死が二人を別こうとも。

すずなり。

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過去と離れの校舎。

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秋臣(今日は誰からかかってくっかなー・・。)



中庭にある木の陰で、座り込みながらケータイ画面を見つめる。

右手の人差し指でスクロールしながらゲームでもしようか悩んでると、ケータイが鳴り始めた。



ピピピッ・・・ピピピッ・・・



着信画面には『雄星』の文字。




秋臣「・・・雄星(ゆうせい)か、また面倒くさいやつからのコールだな。」




通話ボタンを押して、ケータイを耳にあてる。




秋臣「もしもし?」

雄星「オミ?今、昼休みだよな?」

秋臣「そう。返事は『まだだ』か『もうしない』のどっちがいい?」

雄星「つれないこと言うなよ。ピアノ・・・もう弾かないのか?」

秋臣「・・・。」




小さいころからピアノを習ってた俺は・・・中学に入ったと同時に挫折した。

毎日のレッスン。

基礎練習は繰り返しが大事。

コンクールの為に決められた弾き方をするのにうんざりしてしまった。





雄星「曲は?」

秋臣「・・・。」





コンクールの為に弾くことをやめた俺は、自由になった。

誰もが知ってる名曲を面白おかしくアレンジしてみたり、明るい曲を暗い曲に変えてみたり・・・

とにかく音符で遊びまくった。


その中で俺は『曲作り』に出会った。

自分が思いつくままに音符を重ね、連ねていく。

それが面白くて、楽しくて・・・俺は中学2年の時にミュージックプロデュースの会社に作った曲を持ち込んだ。




秋臣(あれがきっかけだったんだよな・・・。)



俺の曲は採用され、バンドやアイドルに使われた。

中学3年間のうち2年、作曲に没頭し、売れに売れて『印税』と言う名の莫大な金が舞い込んできた。

通帳に入った金額の・・・あまりのケタの多さに驚き・・・曲が作れなくなった。

精神的プレッシャーってやつだ。




秋臣「・・・もう作れない。連絡もして来るな。」

雄星「また作りたくなったら連絡くれよ?・・・また金曜に電話する。」

秋臣「・・・せめて月1で。毎週はキツい。」

雄星「ははっ。わかった。たまにはライブも来いよ!」ピッ・・・





切れた通話。

俺はケータイの画面を見た。




秋臣「誰が行くかよ・・・。」




雄星は売れに売れまくってるバンドのギター担当だ。

俺の曲が好きだと言ってくれ、新しい曲をずっと待ってくれてる。

しつこいのがウザいけど・・・音楽の感性では一番気が合うかもしれない。





秋臣「・・・戻るか。」




木の陰から立ち上がり、中庭を歩く。

夏ということもあってか、日差しはキツく、だらだらと汗が滴り落ちてくる。




秋臣「あっちー・・・あ、あそこから入った方が近そう・・・。」




本校舎と繋がってる『離れの校舎』。

その入り口が近くに見えた。

もう使われてない校舎だと先生から聞いた記憶がある。

あの校舎を抜けて行くと、この暑い日差しは避けれそうだ。




秋臣「ま、校舎なんだし怒られはしないだろ。」



特に『立ち入り禁止』と言われてるわけじゃない。書かれてるわけでもない。

俺は校舎に向かって歩き始めた。





秋臣「・・・・暗いな。」




離れの校舎は使われてないからか電気もついてなく、薄暗かった。

中に入って歩き進めていく。




秋臣「暗いけど・・・涼しい?」



人工的な涼しさを感じる廊下。

教室ならともかく、廊下で涼しさを感じることに違和感を覚えた。



秋臣「誰も使ってないのに・・・冷房が入ってる?」



不思議に思いながら歩いてると、1つの教室から光がもれていた。

誰か・・・何かいるのかと思い、そーっと近づく。




秋臣(・・・ベッド?)




窓から少し覗くと、ベッドらしきものが2つ見えた。

机やパーテーション、なんか機械みたいなものと・・・先生らしき人も見える。




秋臣(保健室・・・?みたいな?)




保健室は本校舎にもある。

もう一つ保健室があっても別に不思議には思わないけど・・・




秋臣(使われない校舎にある保健室・・・それが使われてるのが不思議だ。)




じーっと見てると保健の先生らしき人がベッドに行った。





先生「どう?落ち着いた?」

秋臣(誰か・・・いる?)



中を伺ってると知った声が聞こえてきた。



りら「五時間目が始まる前に・・・戻ります・・・。」

秋臣(・・・・中谷?)




元気がなさそうな声。

いつもの中谷じゃなかったけど、この声色は中谷で間違いなかった。



先生「じゃあ10分前にまた声をかけるわね。ゆっくり休んで。」

りら「はい・・・。」

秋臣(・・・。)





俺は音を立てないようにしてその部屋の前を通り抜けた。

本校舎に戻り、廊下を歩きながら考える。




秋臣(熱中症・・・とか?)




毎日が暑い季節。

ニュースで『熱中症患者の搬送』の話がよくされてる。




秋臣(・・・。)



好きな女の子が体調不良で保健室にいるかもしれない。

気になりながらも俺にはどうしようもないことだし、教室に戻ることにした。





ーーーーーーーーーー





秋臣(あ・・・戻ってきた。)




五時間目が始まる前に戻ってきた彼女。

昼ご飯を一緒に食べれなかった女子たちが中谷を囲う。




生徒「りらちゃん、お昼食べれた!?」

生徒「用事、長かったんだねぇ。」




中谷は午前中と買わない笑顔を振りまきながら話す。




りら「お昼はパン買ってダッシュで食べたよー。ありがとっ。」

生徒「ならよかったー。」




席に座り、五時間目の用意をし始める彼女。

その様子を斜め後ろから見てるけど・・・




秋臣(うーん・・・。)


どう見ても元気な彼女。

気になりながらも五時間目の授業を受け、放課後になっていった。











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