短編集

裏歩人

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花よりも君が好きだった

最後の年

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次に目が覚めた時は、去年と同じところで目が覚めた。これなら去年の初めのように私がわからないなんてことないだろう。今度はたくさんお話ができる。

そう思っていたのは最初の日、子供たちが目の前の野原で楽しそうに遊ぶ姿が去って、暗くなり、また明るくなるまでだった。彼の姿すら見つけることができなかったのだ。また陽が昇って落ちて、何度も陽が昇って落ちて―そのあと、しばらくしてやっと、遠くに誰かと歩く彼の姿を見つけた。大声で彼を呼んだ。何度も。何度も。次の日も。その次の日も。ちっとも彼はこちらを見てくれなかった。

何度も呼び掛けた。陽が落ち、登って、また落ちても。彼に呼び掛けた。それでも彼は気が付いてくれない。どうして?前に起きていた時は話してくれた。なんで、今度は話してくれないの?どんな話でも聞くから。だから、話しかけて―そうして、眠くなる時期がやってきた。

今回も団地のほうから人がやってくる。そして私は切り取られる。切り取る相手の顔を見上げる。すると、そこにあったのはあの少年の顔だった。もう少年の面影がある子って感じだけど。でも。彼がそこにいた。「ねぇ、私だよ!気が付いて!お願い。また話がしたいの。どうかまた、君の声を聞かせて。君の物語りを聞かせて。眠る前に、一度でも…」

そういったとき、彼はこちらを見た。「おととしの…」と、話しかけてくれた。「ごめんね、ずっと話しかけてあげられなくて。今年も僕が切ってもいいかな?」と聞かれた。「当然でしょう。君以外の人に切られる気なんてないよ。」と、そう答えた。そして、彼は私の花を切って持ち帰った。

また今年も最後の一日まで来てはくれなくて、来年からは「じゅけん」というやつで忙しくなるのだそうだ。きっと話ができるのはこれが最後になるかもしれないこと。とても仲のいい友達ができたこと。楽しめていること。いろいろなことを教えてくれた。嬉しかった。また君のことを聞けたことがうれしかった。でも次に起きた時は彼の話が聞けないと知ってしまい、少しだけつらくもあった。それから、眠りについた。
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