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りらが来た。
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りら「お・・お邪魔します・・・。」
秋臣「どうぞ(笑)」
月曜から体調がよかったりらは、木曜日、学校帰りにうちに遊びに来た。
玄関のドアを開けるなり、母親がパタパタと走って出迎えに来る。
母「まぁまぁりらちゃんっ。いらっしゃいっ。」
りら「あ・・・お久しぶりです。」
母「ご飯まで時間があるから秋臣の部屋で遊んでてね?」
りら「ふふっ。ありがとうございますっ。」
秋臣「・・・りら、こっち。」
俺はりらを自分の部屋に案内すべく、前を歩きながら階段に向かった。
りら「・・・2階?」
秋臣「そ。ちょっと特殊だけど・・・驚くなよ?」
りら「?」
階段をゆっくりとあがり、2階にたった一つしかないドアの前に立った。
りら「ドアが一つ・・・。」
秋臣「2階は全部俺の部屋なんだよ。」
りら「全部!?」
重たいドアを開けるためにドアノブに手をかけ・・・押し開けた。
ガッチャ・・・!!
秋臣「どうぞ?」
ドアを支えてりらを部屋に入れる。
りらは一歩足を踏み入れて・・・俺の部屋の中を見まわした。
りら「うわぁ・・・すごい!グランドピアノがある・・・!」
秋臣「小さいときに買ってもらった。この部屋、完全防音だから弾いても音は漏れないよ。」
そう言ってピアノの椅子を引き出し、りらを手招きした。
ピアノに寄ってきたりらを椅子に座らせて鍵盤を一つ押した。
♪ー・・・
りら「きれいな音・・・。」
秋臣「りらはなんか弾ける?」
りら「!!・・・全く弾けないっ。」
秋臣「適当に押していいよ?」
そう言うとりらは人差し指で・・・鍵盤を押した。
♪ー・・・
りら「!!・・・・へへっ。」
秋臣「!!・・・かわい。」
にこにこ笑うりらの隣に座り、右手を鍵盤の上に乗せた。
クレセントの代表的な曲の主旋律を・・・片手で奏でる。
♪~♬♪・・・
りら「あっ・・!この曲・・・!」
秋臣「好きなんだろ?」
りら「うんっ。」
クレセントの曲や、クラシック、テレビでよく聞く音なんかを鳴らしながらりらは俺の部屋でくつろいでいた。
ソファーに座って曲作りのことを話したり・・・りらが俺の卒アルを見つけてきて一緒に見たり・・・。
気がつくと日は暮れて・・・部屋の内線が鳴った。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
秋臣「あ、たぶんご飯だな。」
りら「・・・部屋に電話があるの!?」
秋臣「防音室だから下から呼ばれても聞こえないんだよ。いちいち上がってくるのが面倒だからって内線電話つけた、」
りら「病院みたいだね(笑)」
秋臣「まぁ(笑)下に行こうか。食べたら送るから。」
そう言ってまた重たいドアを開け、りらと一緒にリビングに下りた。
ーーーーーーーーーー
りら「・・・すごい!」
母「いっぱい食べてねー?」
食卓に所せましと置かれたおかずたち。
おそらくすべてが『りら仕様』だ。
母「あ、ちょうどお父さんも起きて来たみたいね。」
俺たちが食卓に座ると同時にダイニングに入ってきた父親。
その姿を確認したりらが、椅子から立ち上がった。
りら「はっ・・初めましてっ、中谷りらですっ。」
父「・・・いつも秋臣がお世話になってます。」
ぺこぺことお互いに頭を下げる二人。
その様子を見た母親が止めに入った。
母「ほらっ、みんな座ってっ。」
りら「はいっ。」
父「はいはい。」
席に着くと、母親がご飯の説明を始めた。
母「今日のご飯は全部りらちゃんに合わせてるからね?足りなかったら自分たちでドレッシングとかかけてね?」
りら「!!・・・すみません・・私の為に・・。」
母「いいのよ、たまにはこんな日があっても。じゃあ食べましょ?」
『いただきます』をして食べ始めたご飯。
どれも味はなく・・・父親はすぐにドレッシングを手に取った。
父親「・・・薄い味もいいんだけど・・・ごめんね?」
りら「!!・・いえっ、私の為にありがとうございます。」
父親「・・・二人は付き合ってるんだろう?秋臣のこと聞いた?その・・・・」
りら「音楽のことはこの前教えてもらいました。」
父親「そう。まー・・ちょっと変わった子だけど・・・よかったら長く付き合ってやって?」
りら「そう・・・ですね・・・。」
一瞬だけ悲しそうな顔をしたりら。
すぐにいつもの笑顔に戻ったけど・・・
秋臣(長く・・・か。)
りらは美味しそうにご飯を食べて・・・母親と楽しそうに喋っていた。
俺も父親もあまり話さないからか、母親も嬉しそうにりらと喋ってる。
母「りらちゃんがお嫁に来てくれたら毎日が楽しいだろうにねー。」
りら「!?」
秋臣「!?・・・ごほっ・・!」
爆弾のような発言をした母親の言葉に、俺は口に入れていたおかずの飲み込み方を間違えた。
むせながらも聞き返す。
秋臣「ごほっ・・!ごほっ・・!お嫁って・・・!」
母「あら、二人が別れなければいつかは結婚するでしょ?」
りら「やっ・・それは・・・・」
秋臣「そんな先のことはわかんないよっ。」
母「あら、残念。」
全然残念そうな顔をしてない母親。
ご飯を食べるながらちらっとりらをみると、顔を真っ赤に染めていた。
秋臣(嬉しい・・のか?)
ちらちらりらを見てると、早々にご飯を食べ終わった父親が椅子から立ち上がった。
父「ごちそうさま。仕事の用意してくる。」
母「はいはい。お弁当の用意するから待っててね。」
父「ん。」
母親も椅子から立ち上がりキッチンに向かっていった。
俺とりらがダイニングテーブルに残される。
秋臣「・・・ごめんな?親たちが変なこといいまくって・・・。」
そう言うとりらは手をブンブン振って否定してきた。
りら「そんなことないよっ。楽しいよ?」
秋臣「ならいいけど・・・。」
そんな話をしてるうちに俺たちもご飯を食べ終わった。
りらは自分が使った食器を重ねてキッチンに持って行く。
りら「ごちそうさまでした。おいしかったですー。」
母「あら、置いといてくれてよかったのに。でもありがとう。また遊びに来てね?」
りら「ありがとうございますっ。」
秋臣「りら送ってくるから。」
母「気をつけてねー。」
りらに忘れ物がないか確認して、家出る。
もう真っ暗な道を・・・病院に向かって二人で歩き進めた。
秋臣「ご飯・・・大丈夫だった?」
病院ではないから少し不安なところもある。
味付けとか・・量とか。
りら「大丈夫っ。だめだったらもう倒れてるもん(笑)」
秋臣「こわ・・・。」
りら「随分前に・・・お兄ちゃんに内緒でコンビニの唐揚げ食べたことあるんだけどね、速攻で倒れた(笑)」
秋臣「コンビニの唐揚げ・・・。」
買い食いにはもってこいのメニューだ。
俺も食べることがある。
りら「散々怒られてもう食べないって誓ったんだよ?でも今日のご飯は唐揚げよりずっとずっとおいしかった!ありがとうって伝えておいてね?」
秋臣「・・・うん、わかった。」
手を繋いで夜道を歩き、病院に送り届ける。
りらの部屋まで送って行き、お兄さんの診察が終わるまで待ってから・・・俺は帰路についた。
帰り道は行きとちがってりらがいないからか、少し寂しい気もしたけど・・・頭の中は考えなきゃいけないことでいっぱいだった。
秋臣「あと・・・2年。」
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