死が二人を別こうとも。

すずなり。

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収録。

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水曜日・・・





朝から俺は雄星のいるスタジオに来ていた。

ミーティングルームで雄星と打ち合わせをする。




雄星「おー・・・いっぱい書いてきたな・・。」




ノートに2冊。

たくさんあるように見えるけど・・・まだ俺の中の音は止まってない。




秋臣「これさ、この曲だけバラードでしてくれないか?できるだけ余計な音は削りたい。」

雄星「・・珍しいな。なにがあった?」

秋臣「・・・・。」





雄星に言うかどうかも悩んだけど・・・『これから』を考えたら言ったほうが動きやすいことはわかっていた。

渡したノートをぱらぱらとめくってる雄星。

そのノートを取りあげて机に置き、りらとのことを話した。





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雄星は俺の話を最後まで聞いて・・・俺に言った。






雄星「・・・・・その『彼女』の為にお前は曲を書き始めたのか?」

秋臣「彼女の為っていうか・・・彼女と一緒にいると音が湧いてくるんだよ。」




りらが笑うたびに音が湧く。

それを全て書き記していってるだけだ。



雄星「そうか・・・。」



雄星は机に置いた俺のノートを手に取って、またぺらぺらとめくり始めた。




雄星「・・・まー・・見事に甘いコードだらけ。」

秋臣「!!」

雄星「でも・・・好きだな。これ、俺のバンドにくれるか?」

秋臣「・・・もちろん。」

雄星「支払いは前の通りでいいか?」

秋臣「あぁ。」





雄星は用意がよく、契約書を取り出してきた。

ペンと朱肉を机に置き、俺に言った。





雄星「・・・お前の頼みは聞いてやる。そのかわり・・・この先書く曲は全部俺に下ろすと誓え。」

秋臣「!?・・・全部!?」




過去に・・・俺の書いた曲は他のバンドやアイドルにも使われた。

売れたものもあったらそれなりで終わったものもある。

なのに全部だなんて・・・




秋臣「売れるかどうかの保証なんてできないぞ!?」

雄星「売れるさ。お前の書いた曲なら。」

秋臣「でも・・・前の曲だって全部売れたわけじゃない!」

雄星「それは歌ったやつらがダメだっただけだ。俺たちが演奏したやつは全部売れただろう?」

秋臣「・・・・。」




確かに・・・雄星のバンドに出した曲は全部売れてる。

アルバムに入れた曲でさえ・・・結構な人気を誇っていた。




雄星「莫大な金がいるなら・・・俺に乗ってこい。」




俺は頭の中で自分の通帳を開いた。

今の通帳残高は・・・確か1億。

これからのことを考えたら金はいくらあってもいいものだ。




秋臣「・・・・信用してるからな!?」

雄星「任せろ。」



俺はペンを取ってサインし、朱肉に親指をつけた。

書類にグリグリと押し付け、雄星に渡した。



秋臣「任せたからな!?」

雄星「おぅ!」




雄星はその後、俺が書いてきた曲を1曲ずつ見ていった。

時々コードを確認するようにギターを鳴らして、俺と一緒に訂正もしていく。




雄星「これ、こっちじゃダメか?」

秋臣「AメロはいいけどBメロは譲れない。」

雄星「わかった。」




俺たちは外が真っ暗になるまで曲を確認していった。






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雄星「・・・一人で帰れるか?車呼ぶけど?」




もう日付が変わりそうな時間になり、一旦帰ることにした俺はスタジオを出た。

雄星が外まで見送りに来てくれ・・『次』の話をする。




秋臣「一人で帰れる。無理だったらタクシー呼ぶし。」

雄星「わかった。次は?いつ空いてる?」

秋臣「今は夏休み中だから基本的にはいつも空いてる。」

雄星「おっけ。また連絡する。その時に曲、仕上げとくから聞いてくれよ?」

秋臣「楽しみにしてる。」





俺は真っ暗な道を一人で歩き始めた。

頭の中でりらのことを考えながら。




秋臣(りらに・・・言わないといけないよな。)




俺の曲が好きだと言ってたりら。

一旦は仕事を辞めたけど・・・また再開したから言わないといけない。

問題はどうやって言うかだけど。




秋臣(ボリュームを最大限に下げてもらってライブハウスに連れて行こうかな。)




雄星のバンドに頼んで・・演奏してもらって伝える。

それが一番説明がしやすいかと思った。




秋臣(今度・・・調子がいいときにでも・・・。)




そう思いながら家に向かう。

もう電車は走ってないこの時間。

タクシーで帰った方が早いのはわかってたけど、頭に降ってくる音をかみしめるために歩きながら家に帰った。











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夏休も終盤に近付いてきたある日・・・



俺はりらの病院に向かって足を進めていた。






秋臣「もう来週から学校が始まるのかー・・・だるいな・・。」





夏休の間中、俺はほぼ毎日りらの部屋に入り浸っていた。

母親に頼んで弁当を作ってもらい、昼前にりらのとこに行く。

一緒にご飯を食べて・・・勉強して・・・テレビ見て?

たまに遊びに出かけたり、DVDやCDを借りにいって一緒に見たり・・・。

『恋人同士』としての時間は結構充実したものだったんじゃないかと思った。



秋臣「運動はダメだもんなー・・他になんか楽しめるものがあればいいんだけど・・。」




そんなことを考えながら着いた病院。

エレベーターで5階に上がると、ちょうどりらのお兄さんがナースステーションの前に立っているのが見えた。




秋臣「おはようございまーす。」




そう言って声をかけると、りらのお兄さんは俺を見て言った。




葵「オミ、今日の面会は無しだ。」

秋臣「え?」

葵「りらが熱出した。今日は安静にさせるから。」

秋臣「え!?・・・大丈夫なんですか!?」




りらと付き合い始めてもうじき2カ月が経つ。

りらの身体のことはりらとお兄さんから少しずつ教えてもらって・・・結構理解できてきた。



りらの熱は・・・俺の熱とは違う。





葵「大丈夫だ。そんなに高くないし、薬で落ち着いてる。」

秋臣「あ・・・よかった・・。」

葵「悪いな。来週に来てくれるか?ちゃんと回復させないといけないから。」




疲れや病気が長引くと、それだけりらの命に負担がかかる。






秋臣「わかりました。失礼します。」

葵「気をつけてな。」

秋臣「はい・・・。」





ここにいても俺にできることはない。

仕方なく俺は病院を出て歩き始めた。





秋臣(どっか・・・行くかな。)





あてもなくぶらぶらと歩くこと15分。

俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。




翼「オミー!」

秋臣「?」



声のする方を見ると、翼が手を振ってるのが見える。




秋臣「翼?」




翼は手を振りながら俺の前まで駆けてきた。

息切れなんてしない距離だ。




翼「何してんだ?こんなとこで。」

秋臣「りらとデートするつもりだったけど熱出したから無しになった。」

翼「おーおー、・・・なら俺と遊ぼうぜ!」

秋臣「・・・いいけど。」




俺の予定はりらとの予定しか基本的にはない。

それが潰れたら・・作曲するか勉強するかの二択だ。




翼「ボーリング行こうぜー!」

秋臣「え・・・二人で?」

翼「お前の秘密を聞き出さないといけないからなー。二人のほうがいいだろ?」

秋臣「!?」




その言葉に若干不安になりながらも俺は翼と一緒にボーリング場に向かった。








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