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01.神霊出生の章

No.005「アメノトコタチ」

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 古事記で宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこぢのかみいで生まれたのが、天之常立神あめのとこたちのかみである。
 古事記においては最も重要視される、五柱いる「別天ことあまつ神」最後に名を連ねる神である。
 日本書紀においては、第一段の一書あるふみ第六にのみ、最初に誕生する神として登場する。
(No.004「ウマシアシカビヒコヂ」を参照)


 それまでの神と同様、独神ひとりがみで子供はおらず、すぐに身を隠したと記されている。
 そのため、神話には具体的なエピソードが一切なく、その役割や性格には諸説ある。


 先代旧事本紀せんだいくじほんぎでは、高天原の中心にいる神の一柱である天御中主尊あめのみなかぬしのみことと、アメノトコタチは同一なものとしている(No.001「アメノミナカヌシ」参照)。


 神名の「天」は天神あまつかみが住む高天原たかまのはらを指し、「常」は常に定まっていて変わらない様子を、「立」は「波が立つ」や「泡が立つ」のように、現象や状態が出現するさまを意味していると考えれば、高天原そのものを神格化し、天の恒常性が成立したことを表した神といえる。
 また、「常」を「床」と捉えれば、高天原の地面、つまり天のいしずえが完成したことの象徴と考えることもできる。混沌こんとんとした大地から芽吹く葦のように、ウマシアシカビヒコヂが天を形成したことの象徴なら、アメノトコタチは、そうしてできた天を固定し、安定した状態にすることの象徴という解釈もできる。


 古事記で天之常立神の次に生まれる、大地の形成を象徴する「クニノトコタチ」は古くから信仰されてきたが、それに比べアメノトコタチに対する信仰はほとんどない。
「クニノトコタチ」の対となる存在、もしくは「ウマシアシカビヒコヂ」と「クニノトコタチ」の間をつなぐ存在として、編纂する際に創作された神と考えられる。
 そのため、天神五神(別天つ神)とともに客座神きゃくざしんとして、縁結びで知られる出雲大社いづもおおやしろ(島根県出雲市)に祀られている。
 そのほか、駒形神社(岩手県奥州市)などに祀られているのみで、この神を祀る神社は数少ない。
 しかし、天つ神の中でも特別な「別天つ神」に含まれているほか、先代旧事本紀でも上述のとおり天御中主尊と同一視されているほど、この神は重要なポジションであることに疑いはない。
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