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上の上
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やっぱり断れば良かったと内心思ったところで、そもそもとして断る余地を与えられずに強引に連れて行かれたのだから、後悔する暇も洋平の心の中には持ち合わせていなかった。
病院に向けて歩く道中、洋平たちは公園に差しかかった。中央には時計台があり、ジャングルジムも鉄棒もある、ごく普通の公園。人はといえば、ここ近所の人と思しき五十歳ぐらいの男性が、ベンチに座って開いた新聞を読み耽っているくらいだ。
「ワトソンくん! ここだよ、ここ」
篤志が大声をあげたので、洋平は足を止めると、指さす方へ目を向けた。公園の片隅の誰も使わないだろうと思うほど廃れた、公衆便所独特の汚らしさを出したトイレがそこにはあった。
「なに、ここ?」
篤志が自分の助手かのようにワトソンと呼ぶことに対しては華麗にスルー。
「これから会おうという被害者が通り魔に遭遇した公園だ。そしてあのトイレが現場」
篤志はウキウキした口調でそう告げる。……この野郎、不謹慎にもはしゃいでやがる。仮にも、これから被害者に会おうというのに。
「ワトソンくん、まだ暴行の痕跡が残っているかもしれない。一応写真に収めておくかい?」
「はぁ……」
カメラは一応持ってきている。写真部にとっては命の次に大事なものだから! というわけではなく、ただ単に篤志に引っ張ってこられたときに、そのまま持って来てしまっただけだが。
「男子トイレを? その人って男子?」
「まさか。暴行されたのなら女子だろう?」
いや、聞かなかったことにしよう。「暴行されたのなら」という理屈はわからないし、今の時代、下手したら女性差別と騒がれそうな、無神経な発言を平然とする男だ。
「だとしたら、僕は入れないじゃないか」
「大丈夫だ。こんなトイレ、誰も使っていないし、もし中に誰かいたとしても、それはお前が変態扱いされて警察に捕まるだけで、ことは収まるのだからな」
よくねーよ!
洋平は握ったカメラを篤志目がけて投げつけてやりたかったが、写真部にとっては命の次に大事なカメラを投げるなんてことは出来ない。……というわけではなく、実際問題、部員数の少ない写真部に部費を割いてくれるわけもなく、自分で買ったカメラだから、というのもある。
……高かったんだぞ、このニコン。
病院に向けて歩く道中、洋平たちは公園に差しかかった。中央には時計台があり、ジャングルジムも鉄棒もある、ごく普通の公園。人はといえば、ここ近所の人と思しき五十歳ぐらいの男性が、ベンチに座って開いた新聞を読み耽っているくらいだ。
「ワトソンくん! ここだよ、ここ」
篤志が大声をあげたので、洋平は足を止めると、指さす方へ目を向けた。公園の片隅の誰も使わないだろうと思うほど廃れた、公衆便所独特の汚らしさを出したトイレがそこにはあった。
「なに、ここ?」
篤志が自分の助手かのようにワトソンと呼ぶことに対しては華麗にスルー。
「これから会おうという被害者が通り魔に遭遇した公園だ。そしてあのトイレが現場」
篤志はウキウキした口調でそう告げる。……この野郎、不謹慎にもはしゃいでやがる。仮にも、これから被害者に会おうというのに。
「ワトソンくん、まだ暴行の痕跡が残っているかもしれない。一応写真に収めておくかい?」
「はぁ……」
カメラは一応持ってきている。写真部にとっては命の次に大事なものだから! というわけではなく、ただ単に篤志に引っ張ってこられたときに、そのまま持って来てしまっただけだが。
「男子トイレを? その人って男子?」
「まさか。暴行されたのなら女子だろう?」
いや、聞かなかったことにしよう。「暴行されたのなら」という理屈はわからないし、今の時代、下手したら女性差別と騒がれそうな、無神経な発言を平然とする男だ。
「だとしたら、僕は入れないじゃないか」
「大丈夫だ。こんなトイレ、誰も使っていないし、もし中に誰かいたとしても、それはお前が変態扱いされて警察に捕まるだけで、ことは収まるのだからな」
よくねーよ!
洋平は握ったカメラを篤志目がけて投げつけてやりたかったが、写真部にとっては命の次に大事なカメラを投げるなんてことは出来ない。……というわけではなく、実際問題、部員数の少ない写真部に部費を割いてくれるわけもなく、自分で買ったカメラだから、というのもある。
……高かったんだぞ、このニコン。
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