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上の上
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思ったよりも遅くなった。洋平は、近道にいつも通らない路地裏に入って行った。そのとき、妙な音が耳につんざくように響いてきて、思わず洋平は立ち止まった。
ガツ、ガツ。
この音はなんだろう。洋平は耳をそばだてて、良く聞こうとした。
ガツ、ガツ。
暗くて良く分からなかったが、目を凝らして見ると、なぜか例の公園まで来ていた。最近通り魔が多く出ると噂される、あの公園だ。そして、さっきまで取材していた柔道部主将が襲われた場所。いつの間にここまで? だとすると、もう既に洋平の家は過ぎている。
洋平はあと戻りしようと踵を返したが、またガツ、ガツ、と音が響いてきて、気になってしょうがなくなった。街灯を頼りに公園の中に足を踏み入れる。見晴らしはいいが、足元は完全に距離感をつかめない。それでも、草をかき分けて歩を進めた。何かが落ちていれば、転倒することは必至だろう。公衆トイレの前まで来たとき、音は止まっていた。辺りを見回すと、なにかの前振れというように、カラスが不気味な鳴き声を発しながら、木々から飛び立っていった。
嫌な予感がして、引き返そうとしたときだ。女子トイレのドアが開いていて、そこから足と思しき細長いものが地面に横たわるように伸びていた。洋平は無意識のうちに駆け寄っていた。
「あ、あの! だ、大丈夫ですか!?」
近づくと、倒れていたのは同い年くらいの女子だった。頭からは大量の血が流れ出ている。気が動転しながらも、ポケットに仕舞っていたケイタイを取り出しながら、一一九番にかけた。
「火事ですか? 救急ですか?」
オペレーターの声が電話口から聞こえてくる。落ち着け。洋平は自分に言い聞かせるように深呼吸した。
「きゅ、救急です……」
そのあと、なにを言ったか覚えていない。とにかく必死だった。電話が切れたときに鳴る不通音が耳の鼓膜を震わせたとき、洋平は地面に膝をついて溜め息を吐いた。早く来てくれ。このままだと、死んでしまうかもしれない。なにせ尋常じゃない出血だから。
救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえる。洋平は、ホッと胸を撫で下ろした。心が落ち着いてくると、洋平はその女子を直に見ることができた。さっきは気づかなかったが、その女子は制服を着ているようだった。しかも、良く見慣れた制服。
誰だったかと顔を覗き込もうとした瞬間、洋平の全身に、一気に周りの気温が低下したかのような寒気が走った。
ヒタ、ヒタ。
また奇妙な音が聞こえたような気がした。でも、さっきとは別の音。
ヒタ、ヒタ。
足音だろうか。恐怖が洋平の全身を包み込んだ。背後に異様な気配を感じ取ったときには、もう既に遅かった。洋平が振り返った瞬間には、棒のようなものがそこまで迫ってきていた。洋平は傍目にそれを捉えることができただけ。一瞬のことで、何が何だか分からないまま、洋平は地面に突っ伏していた。
ガツ、ガツ。
この音はなんだろう。洋平は耳をそばだてて、良く聞こうとした。
ガツ、ガツ。
暗くて良く分からなかったが、目を凝らして見ると、なぜか例の公園まで来ていた。最近通り魔が多く出ると噂される、あの公園だ。そして、さっきまで取材していた柔道部主将が襲われた場所。いつの間にここまで? だとすると、もう既に洋平の家は過ぎている。
洋平はあと戻りしようと踵を返したが、またガツ、ガツ、と音が響いてきて、気になってしょうがなくなった。街灯を頼りに公園の中に足を踏み入れる。見晴らしはいいが、足元は完全に距離感をつかめない。それでも、草をかき分けて歩を進めた。何かが落ちていれば、転倒することは必至だろう。公衆トイレの前まで来たとき、音は止まっていた。辺りを見回すと、なにかの前振れというように、カラスが不気味な鳴き声を発しながら、木々から飛び立っていった。
嫌な予感がして、引き返そうとしたときだ。女子トイレのドアが開いていて、そこから足と思しき細長いものが地面に横たわるように伸びていた。洋平は無意識のうちに駆け寄っていた。
「あ、あの! だ、大丈夫ですか!?」
近づくと、倒れていたのは同い年くらいの女子だった。頭からは大量の血が流れ出ている。気が動転しながらも、ポケットに仕舞っていたケイタイを取り出しながら、一一九番にかけた。
「火事ですか? 救急ですか?」
オペレーターの声が電話口から聞こえてくる。落ち着け。洋平は自分に言い聞かせるように深呼吸した。
「きゅ、救急です……」
そのあと、なにを言ったか覚えていない。とにかく必死だった。電話が切れたときに鳴る不通音が耳の鼓膜を震わせたとき、洋平は地面に膝をついて溜め息を吐いた。早く来てくれ。このままだと、死んでしまうかもしれない。なにせ尋常じゃない出血だから。
救急車のサイレンが近づいてくるのが聞こえる。洋平は、ホッと胸を撫で下ろした。心が落ち着いてくると、洋平はその女子を直に見ることができた。さっきは気づかなかったが、その女子は制服を着ているようだった。しかも、良く見慣れた制服。
誰だったかと顔を覗き込もうとした瞬間、洋平の全身に、一気に周りの気温が低下したかのような寒気が走った。
ヒタ、ヒタ。
また奇妙な音が聞こえたような気がした。でも、さっきとは別の音。
ヒタ、ヒタ。
足音だろうか。恐怖が洋平の全身を包み込んだ。背後に異様な気配を感じ取ったときには、もう既に遅かった。洋平が振り返った瞬間には、棒のようなものがそこまで迫ってきていた。洋平は傍目にそれを捉えることができただけ。一瞬のことで、何が何だか分からないまま、洋平は地面に突っ伏していた。
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