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お付き合い。

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秋臣side・・・




中谷のお兄さんと別れて、俺は部屋の前に立っていた。



秋臣(眠ってるって言ってたよな・・・?)


ノックをしてドアを開ける。



コンコン・・・ガラガラ・・・



秋臣「失礼します・・・?」



『はーい』という返事がなく、代わりに機械の音が聞こえてきた。

ピッ・・ピッ・・と鳴る規則正しい音。

その音のほうに進むとベッドに中谷がいた。



秋臣「眠ってる・・・。」



ベッドの布団からいくつか出てる線。

それらは全て横にある機械に繋がっていた。

テレビのようなモニターは数字や線が表示されていて・・・よくわからない。

わかることは・・・中谷の口に酸素マスクがあてられていて、点滴を三つもしてることくらいだ。




秋臣「二回も走るから・・・。」





すぅすぅと眠ってる中谷の隣に座る。

かわいい寝顔を見てると、病気ってことを忘れそうになるけど・・・



秋臣「発作ってことは・・・苦しかったんだよな・・・。」



苦しみは変わってあげれない。

俺ができることはたかがしれてる。

それでも彼女のことを好きなことはどうしようもない。




秋臣「・・・返事は・・今日は無理かな?でも・・。」





中谷が目を覚ました時、俺がいなかったら?

倒れたことは自覚してるだろうから、そうは思わないかもしれないけど・・・

もしかしたら『来なかった』と思われるかもしれない。

それは嫌だ。




秋臣「かぁさんに連絡したら・・・遅くなっても平気だし。」




俺は部屋の外に出て、ケータイを取り出した。

かぁさんにメールを打って、また戻る。




秋臣「朝まで寝てる?それとも起きる?」




どうなるのかわからずに、俺はベッド脇の椅子で待つことにした。





ーーーーーーーーーー







ーーーーーーーーーー






ベッド脇で座り込むこと4時間・・・





りら「ぅ・・・・。」

秋臣「!」




声が聞こえて、俺は中谷を覗き込んだ。

しっかりと閉じられていた目が薄っすら開く。




秋臣「・・お・・きた・・?」




なんて声をかけたらいいのか分からず、言葉を詰まらせながら聞く。




秋臣「誰か・・・呼ぶ・・?お兄さん・・と・・か・・・。」

りら「・・・・うん。」

秋臣「ちょっと待ってろよ?」



俺は椅子から立ち上がった。

病室を出てナースステーションに駆け込む。




秋臣「あのっ・・!すみません!中谷が目を覚ましたんですけど・・・!」



中にいる人に伝えると、奥から中谷のお兄さんが飛び出てきた。



葵「すぐ行く!」



ナースステーションを飛び出てきた中谷のお兄さんは、廊下を走って部屋に向かっていった。

俺も後ろをついて走る。



葵「りらは何か言ってたか?」

秋臣「特に何も・・・。目が覚めたみたいなんで『誰か呼ぶ?』って聞いたら『うん』って答えたんで・・・。」

葵「なら大丈夫そうだな。」




話ながら駆けていき、中谷のお兄さんは部屋に入る。



葵「りら。大丈夫か?」



ベッドに寝てる中谷に駆け寄り、その体を診察し始めた。

ベッド横にあるテレビみたいなモニターも見たりしてる。



りら「も・・・大丈夫・・・。」

葵「マスク、外すからな。」



中谷の口から外されたマスク。

他にも身体につけられていた機械も外されて、腕の点滴のみ残された。




りら「え・・・っと・・・」



枕元をごそごそする中谷。

リモコンみたいなものを取り出した。




秋臣「?」

りら「ちょっと・・・待ってね。」




取り出したリモコンを操作する中谷。

ボタンを押すとベッドの背もたれが動き始めた。




秋臣「おぉ・・・。」




背もたれが起こされ、中谷は座ったような感じになった。

俺は近くにあった椅子に腰かける。



りら「来てくれたんだね。」

秋臣「約束したからな。」



中谷は・・・自分の胸に手を置いて深呼吸を繰り返した。



その様子を見ていた中谷のお兄さんが心配そうに覗き込む。



葵「りら?」

りら「大丈夫。工藤くんと話があるの。」

葵「・・・わかった。」




中谷のお兄さんは何も言わずに部屋から出ていった。

二人っきりになり、なぜか気まずい空気が流れる。





りら「こんな格好だけど・・・返事、聞いてくれる?」




いつもなら・・・話をするときはソファーに座る。

でも・・・中谷はベッドから動く気配がない。

それだけ体が辛いということなんだろう。

今日はきっと話をするべきじゃない。

そんなことは頭ではわかってるけど・・・心は別物だった。

彼女のそばにいたくて仕方がない。





秋臣「・・・うん。」




そう答えると、中谷はにこっと笑って点滴のパックを指差した。





秋臣「?」

りら「あの点滴ね、私の心臓の動きを助けてくれる薬なの。」

秋臣「・・・うん。」

りら「一日1回してるんだけど・・そのうち一日2回になる。・・・で、3回になって・・・点滴を外すことが無くなった時、私はもう動けなくなるの。」

秋臣「・・・うん。」






笑ってた顔がだんだん真顔になってきて・・・目に涙を溜め始めた。




りら「誰かを好きになっても・・・相手を苦しめるだけ。だって私はいなくなる人間なの。だから・・・・・」

秋臣「・・・振るのか?」

りら「・・・・・。」

秋臣「・・・人はいつかみんないなくなる。自分がいなくなるその日まで・・自分にとって益のあること繰り返して生きていく。益を得るためには辛いこともあるわけで・・・その辛いことは俺にとっては『益』になるための糧でしかない。」

りら「・・・・?」





涙を溜めていた中谷の目を真っ直ぐに見て・・・言う。





秋臣「・・・俺は中谷と付き合いたい。それがたとえ期間限定であっても・・・俺はお前が好きだから。」

りら「---っ。」

秋臣「体は・・・代わってあげられないけど・・・側にいることはできる。他にもできることがあるかもしれない。なにができるのかはわかんないけど・・・俺のことを好きになってくれるなら・・・俺は中谷の一生が終わるその日まで大事にする。」

りら「---っ!」






そう言うと、中谷の目に溜まっていた涙がこぼれ落ち、布団を濡らし始めた。

ぽとぽとと落ちる涙は止まることを知らないみたいに・・ずっと布団を濡らし続けてる。





りら「く・・工藤くんが辛くなるのわかってるんだけど・・・うっ・・・わ・・私も好きなの・・・。」

秋臣「・・・・うん。俺の為に振ろうとしたんだよな。」

りら「ごめ・・・」




溢れ出る涙を手で拭いながら話す中谷。

俺はその手を取って、きゅっと握った。




りら「?」

秋臣「俺と付き合ってください。」

りら「・・・。」





中谷の目が揺れた。

どう返事をするのか悩んでるようだったけど、俺も引き下がれない。




秋臣「・・・俺のことを好きだといってくれるなら・・・付き合って・・。」




そう言うと、中谷は空いてる手で涙を拭って、俺を見た。

真っ直ぐに俺の目を見て・・・




りら「・・・・よろしくお願いします。」




と、言ってくれた。





秋臣「・・・よっし・・!!」

りら「・・・えへへ。私、彼氏って初めてなんだけど・・・。」

秋臣「大丈夫。俺も彼女って初めてだから(笑)」





二人で顔を見合わせて笑い、俺は一つお願いごとをする。




秋臣「・・・名前で呼んでいい?『りら』って呼びたい。」



そう言うと中谷は顔を真っ赤に染めた。



秋臣(・・・かわいい。)




もとからかわいかったけど、俺の為に顔を赤くしてる姿がとてつもなく可愛かった。





りら「わ・・私も・・・『オミくん』って呼びたい・・。」

秋臣「!!・・・喜んで。」



俺はその小さな手を握りしめながら名前を呼んだ。




秋臣「・・・りら。」

りら「!!・・・・オミくん。」

秋臣「りら。」

りら「オミくんっ。」




りらの涙は止まり、代わりに笑顔を振りまき始めた。

その姿をいつまでも見ていたかったけど、もう時間が遅いことも・・・りらが本調子じゃないことも頭の隅にはちゃんとあった。





秋臣「もう遅いから・・・今日は帰る。」

りら「・・・うん。」

秋臣「明日、学校は?」

りら「たぶん・・・休むかな。」



発作を起こしたところだし、それはそれで仕方ないことだ。




秋臣「なら学校終わったらすぐに来る。あと・・・連絡先教えて?」

りら「もちろんっ。」





ケータイを取り出して、俺たちはお互いの連絡先を交換した。

そのまま俺は病室を出るために椅子から立ち上がった。




秋臣「また・・・明日。」

りら「うん。・・・おやすみ。」





名残惜しいけど・・・俺は病室を出た。

廊下を歩きながらエレベーターを目指す。





秋臣(やった・・・おっけーもらえた・・・!)





もらった連絡先を見つめながら歩いてると、前からりらのお兄さんが歩いてくるのが見えた。





葵「・・・お、話終わったのか?」

秋臣「はい。」

葵「・・・まぁ、気をつけて帰れよ。」

秋臣「ありがとうございます。また明日来ます。」




そう言うとりらのお兄さんは驚いた顔をして俺を見た。



葵「?・・・なんで来るんだ?」

秋臣「?・・・りらと毎日会いたいって思うから・・ですかね?」

葵「・・・は!?」

秋臣「あ、俺たち付き合うことになったんで。これからよろしくお願いします。『お義兄さん』。」





俺はりらのお兄さんにそう伝え、歩き始めた。

頭の中はりらのことでいっぱいだ。

りらのことで・・・頭に音が降り始める。




秋臣(・・・弾きたい。)




エレベーターに向けていた足を階段に変え、俺は走って下りた。

そのまま病院を走り出て、家までの道をずっと走る。




秋臣「♪~・・・。」





頭に降ってくる音を構成しながら、俺は家に帰った。















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