死が二人を別こうとも。

すずなり。

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出会う。

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りら「・・・すみません、私が悪いんです。」



読んでいた本を閉じ、点滴の台を押しながら私の前に来た女の子。

何のことか分からずに先生と女の子を交互に見てしまう。



母「・・・え?」

葵「・・・妹です。息子さんとは同じクラスで・・。昨日一緒にいたんです。」

母「えぇ!?」

りら「初めまして、中谷りらです。」

母「は・・初めまして・・・。」




唖然と見てると、中谷先生が口を開いた。



葵「すみません、診察がありますので僕はこれで・・・。」

母「あ、昨日はありがとうございました。」

葵「いえ。失礼します。」




去って行く先生の後姿を見送り、『妹さん』のほうを見る。



りら「?」

母「・・ごめんなさいね、秋臣が・・。」



そう言うと妹さんは顔をブンブン振って否定した。



りら「違うんですっ。工藤くんは私を追いかけてきてくれて・・・。」

母「・・・詳しく聞かせてくれる?」




空いてる椅子に腰かけて、妹さんの話を聞いた。

海が見れることを知って、一人で行こうと思ったこと。

秋臣が心配したのか、一緒についていったこと。

海を見てる途中で気分が悪くなって・・・秋臣が自分の体でこの子を守ったこと。




母(秋臣が好きな子はこの子で間違いなさそうね。)



秋臣と・・・どこか似た感じがする。

同年代の中で生きてきたって言うより、大人の中で生きてきたような・・・。

どこか大人っぽい雰囲気を感じた。




母「・・りらちゃんって呼んでもいいのかしら?」

りら「?・・はい。大丈夫ですけど?」

母「りらちゃんは・・・秋臣の彼女?」

りら「!?」




私の問いに、顔を真っ赤にして俯いたりらちゃん。

付き合ってはいないけど、好き・・・って言ってるようなものだった。




母「あらあら(笑)・・・いつかうちに遊びに来てね?ケーキ用意して待ってるから。」


そう言うとりらちゃんは申し訳なさそうに笑った。



りら「ケーキは・・・食べれないんです。」

母「・・・アレルギー?」

りら「アレルギーは無いんですけど・・・。」



口ごもっていくりらちゃん。

その小さな背中をそっと撫でた。



りら「?」

母「・・・誰にでも秘密の一つや二つあるものよ。秋臣もあるし(笑)」

りら「え!?」

母「秋臣と仲良くしてね。あの子も喜ぶと思う。」




座っていた椅子から立ち上がり、りらちゃんに手を振る。



母「じゃあ、またね。」

りら「・・・さようなら。」





病院の通路を歩く途中に何度か振り返ると、りらちゃんがずっと手を振ってくれていた。

あの子が彼女だったら・・・秋臣より独り占めしてしまいそうだと思った。



母「アレルギーは無いけど、ケーキは食べれない。あとあの点滴・・・。」


何か病気を持ってそうな気がした。




母「・・・まぁ、私がどうこう考えたって仕方ないし。」




秋臣が『彼女』としてりらちゃんを紹介してくれる日が早く来るよう願いながら、帰路についた。












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