死が二人を別こうとも。

すずなり。

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レンタルショップ。

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放課後・・・



特に部活に入ってない俺は、帰り支度を整えて学校を出た。

最寄り駅までは一本の遊歩道。

車が通ることのない道は歩きやすく、同じ学校の生徒や小学生たちが広がって歩いてる。

他愛ない話をしながら。



秋臣(まっすぐ帰ってもいいけど・・・どっか寄りたい。)



昼休みに雄星と喋ったからか、音が頭を支配し始める。




秋臣(洋楽でも聞くか。)



そう思ってレンタルショップに足を向けることにした。






ーーーーーーーーーー







ーーーーーーーーーー








秋臣(新作が出てる。)



洋楽で好きなバンドのCDが新作コーナーに並んでる。

迷うことなくそれを手に取り、他を見て歩く。


昔の洋楽も好きだし、邦楽も好きな俺。

通路をうろうろ歩きながらCDを物色する。




秋臣(結構手に取ったけど・・・もう一枚くらい欲しいな。)




そう思いながら通路の角を曲がると、中谷の姿があった。



秋臣「あ・・・。」

りら「?・・・あ、工藤くん。」



CDを手に取ってる彼女。

お互いを認識してしまってる以上、無視するわけにもいかない。




秋臣「・・・中谷もなんか借りんの?」



そう聞くと彼女は手に持っていたCDを見せてくれた。



りら「これ借りようと思って。」



見せてくれたのは映画のサウンドトラック。

ピアノ版にアレンジされたものだった。



秋臣「ピアノ?」

りら「うん。クラシックも聞くけど・・・ピアノの音が好きでね、よく聞いてるんだー。」

秋臣「へぇー・・・。」



好きな子の新たな一面を知れて喜ばない男はいない。

チャンスだと思って聞いてみる。



秋臣「俺、あと一枚くらい借りたいんだけど何かいいのある?」



そう聞くと彼女はいくつか手に持っていたCDのうちの一枚を俺に差し出してきた。




りら「これ!これがいいよ!私、すっごく好きなの!」

秋臣「これ・・・・。」





渡されたのは邦楽。

ボーカル無しのピアノのみのCDだ。

・・・収録されてる曲は全て俺の曲だった。





りら「『クレセント』ってバンドなんだけど、このアルバムが最高だから!」

秋臣「・・・これ、中谷が借りるんじゃないのか?」

りら「私は今度でいいよ。返す日は教えてくれる?そのまま借りるから(笑)」

秋臣「・・・おっけ。さんきゅ。」




『次』の約束をしたような気がして嬉しくなる。

まるでデートでもしてるかのような光景に、妄想が走る。




秋臣(こんな近くで立ったことなかったけど・・・ちっさ・・・。)




真横に立ってる中谷の、頭のてっぺんがよく見える。

さらっさらの長い髪の毛は柔らかそうだ。




りら「んー・・・っ!」



背伸びをして手を伸ばした彼女。

棚の一番上のCDがとれないようだった。




秋臣「・・・・これ?」



彼女の手の先にあったCDを取って手渡す。




りら「・・・ありがと。ふふっ。」

秋臣「?・・・なに?」

りら「なんでもないよ?じゃあ私、お会計行くから。またねー。」




手をひらひらと振りながらレジに向かって行った。



秋臣「・・・俺も会計なんだけどな。」




別れてすぐに追いかけるわけにもいかず、俺は少し時間を潰してから会計に向かうことになってしまった。





ーーーーーーーーーー






ーーーーーーーーーー






秋臣「ただいまー。」




家に帰った俺は真っ先に自分の部屋に入った。

借りてきたCDをプレイヤーに入れる。

もちろん中谷に薦めてもらったやつだ。




秋臣「ピアノかー。」




CDプレーヤーのリモコンを持って椅子に座る。

目線を前に向ければ、机、ベッド、本棚・・・

いろんな家具が目に入るけど、普通の男子の部屋にはないものが俺の部屋にはある。

それは・・・・グランドピアノだ。




秋臣「しばらく弾いてないな。」




小学生の時に買ってもらったグランドピアノ。

埃をかぶってるわけじゃないけど、曲が作れなくなってからは弾いてない。




秋臣「・・・また今度弾いてやるから。」




そう言いながらCDプレーヤーの再生ボタンを押した。



♪~♪♪~・・・




秋臣「へぇー・・・いいかも。」




ドラムやギター、ベース、ボーカルが無い。

ピアノのみの曲。

元を知ってるからか物足りなく感じるところもあるけど、これはこれでよかった。




秋臣「こういうのが好きなのか。」




目を閉じて音に浸る。

この曲を中谷も自分の部屋で聞いてるかと思うと・・・ニヤけてしまう。




秋臣「中谷の部屋ってどんなのかな。・・・キャラクター・・とかはいなさそうだし・・シンプルな感じ?」




そんな妄想をしてると、部屋のドアが開けられた。





ガチャ・・・



秋臣「!・・・かぁさん。」



入ってきたのは母親だ。

手にマグカップを持ってる。



母「珍しいわね、ピアノ聞いてるの?」



小さいテーブルにマグカップを置きながら聞いてくる。



秋臣「友達が薦めてくれた。」

母「へぇー、女の子の友達がいるなんてかぁさん知らなかったわ。」




その言葉に、俺は驚きながら母親を見た。




秋臣「なんで・・・・。」

母「ピアノの音が好きな男の子なんて少ないわよ。だから女の子かと思ったんだけど・・・あたりだったみたいね(笑)」

秋臣「・・・。」

母「『彼女』だったら紹介してよねー。」



にこにこ笑いながら母親は部屋から出て行った。



秋臣「・・・彼女だったらどんなにいいか。」



何度も想像したことがある。

『好きだ』と伝えて・・・おっけーもらって・・・デートする。




秋臣「ま、想像するくらいなら罪にはならないしな。」



俺は母親が置いていったマグカップに口をつけながら借りてきたCDの音に浸った。



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