死が二人を別こうとも。

すずなり。

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りらside。

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看護師「りらちゃーん、診察あるから部屋に戻ってねー。」



工藤くんのお母さんを見送ったあと、看護師さんが私を呼びに来た。



りら「はーい。」



点滴台をガラガラと押して、部屋に向かう。

本来なら『病室』と呼ぶべき部屋だけど、私にとっては家の部屋。

なぜかというと・・・私はこの病院で暮らしてるからだ。



ーーーーーーーーーー




生まれた時から心臓が弱かった私は、海外で2回手術を受けた。

帰国しても、私の体調が心配な兄は病院で寝泊まりすることを提案してきたのだ。




葵「どうせ毎日点滴するんだし、いいじゃん。」



病院に掛け合って、備品室を病室に変えてしまった兄。

改装費用は全て兄負担。

毎月部屋代まで払ってくれてる。



葵「りらのためならなんだって買ってやる。」



笑いながら言ってくれるけど、その目の奥は悲しさで溢れてるのを私は知ってる。

私には・・・あまり時間が残されてない。




ーーーーーーーーーー





りら「・・・リミットまでは学校行きたいし。」



ずっと病院にいるなんて、寿命が縮まってしまう。

ただでさえ残り少ない時間だ。

やりたいことをやりたい。





エレベーターに乗り、部屋に戻るとすでに兄が待っていた。

手には聴診器。

ベッドの回りは機械がある。




葵「どうだ?調子は。」

りら「もう平気だよ。昨日は暑かったのもあったし、海見れて興奮しちゃったから。」

葵「・・・体育も出ないで欲しいんだけどな。」

りら「ギリギリまで出るよ。お兄ちゃんが作ってくれた保健室もあるし(笑)」




学校側は知ってる私の病気。

少子化の影響で使われなくなった校舎の一部を借りて、病院みたいに使わせてもらってる。

常駐の保健師はこの病院の看護師さんだ。





葵「ほら、針抜いて診察。終わったら・・・」

りら「勉強しとくっ。」

葵「ははっ。そうだな。休んでた分ちゃんとしないとな。」




いつも通りの診察。

全てが終わるのを待ちながら、私は兄に聞いた。




りら「ねぇ、お兄ちゃん?」

葵「うん?」

りら「私・・・二十歳まで生きれる?」

葵「・・・。」





返事をしない兄。

私が単なる患者さんなら『大丈夫、がんばりましょう。』とか言うんだろうけど・・・

身内である私に嘘はつけないようだ。




りら「変なこと聞いてごめんね。」




兄の無返答から自分の残り時間を計算する。

計算の結果・・・高校卒業くらいがリミットっぽいことになる。




りら「高校は卒業したいなー。」

葵「・・・そうだな。」




診察が終わり、私は棚から教科書やノート、参考書を取り出した。

勉強用の机に置いて、シャーペンを握る。

ふとベッドの方を見ると、兄がまだそこにいた。



りら「?・・・どうしたの?」

葵「いや・・・なんでもない。」




俯いてる兄。

こういうときは・・・決まって泣いてる。


私は兄の元へ行き、その体に抱きついた。




葵「・・・・?」

りら「大好きだよ?お兄ちゃん。」

葵「---っ!・・・俺もだよ。」




・・・私は死ぬ準備ができてる。

生まれた時から付き合ってきたこの体。

だんだんキツくなってきてることくらいわかる。

2回目の手術が終わった後、一晩中泣いてる兄の姿をベッドから見ていた。

その涙は、もう私に治療法がないことを教えてくれていた。




りら「ほら仕事に戻らないと!私も勉強っ!」

葵「そうだな。・・・なんか欲しい物あったら言えよ?」

りら「わかってるよ。」




部屋から出て行った兄。

私はベッドに寝転がった。




りら「欲しい物なんて・・・言えるわけないじゃん。」



ただでさえお金がかかってる私の体。

数年でいなくなる私に、お金なんてかけないで欲しいと思った。




りら「さー・・勉強しよっ。」






うちの学校は勉強が全て。

高校三年間で行われる試験を全てクリアできたら卒業することができる。

この先、学校に行けなくなることを見越して先々のテストを私は受けさせてもらってる。

だから・・・勉強しないといけない。




りら「明日学校に行ったら今度のテストのこと聞こ。次は・・・二年の二学期期末からか。」



あと半年で卒業試験を受けたいところだ。


私は参考書を手に取り、机に向かった。















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