死が二人を別こうとも。

すずなり。

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試作品。

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翌日、朝・・・






朝、学校に行くために支度を整え、俺はリビングに入った。

鞄をソファーに置いて、ダイニングの椅子に座る。

するとすぐに母親が朝食を持ってきてくれた。




母「おはよ。これ、持って行ってみて?」



そう言って朝食と一緒に持って来たのはお弁当箱。

包みの結び目のところに紙が挟んであった。




秋臣「・・・作ったの?」

母「使ったものはメモに細かく書いてあるから。ダメなら言ってくれたらいいし。」




俺はお弁当箱とメモを受け取り、ソファーに置いてある鞄に入れた。

ダイニングのテーブルにある朝食をダッシュで食べて食器を下げる。




秋臣「ごちそうさま。」

母「もう食べたの!?」

秋臣「弁当持って行って聞いてくる。いってきます。あとありがとう。」

母「気をつけるのよー?」

秋臣「ん。・・・あ、あと・・・『再開』するから。」




そう言うと母親はため息を漏らしながら言った。




母「はぁー・・・税理士さんとこに行かなきゃ・・。」

秋臣「よろしく。」




そう言って俺は家を出た。

向かうのは学校じゃなくて病院だ。




秋臣(りらのお兄さんにこの弁当を聞いてから学校行こ。)




そう思って俺は急ぎ足に向かった。






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病院に着いた俺は、りらがいる階のナースステーションで看護師さんに聞いた。




秋臣「すみません、中谷先生って・・・おられますか。」




そう聞くと奥からりらのお兄さんがひょこっと顔を出した。




葵「オミ?りらなら学校行ったぞ?」

秋臣「あ、お兄さんに用事があるんです。ちょっといいですか?」

葵「いいけど・・・。」




りらのお兄さんはナースステーションから出てきてくれた。

俺は鞄から弁当箱を取り出してお兄さんに見せる。




秋臣「これって、りらが食べれますか?」

葵「・・弁当?」

秋臣「はい。使ってるものはこのメモに書いてあるんですけど・・・。」




そう言ってメモを見せた。

お兄さんはそのメモを見ながら、弁当をナースステーションのカウンターに置き・・・開け始めた。




葵「これ・・・どうしたんだ?」

秋臣「俺の母親が管理栄養士の資格持ってて・・・レシピを作ったりしてるんです。で、りらと弁当を食べたくてお願いしたら作ってくれました。」

葵「へぇー・・・」




お兄さんは弁当の中身を見て・・・指で摘まんで口に放り込んだ。




ぱくっ・・・



葵「・・・・うん。大丈夫。」

秋臣「ほんとですか!?」

葵「これ以上濃いのはダメだからな?野菜は出汁で茹でるんじゃなくてお湯だけでいい。卵焼きも何も入れない。卵だけでいいから。」

秋臣「わかりました!」

葵「まぁ・・・週1で一切れなら出汁巻きも食べていい。極限まで薄いやつな。」

秋臣「はい!」




色々注意事項を聞いた俺は、全部ノートに書いた。

・・・英語のノートに。




葵「それに書いてどーすんだよ・・・。」

秋臣「あとで違うのに写しますから。」

葵「まぁいいけど。・・・お前も早く行かないと遅刻するぞ?」




そう言われて俺は自分の腕時計を確認した。

今の時間は午前8時20分だ。




秋臣「やっば・・・!!」




ガサガサと鞄にノートをしまう。




秋臣「その弁当、放課後にりらを送ってきたときにもらって帰るんで持っといてもらえますか?」

葵「あぁ、俺の昼飯にさせてもらうよ。」

秋臣「じゃ!俺、行くんで!」

葵「気をつけてなー。」





俺はダッシュで病院を出た。

学校まで走って行って・・・なんとか遅刻は免れた。







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りら「・・・オミくんが遅刻ギリギリって珍しいねぇ。」





昼休みに弁当を食べ終わったりらが、俺の机に遊びにきて言った。

昨日、クラスのみんなに付き合ってることが知れ渡り・・・

今朝学校に来ると学校中に知れ渡っていて・・・

昼ご飯を食べ終わってすぐに女子たちに・・・俺の元に追いやられたのだ。




秋臣「寄るとこがあって・・・。」

りら「どこ?」

秋臣「それは・・・帰りに言う。」




教室の中で『病院』とも言えないし、『りらの家』とも言えなかった。

『お兄さんに会いに』なんて言った日には・・・明日、学校でどんなうわさが流れるかわかったもんじゃない。



りら「?・・・わかった。」

秋臣「うん。・・・あ、そういえばさ、夏休み・・どっか行かない?」





あと2週間もすれば夏休みがやってくる。

1カ月と少しある夏休み。

りらの調子が良ければどこかに出かけたいところだ。





りら「行きたいねっ。どこがあるかなー?」

秋臣「暑いのはダメだよな?なら涼しくてあんま動かなくていいとこ・・・。」

りら「・・・プラネタリウムは?」

秋臣「あぁ、いいな。涼しくて寝っ転がってるだけだし(笑)調べとく。」

りら「ふふっ、楽しみだなーっ。」









俺たちは昼休みが終わるまで喋り続け、りらは楽しく笑っていた。

その日、最後の授業を受け終わった俺たちは手を繋いで学校を出て・・・病院に向かった。

今朝、遅刻ギリギリになったわけをりらに話しながら。






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葵「オミ、弁当箱返す。」




病院でりらの部屋にいた俺に、りらのお兄さんが弁当箱を持ってきてくれた。




秋臣「ありがとうございます。」

葵「美味かったよ。来週から楽しみだな、りら。」

りら「うんっ!」





嬉しそうに笑うりらの手には参考書。

俺も弁当箱を受け取ってすぐに参考書を開いた。




葵「・・・お前ら、デートとかしないのか?」




お兄さんの言葉に、りらが少し興奮気味に話し始めた。




りら「今度ねっ夏休みにプラネタリウム行っていいっ?」

葵「プラネタリウム?」

秋臣「涼しくて歩かなくていいから・・・どうかなって思ったんですけど・・。」

葵「あぁ、いいんじゃない?発作が出てなかったら行っていいよ。」

りら「やった・・・!」





参考書で口元を隠しながら足をぱたぱたさせるりら。

嬉しそうに笑ってる姿を見て、心が躍った。




秋臣「帰ったら調べとくし。遠くないとこにしような。」

りら「うんっ。」




俺たちはそのまま勉強を続けた。

分からないところはお互いに教え合って・・・他愛ない話も挟みながら。



りらの晩御飯の用意が整ったところで俺は病院を後にして・・・ダッシュで家に帰る。

自分の晩御飯はそっちのけで部屋で曲を作り、明け方まで勉強をする。



そんな生活を続けて週明け・・・

俺はりらと一緒に初めて弁当を一緒に食べた。







ーーーーーーーー






りら「・・・すごい!」




俺の弁当を覗き込んで興奮してるりら。





秋臣「落ち着けって・・・交換する?」

りら「・・・する!」




俺の弁当はりらが食べても大丈夫。

りらもその説明を先週に聞いてたから・・・喜んで俺の弁当を覗き込んでいた。




りら「えっとねー・・・卵焼きっ。」

秋臣「おっけ。ちょっと待てよ?」



俺は自分の箸で一切れの卵焼きを半分にした。



秋臣「一切れの半分な?」

りら「うんっ。」

秋臣「ほんとは一切れでもいいみたいだけど・・・念の為。」

りら「?・・・うんっ。」



りらは俺の卵焼きを箸で挟んで口の放り込んだ。

その瞬間、目を見開いて・・・俺を見た。




秋臣「・・・美味いだろ?出汁が効いてて。」




薄く・・薄く味付けしてもらった卵焼き。

きっとりらは初めて食べたハズだ。

だから驚いてるんだろう。





りら「・・・・味がある。」

秋臣「ちゃんと許可ももらってる。」

りら「・・・えへへっ。味があるっ。」




嬉しそうに笑うりら。

普段俺はもっと味の濃いものを口に入れてる。

正直この弁当は美味しいとは思えない。

でも・・・りらと気兼ねなく食べれるなら・・・味なんてどうでもよかった。




秋臣「味付きの卵焼きは次は来週な。他は大丈夫だから。」

りら「楽しいねっ、お弁当の交換っ。」





その日から俺たちは毎日一緒に昼を食べることになった。

りらは俺のおかずを時たまつまみ、俺もりらのおかずをもらう。

そんな日々は楽しくて・・・あっという間に夏休みに突入した。









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