神さま別に読む「古事記」「日本書紀」

モンキー書房

文字の大きさ
上 下
4 / 11
01.神霊出生の章

No.003「カミムスヒ」

しおりを挟む
 古事記において、高御産巣日神たかみむすひのかみいで誕生した三番目の神が、神産巣日神かみむすひのかみである。
 日本書紀では、神皇産霊尊かみむすひのみことと表記している。
 また、造化三神ぞうかさんしん別天ことあまつ神の一柱ひとはしらとされている。
(No.001「アメノミナカヌシ」を参照)


 配偶神のいない独神ひとりがみであり性別もないが、タカミムスヒを男性的な神格であるとするのに対して、カミムスヒは女性的な神格であると考える説もある。
(No.002「タカミムスヒ」を参照)
 また、同じ性格を持つ二柱だが、タカミムスヒが高天原たかまのはら(天)を中心として神話に関わるのとは対照的に、カミムスヒは出雲国いずものくに(地)にまつわる神話に多く登場する。


 殺されたオオクニヌシを蘇生されるために「キサガイヒメ」と「ウムギヒメ」を派遣したり、のちに国づくりを始めたら今度はスクナビコを派遣したり、オオゲツヒメの死体から生えた五穀を取ったりと、記紀神話では裏からサポートする役回りに徹している。


 出雲国風土記ふどきにしか登場しない神々の祖神として、出雲国風土記の至るところにも名前が散見される。
 出雲国風土記での記述は以下のとおり。


 ~~~~~

 生馬郷いくまのさと郡家こほりのみやけの西北一十六里二百九歩。神魂命かむむすひのみこと御子みこ八尋鉾長依日子命やひろほこながよりひこのみことりたまひしく、「が御子、平明やすらかにしていくまず」と詔りたまひき。かれ生馬いくまひき。


 カミムスヒの孫(記紀には見られない)に当たる人物が、とても心が穏やかで怒ることがなかったため、ここを「イクマ」の名前にしたという由来譚が記されてる。

 ~~~~~

 加賀かか神埼かむさきいはや有り。高さ一十丈許つゑばかり。周り五百二歩許あしばかり。東と西と北はかよふ。所謂いはゆる佐太さだ大神おほかみ産出れまししところなり。産出れまさむ時に臨みて、弓箭ゆみやしき。その時、御祖みおや神魂命の御子、枳佐加比賣命きさかひめのみことぎたまひしく、「吾が御子、麻須羅神ますらがみの御子にさば、亡せし弓箭」と願ぎ坐しき。その時、角の弓箭、みづまにまに流れづ。その時、弓を取りて詔りたまひしく、「は、弓箭にあらず」と詔りたまひて、たまふ。またかねの弓箭流れ出ですなはち、待ち取らし坐して、闇鬱くらき窟なるかも」と詔りたまひて、射通いとほし坐しき。御祖支佐加比賣命きさかひめのみことやしろ、此処にいます。今の人、の窟のほとりを行く時に、必ず声磅礚こえとどろかしてく。し密かにかば、神あらはれて、飄風つむじ起り、行く船は必ずくつがへる。


 ここでも名前しか出てこない。カミムスヒの娘であるキサカヒメ(記紀のキサガイヒメか)が、加賀にある岬の洞窟に鎮座し、この洞窟を人々が通る際は必ず、大声を出さなければならぬという。

 ~~~~~

 楯縫たてぬひなづけし所以ゆゑは、神魂命詔りたまひしく、「五十足いそだるあめ日栖ひすみの宮の縦横の御量みはかりは、千尋ちひろ栲紲たくなは持ちて、百八十結ももやそむすびむすげて、此の天の御量持ちて、天の下造したつくらしし大神の宮造みやつくたてまつれ」と詔りたまひて、御子、天御鳥命あめのみとりのみこと楯部たてべて、天下あまくだたまひき。その時、退まかくだ来坐きまして、大神の宮の御装みよそひの楯、造り始め給ひし所、これなり。りて、今に至るまで、楯、ほこ造りて、皇神等すめがみたちに奉りいだす。故、楯縫と云ひき。


 カミムスヒの子(記紀には見られない)を楯部(楯を作ることが役目の身分)として地上へ下ろし、神社の装備として作り始めたのが、この場所なのだという。

 ~~~~~

 漆治郷しつちのさと。郡家の正東五里二百七十歩。神魂命の御子、天津枳比佐可美高日子命あまつきひさかみたかひこのみこと御名みなを、又、薦枕志都治値こもまくらしつちちと云ひき。此の神、さとうちいます。故、志丑治しつちと云ひき。神亀じんき三年、字を漆治とあらたむ。即ち正倉みやけ有り。


 カミムスヒの子(記紀には見られない)の別名がシツチチといい、この神が郷の中に鎮座しているため、この地域をそう呼ぶのだという。

 ~~~~~

 宇賀郷うかのさと。郡家の正北一十七里二十五歩。天下造あめのしたつくらしし大神命おほかみのみこと、神魂命の御子、綾門日女命あやとひめのみことあとらしき。その時、女神うべなはずて逃げかくりし時、大神うかかひ求め給ひし所、此是これこの郷なり。故、宇賀うかと云ひき。


 天下を作った神(大国主神おおくにぬしのかみか)が、カミムスヒの娘(記紀には見られない)に求婚したという。この地域の「ウカ」は、うかがい求めるところから名づけられたそうだ。

 ~~~~~

 朝山郷あさやまのさと。郡家の東南五里五十六歩。神魂命の御子、真玉著玉邑日女命またまつくたまのむらひめのみこといましき。その時、あめ下所造したつくらしし大神、大穴持命おほあなもちのみことひ給ひて、毎朝あさごとに通ひ坐しき。故、朝山あさやまと云ひき。


 カミムスヒの娘(記紀には見られない)がいる場所へ毎朝、天下を作った神・オオアナモチ(大国主神)が通い続けたことから、この地域を「アサヤマ」というらしい。

 ~~~~~

(『風土記(上)現代語訳付き』監修・訳注:中村啓信なかむらひろとし
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

健太と美咲

廣瀬純一
ファンタジー
小学生の健太と美咲の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...