死が二人を別こうとも。

すずなり。

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伝言。

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葵「りらも大丈夫。悪いな、妹の我がままに巻き込んで・・・。」

秋臣「元気になったんなら・・・よかったです。」




結構苦しそうに見えた彼女。

元気になったのならそれでよかったと思った。



秋臣「中谷はもう帰ったんですか?」

葵「いや?俺の仕事がもうすぐ終わるから一緒に帰ろうと思ってる。」

秋臣「そうですか。」



ベッドから立ち上がると、お兄さんは鞄を差し出した。

学校の鞄だ。



葵「ほら、鞄。」

秋臣「それ、中谷のですよ。」

葵「え?・・・お前のは?」

秋臣「あー・・・結構鞄がデカいんで・・・俺のは捨ててきました。」



そう答えると、お兄さんは驚いた顔で俺を見た。



葵「は!?どうすんだよ、この先・・・。」

秋臣「また買います。」

葵「『また買う』って・・・親の金だろ?」

秋臣「いえ、自分で稼いだ金で。それなら文句も言われないんで。」



そんな会話をしてるとき、さっきの看護師さんが俺を呼びにきた。



看護師「工藤さーん、お母様が迎えに来られましたよー。」

秋臣「ありがとうございます。じゃあ失礼します・・・・っと、中谷に伝言お願いしてもいいですか?」

葵「?・・・いいけど?」

秋臣「『しんどい思いさせてごめん』って・・・お願いします。」




そういうとお兄さんは腹を抱えて笑いだした。



葵「ははっ!」

秋臣「?・・・俺、何か変なこといいました?」

葵「いや?わかった。必ず伝える。」

秋臣「よろしくお願いします。・・・ありがとうございました。」


看護師「こちらどうぞー。」



看護師さんの案内で、俺は廊下に出た。

出たところで母親が待ってくれていた。




母「秋臣!」




心配そうに俺の元に駆けてくる母親。

迷惑かけて申し訳ないと思うけど、未成年は面倒くさいとも思った。




母「もー・・学校もサボって・・大丈夫なの?」

秋臣「大丈夫。・・・学校は特に出席日数は関係ないんだし・・・大丈夫だから。」




うちの高校は成績が全て。

特に悪い成績さえ取らなければ学校に行かなくったって卒業できる。

テストは受けないといけないけど。




母「秋臣はどうなってもいいわよ。女の子が一緒にいたんでしょ?その子が大変だったとかって看護師さんに聞いたわよ?」

秋臣「あぁ。大丈夫って言ってた。」

母「大丈夫ならいいけど・・・よそのお子さんにケガなんてさせないでよ?」

秋臣「・・・わかってる。」




母親は廊下を歩き始めた。

その少し後ろをついて歩く。



母「お会計ってどっちかしら?」

秋臣「俺、払う。」

母「何言ってんの。まだ子供なんだから払わなくていいわよ。・・・たとえ親より収入があっても。」

秋臣「・・・ありがとう。」




支払いを済ませ、病院の外に出る。

少し太陽が傾いた時間。

まだまだ暑いけど、海で中谷のお兄さんを待ってた時よりは全然マシに感じた。




母「・・・・デートしてたの?」

秋臣「!!・・・そういうこと聞く?普通。」

母「聞きたいじゃない。」

秋臣「もー・・。」




楽しそうに根ほり葉ほり聞いてくる母親。

俺は一生懸命、はぐらかしながら帰路についた。





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