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章第三「化物坂、蟷螂坂」

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 いふことかしこき国ぞくれなゐの 色になでそおもひ死ぬとも……『万葉集まんようしゅう』巻第四に載っている歌。六八三首目。現代語訳「人のことばの恐ろしい国です。紅の色のように人目につくようにはしないでください。秘めた思いが苦しくて死ぬようなことがあろうとも」中西進なかにしすすむ・著『万葉集 全訳注原文付(一)』三二八ぺーじより。


 恋しくば……全文「恋しくばたずね来てみよ和泉いずみなる 信太しのだの森のうらみくず」。安倍晴明あべのせいめいの母とされる狐・葛の葉が、正体がばれたあと立ち去り際に残したとされる歌。


 弥次郎兵衛やじろべえ喜多八きたはち……江戸時代後期に活躍した戯作者げさくしゃ十返舎一九じっぺんしゃいっくの代表作『東海道中膝栗毛とうかいどうちゅうひざくりげ』に登場するキャラクター。『東海道中膝栗毛』は、享和きょうわ二(一八〇二)年から文化六(一八〇九)年にかけて出版(初編から八編)された滑稽本こっけいぼん。主人公である弥次郎兵衛と喜多八のふたりが伊勢詣いせもうでを思い立ち、数々の失敗や滑稽を繰り返しながら、東海道を江戸えどからきょう大坂おおさか旅する様子を、狂言や小咄こばなしを交えながら、当時の口語で描き出したもの。


 弥兵衛やへえ清七せいしち……万治二(一六五九)年に、花火の流行を聞いた弥兵衛が、大和国やまとのくに(現在の奈良県)篠原村から出てきた。堺と岡崎に寄り、火薬の知識を得てから、江戸の日本橋にほんばし横山町で「鍵屋かぎや」の看板をあげた。鍵屋六代目のときに清七という腕の立つ番頭がのれん分け(『花火の仕事』池田まき子)、もしくは一八一〇年、七代目のときに職人頭の清七が独立(『花火の図鑑』泉谷玄作)して「玉屋たまや」を作ったとされ、その後、市兵衛いちべえと名乗ったらしい。だが、文献によっては諸説あり、清七の名前が異なっている。その後、火災を起こしてすぐになくなった玉屋ではあるが、「鍵屋」と「玉屋」という屋号は、かけ声として現代人にも親しまれ続けている。


 受持稲荷うけもちいなり神社、穂積ほづみ小学校……架空の神社と小学校。


 猛スピードで駆け寄ってくる黒い牛……元ネタは、戦狐いくさぎつねさんのTwitterより「亡霊牛ぼうれいうし」。戦狐さんも執筆に参加された『日本怪異妖怪事典 東北』にも記載あり。それによると、秋田県八峰町はっぽうちょう峰浜の竹生橋ちくぶばしとポンポコ山の間には、かつて牛の屠殺場があったらしい。そのためなのか、この区間の国道一〇一号線には、真夜中になると亡霊の牛が走るという。屠殺された牛の亡霊だとすれば、稲穂たちを襲ったのも、彩が物忌ものいみに向けてほふっていた牛の……?


 こちらにおわすお方をどなたと心得る! ……時代劇『水戸黄門みとこうもん』の決め台詞ぜりふ。もともと、久保田藩くぼたはん(秋田藩)主である佐竹氏さたけしは、常陸源氏ひたちげんじ嫡流ちゃくりゅうであった。また、秋田県中南部に見られる人形道祖神どうそしん鹿島かしまさまは、水戸徳川家みととくがわけもいた常陸国ひたちのくに(現在の茨城いばらき県)にある、鹿島神宮かしまじんぐうとのつながりが指摘されている。
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