった。
早めの昼ご飯を済ませて・・・りらを病院に迎えに行き、二人でプールに向かった。
ーーーーーーーーーー
りら「!!・・・すごいっ!」
市民プールの入り口をくぐったりらは、プールを見て驚いていた。
聞けばプールは入ったこともないし、テレビで見ただけの存在だったらしい。
秋臣「もうすぐ他の女子たちも来るし・・・ロッカー行って着替えてきな?」
りら「はーいっ。」
女子更衣室に入っていったりらを見送り、俺も男子更衣室に入る。
女子と違って着替えが楽な俺は一瞬で着替えて更衣室を出た。
翼「オミーっ、来るの早いな。」
秋臣「翼。」
俺が更衣室をでたところで翼と他、数人のクラスメイトが入場してきた。
みんな浮き輪やビーチボールを手に持ってる。
秋臣「いいの持ってんな。」
翼「いいだろ?必要なら言え、貸してやるから。」
秋臣「さんきゅ。あと・・・写真、頼むな。」
水に濡れても大丈夫なカメラを翼に渡してあった。
りらは・・・おそらく今日が最初で最後のプール。
ならあとで思い出せれるように写真にしときたかった。
翼「任せろ。ついでにクラスメイトの分も取って焼き増し代頂いてやる。」
秋臣「おぉ、それいいな。みんなのも取ってやって。」
翼たちも更衣室に入っていき、俺は暇だから身体を軽くほぐし始めた。
ぐぐー・・・っと腕を伸ばしてると、りらを含んだ女子たちが更衣室から出てきた。
なにやらきゃあきゃあ言いながら・・・。
秋臣「?・・・なんだ?」
目をやるとそこにはりらの姿。
照れくさそうに・・・俺を見ていた。
秋臣「---っ!」
りら「・・・どう?水着・・。」
秋臣「どうって・・・・めっちゃかわいいしか出てこないんだけど・・。」
りら「ふふっ。・・・上がフレアで下は花柄プリントのパンツ・・・に、見えるけど実はワンピースなんだよ?」
俺には水着の種類はわからない。
興味もないし、知りないとも思わなかった。
でも・・・水着の裾を持ってクルっと回って見せてくれたりらに良く似合ってて・・・
それがものすごくかわいいってことだけはわかった。
きっと水着が嬉しいんだろう。
秋臣「へぇー・・・カーキ色、よく似合ってる。」
りら「えへへ。ありがとっ。」
俺はりらの手を取ってプールサイドを歩き始めた。
腰元まである真っ黒な髪の毛は、濡らしたくないのか頭のてっぺんでお団子になってる。
りら「どこからいく?」
秋臣「波んとこ。海の波、知りたいんだろ?」
りら「!!・・・うんっ!」
最小限にしか波立たないようにしてもらってる波のプール。
ちゃぷちゃぷと中に入って・・・膝くらいのところで足を止めた。
りらの両手を持ってこけないようにする。
りら「わっ・・・すごいすごいっ、水が動いてるーっ。」
秋臣「ははっ。・・・泳げないし・・・波打ち際に座るか。」
少し浅いほうに移動して、俺たちは座った。
打ち寄せる波は足首のところでちゃぷちゃぷと音を立ててる。
りら「すごーいっ。」
秋臣「あとで流れるプールもいこうな。」
りら「うんっ。」
りらの身体じゃプールは30分が限界。
お兄さんと打ち合わせをしたときにそう聞いていた。
秋臣(普通のプールはいいとして、流れるプールは体験させてあげたいんだよなー。)
制限のあるなかでどう移動するかを考える。
秋臣「りら、お兄さん、プールはどれくらい大丈夫って言ってた?」
りら「えーと、30分だよ?ちょっとなら浮き輪で浸かってもいいって。」
秋臣「そっか。なら流れるプール行こう。」
りら「行く行くっ。」
波のプールもそこそこにして、俺たちは流れるプールに向かった。
途中、翼を見つけて浮き輪を借り、りらにかぶせる。
りら「これ・・・沈まない?」
浮き輪が初めてだからか不安げに聞いてくるりら。
体育以外はいつも平然とこなすしてるのに・・・
いつもの姿からは想像もできない表情を見せてる。
秋臣「沈んだら浮き輪の意味ないだろ?ゆっくりでいいから身体を預けて・・・」
腰までしかない水の深さ。
りらはちゃぷんっと音を立てて浮き輪に身を預けた。
りら「!・・・すごい!」
秋臣「ちゃんと浮いただろ?もう、終了な。」
一瞬だけ泳いだりら。
たった一瞬なのに嬉しそうに俺を見た。
りら「泳げた!」
秋臣「うん。りらはカナヅチじゃないことが証明されたな(笑)」
りら「うんっ。お兄ちゃんに自慢するっ(笑)」
流れるプールも浸かることができないから、俺たちは手を繋いで歩いていた。
時々クラスメイトがやってきては冷やかしていくけど・・・1周もすればもうタイムアップだ。
りらは近くにいるクラスメイトたちに向かって叫んだ。
りら「私、今日用事があるからもう帰るねーっ?」
生徒「そうなの!?早くない!?」
りら「ちょっとでもみんなと遊びたかったから来たのっ(笑)じゃあまたねーっ。」
更衣室に向かって足を進めるりら。
俺も後を追って帰ることにする。
秋臣「俺、りらと一緒に帰るわ。またな、みんな。」
生徒「またなーっ。」
翼「またなーっ。」
俺たちは別々の更衣室で着替えを済ませ、プールをあとにした。
りら「プールって楽しいねっ。」
帰り道を歩きながらりらが嬉しそうに言った。
少し濡れてる髪の毛が、『プールの帰り』って感じを醸し出してて・・なんとも言えない。
秋臣「そうだな。俺はりらと一緒ならどこでも楽しいけどな。」
りら「!!・・・もうっ。」
秋臣「ははっ。」
りらをちゃんと病院に送り届け、俺は帰路につく。
毎日のように同じ道を歩くけど・・・頭の中はりらのことでいつもいっぱいだ。
秋臣(りらはプールが楽しかったことで頭がいっぱいみたいだったけど・・・誕生日のこと忘れてね?)
来月下旬に控えてる『りらの誕生日』。
何をプレゼントするのか・・・悩む。
秋臣(去年は発作起こしちゃって曖昧になったんだよなー・・・今年こそは・・・!)
新たなイベントに心を燃やしながら・・・家に帰った。
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