10 / 12
上の上
10
しおりを挟む
洋平は真っ白な靄の中にいた。靄の中からボーっと影が現れたかと思うと、次の瞬間には洋平は赤ん坊を見詰めていた。赤ん坊の後ろにはテレビやソファ、テーブルなどが見え、壁には星を散りばめたかのような模様がある時計も掛かっている。この時計は洋平の家にもある。時計だけではなく、そこにある家具が全て洋平の家のリビングと酷似していた。その真ん中にいる赤ん坊は、じっとこっちを見詰めたまま微動だにしない。
ふと時計を見て、洋平は違和感を覚えた。その違和感の原因はすぐに分かった。時計の数字が反転していて、秒針が左回りに動いている。まるで鏡にでも映っているかのようだ。
次の瞬間に赤ん坊は消え、今度は一組の男女が靄の中から姿を現した。洋平の父親と母親だった。母親は洋平と同じ富士額でいかにも賢そうだが、実際はそうでもなく、どちらかというと天然だった。ちなみに、目尻が上がっているところは父親似。見た目は厳しそうだが、実際も厳しい父親であった。
場所はさっきも見た洋平の家のリビングである。窓から陽光が差し込み、清々しい朝だった。だが洋平の心はとてもそんな気分ではない。母親は心配そうに洋平の方を見詰め、父親は読み耽っていた新聞をたたみ、顔を洋平の方へと向けた。
「やめておけ。どうせ、食っていけないんだから」
父親は、コーヒーを啜った。
また靄が濃くなり、洋平の親は靄に飲み込まれるように消えていった。それと同時に、次は某電気店が現れた。カメラが目の前にある。まるで、あのときのようじゃないか。洋平はお小遣いをはたいて、カメラを買いに行ったことがある。これは、そのときのシーンにそっくりなのである。まるで過去を改めて見ているかのようだ。もしかして、あの赤ん坊も自分だったのだろうか。
これはいわゆる、走馬灯……――?
洋平がその考えに達したとき、不意に目の前が真っ暗になった。まるで床がドライアイスで満たされているかのような、足元から伝わる冷たい空気に一瞬で背筋が凍りつく。なんとも言い難い負の感情を洋平は覚えた。ついさっきまで見ていた走馬灯のような淡く懐かしい暖かな記憶を、一瞬で頭の片隅から破り捨ててしまうほどに。
そして、一瞬、無重力になったかと思うと、どんどん下へと沈んでいくような感覚にとらわれる。錯覚……? いや、誰かに脚を掴まれている感触がある。やっぱり、足元を見るのは怖い。洋平は硬直したまま、身動き一つできない。
どんどん、さらに沈んでいく。何分何時間、はたまた何日経ったのかも分からずに、足首を掴んだ手の持ち主の導くがままに、洋平は身を任せていた。
――そして、気がついたときには、全てが終わっていた。
ふと時計を見て、洋平は違和感を覚えた。その違和感の原因はすぐに分かった。時計の数字が反転していて、秒針が左回りに動いている。まるで鏡にでも映っているかのようだ。
次の瞬間に赤ん坊は消え、今度は一組の男女が靄の中から姿を現した。洋平の父親と母親だった。母親は洋平と同じ富士額でいかにも賢そうだが、実際はそうでもなく、どちらかというと天然だった。ちなみに、目尻が上がっているところは父親似。見た目は厳しそうだが、実際も厳しい父親であった。
場所はさっきも見た洋平の家のリビングである。窓から陽光が差し込み、清々しい朝だった。だが洋平の心はとてもそんな気分ではない。母親は心配そうに洋平の方を見詰め、父親は読み耽っていた新聞をたたみ、顔を洋平の方へと向けた。
「やめておけ。どうせ、食っていけないんだから」
父親は、コーヒーを啜った。
また靄が濃くなり、洋平の親は靄に飲み込まれるように消えていった。それと同時に、次は某電気店が現れた。カメラが目の前にある。まるで、あのときのようじゃないか。洋平はお小遣いをはたいて、カメラを買いに行ったことがある。これは、そのときのシーンにそっくりなのである。まるで過去を改めて見ているかのようだ。もしかして、あの赤ん坊も自分だったのだろうか。
これはいわゆる、走馬灯……――?
洋平がその考えに達したとき、不意に目の前が真っ暗になった。まるで床がドライアイスで満たされているかのような、足元から伝わる冷たい空気に一瞬で背筋が凍りつく。なんとも言い難い負の感情を洋平は覚えた。ついさっきまで見ていた走馬灯のような淡く懐かしい暖かな記憶を、一瞬で頭の片隅から破り捨ててしまうほどに。
そして、一瞬、無重力になったかと思うと、どんどん下へと沈んでいくような感覚にとらわれる。錯覚……? いや、誰かに脚を掴まれている感触がある。やっぱり、足元を見るのは怖い。洋平は硬直したまま、身動き一つできない。
どんどん、さらに沈んでいく。何分何時間、はたまた何日経ったのかも分からずに、足首を掴んだ手の持ち主の導くがままに、洋平は身を任せていた。
――そして、気がついたときには、全てが終わっていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる