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章第二「茨木童子」

※注釈(三)

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 天井下てんじょうくだり……鳥山石燕とりやませきえんの『今昔画図続百鬼』「明」に描かれている、天井から逆さまにぶら下がる妖怪。それによると「むかし茨木いばらき童子はつな伯母おばして破風はふをやぶりていで、今この妖怪ようくはいは美人にあらずして天井てんぜうよりおつ。世俗のことはざに天井見せるといふは、かゝるおそろしきめを見する事にや」(角川ソフィア文庫『鳥山石燕 画図百鬼夜行 全画集』鳥山石燕)と記されている。天井を見せるとは、石燕が活躍した時代の流行語で、「人を困らせる」意味だったらしい。石燕の妖怪は言葉遊びでつくられたものが多く、この天井下りも例外ではないようである(『日本妖怪大事典』角川書店)。茨木童子関連で、この名前を出した。


 オクサレさま……スタジオジブリの映画『千と千尋の神隠し』に登場する神様の一柱ひとはしら。流動性の高い泥が集まって巨大な一塊になったような姿をしていて、うように移動する。動くたびに泥が身体の表面を流れ、その泥はゴミとけがれをたっぷり呑み込んだヘドロで、それゆえに凄まじい悪臭を放つ。その正体は、湯婆婆ゆばーばいわく「名のある河の主」と推察した(スタッフロールでは「河の神」となっている)。どうやら住処すみかである河がゴミ等で汚れてしまったらしく、その汚れが身体に付着・蓄積して、ヘドロの怪物みたいな姿になってしまったようだ。正体に気付いた湯婆婆が「オクサレさまではない」と言っているので、作中に登場したのは「オクサレさまそっくりになってしまった別の神様」であり、そちらとは別に「本物のオクサレさま」が存在するようだ。(ピクシブ百科事典 https://dic.pixiv.net/a/オクサレ様)


 人間洗濯機……一九七〇年に開催された大阪万博おおさかばんぱくにおいて、国内外一一六のパビリオンのうち、企業が出展したもののひとつである「サンヨー館」にて展示されていた機器。サンヨー館のなかは「ヤング・プラザ」「サン・プラザ」「ファミリー・コーナー」で構成され、呼び物は最後の「ファミリー・コーナー」で、未来の家庭生活をイメージした四つの提案が注目を集めた。流線型のカプセルに座っているだけで超音波の自動入浴ができる「ウルトラソニック・バス」(人間洗濯機)、ボタン操作ひとつで調理から食事の支度までおこなってくれる夢の台所「フラワーキッチン」、家にいながらにしてビジネスやショッピングができるマルチディスプレイの操作卓「万能テレビ」、球形カプセルのなかに休息と安眠に必要な機器類を凝縮させた「健康カプセル」の四つだ。とりわけ人間洗濯機の入浴場面は、大阪万博を象徴するシーンとして紹介されることが多かった。(『大阪万博―20世紀が夢見た21世紀』小学館クリエイティブ)


 願はねがわくは、(中略)ばせ給へたまえ……「願はくは」は、動詞「願ふ」の未然形+接尾語「く」+係助詞「は」で「願うことには」「望むことは」などの意。「賜ばせ給ふ」は、補助動詞「ぶ」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+補助動詞「|たまふ」で、高い尊敬の意を表して「……なさってくださる」の意。合わせて「どうか(中略)なさってください」の意となる。(『最新全訳古語辞典』東京書籍) この文言が使用された例としては『平家物語』巻第十一のエピソードが有名。酉刻とりのこく(午後六時ころ)の薄暗くなった夕暮れどき、さらには向かい風も吹いているという、矢を射るには不利な悪条件。波が激しく上下する舟の上で、おうぎの的を射る際、那須与一なすのよいちが「南無なむ八幡大菩薩、わが国の神明、日光権現につくわうのごんげん宇都宮うつのみや・那須のゆぜん大明神、ねがはくはあの扇のまンなかさせてたばせ給へ。これを射そんずる物ならば、弓きりり自害して、人にふたたびおもてをむかふべからず。いま一度本国(与一の生国である下野しもつけ国)へむかへんとおぼしめさば、この矢はづさせ給ふな」と心のなかで祈念した、という。(『新日本古典文学大系45 平家物語 下』岩波書店)


 三十けん、あるいは一ちょうの半分……距離の単位で、どちらも五十四メートルほど。一町は約一〇九メートル、一間は約一・八二メートル(『日本国語大辞典 第二版』小学館)。六十間で一町となるため、三十間と一町の半分は、同じことを述べている。


 石戸破いはとわ手力たぢからもがも(後略)……『万葉集』巻第三に載っている歌から引用した。四一九首目。現代語訳は「岩戸を破る手力も欲しい。わたしはか弱い女なので、王に逢うすべもないことよ」(『万葉集(一)全訳注原文付』講談社文庫)


 コヲロコヲロ……『古事記』に登場する擬声語で、海水をかきまわす音。伊耶那岐命いざなぎのみこと天沼矛あまのぬぼこ。雄略記にも「瑞玉盞みづたまうきに、浮きし脂、落ちなづさひ、みなこをろこをろに」とある。(『古事記注釈 第一巻』ちくま学芸文庫) 本章では、霧のなかをかきまわして剣を生成するオノマトペとして登場させた。


 名乗なのり……自分の姓名・地位・身分などを声高にのべること。内裏では宿直とのい殿上人てんじょうびと蔵人くろうど・滝口などに夜中点呼をおこない、それぞれが名のることを名対面なだいめん宿申とのいもうしなどといった。中世前期の武士のあいだでは、戦闘の直前や最中に、先祖の勲功や自身の出自などを姓名とともに明らかにすることを名乗といった。また通称ではない本名(いみな)をもいう。(『日本史広辞典』山川出版社) 『古事記』において、一言主之ひとことぬしの大神に出会った雄略ゆうりゃく天皇が、その名前がまだ判明していなかった折、「の名をれ」と命令している(『新版 古事記 現代語訳付き』角川ソフィア文庫)。


 南京操なんきんあやつり……人形あやつりの一種で、小さい人形の各部に糸をつけて上より吊り下げ、上部でその糸を操って人形をおどらせる劇。江戸初期から演じ始められた。いとあやつり。南京糸あやつり。なんきん。(『日本国語大辞典 第二版』小学館)
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