漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき

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第35話 盗賊団討伐

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ゼノアたちが街を出た頃、ガニマ一家は盗賊団と会談していた。

ガニマは、冒険者2名と、その後にタダンの軍隊が攻めてくると告げた。
盗賊団の首領は用心深く慎重な男だったので、ガニマを胡散臭そうな目で見ていた。
ガニマは、さらに付け加えた。

「俺達は、冒険者の方の金髪の小娘に用がある。どうせ戦うなら協力しようぜ」
「別におまえたちの協力などいらないのだが……」
「戦力は多い方がいいだろう?あんたらの邪魔はしないから」
「もしおかしな真似をしたら、即殺すから覚悟しておけよ」
「ああ、分かったよ」

こうしてガニマ一家と盗賊団は共闘することになった。
暗殺ギルドは、離れたところから隠れて様子を伺っていた。



そこにゼノアとシリルが現れた。
ゼノアとシリルは、盗賊団がいる古い砦の方を見つめていた。

「ワイバーンが砦の上を飛んでいるわね」
「人間と一緒にいるってことは、従魔?」
「ええ、そうね。索敵能力が高いみたい、既に私たちに気づいているわ」
「だから軍が来ても、すぐに逃げられたわけか。どうりで捕まらないはずだ」
「今回は私たち二人だけだから戦いを選択したようね」

シリルは、俄然やる気が出てきた。

「よし!やっちゃおう!」
「盗賊団の首領は、できれば生きて捕まえてね」
「ええ……面倒くさいな……」
「できればでいいから」
「は~い」
「シリルはワイバーンを倒して、私は盗賊団の首領を探すわ」
「了解!いくよ~!」

シリルはワイバーン目がけて飛んでいき、ゼノアは砦の前方の集団の上空に向かった。
矢が雨のように二人に襲い掛かった。
シリルには風の守りがあり矢は全く当たらなかったし、ゼノアは何食わぬ顔で日傘で矢を落としていった。

ワイバーンがシリル目がけて襲いかかり、「グワー」と吠え、羽ばたいた。
風刃がシリルを襲い、それを避けると、強力な風にシリルの突進する勢いが弱まった。

砦の上から網が何本も投げ入れられ、その1本に捕まってしまった。
剣を抜いて網を切ろうとした時、剣を持つ右手、両足、体に紐が巻き付いた。
それは地上の黒装束の男たちが投げたものだった。

「暗殺者! またか!」

ワイバーンの突風でシリルは地面に叩きつけられた。

「しまった!」

そこにガニマ一家15名が一斉に飛びかかってきたが、暗殺ギルド3名が割って入ってきてた。
暗殺者2名がシリルを抑え、暗殺ギルドの首領ザロフが短剣を構えてガニマを睨んだ。

「これは我らが標的、そこで大人しく見ていてもらおう」
「ふざけんな!そいつは俺の獲物だ!」

暗殺者に後れをとったこと、そしてギルドでシリルを罠に嵌めた男だと気づいて、シリルの怒りが暴発した。

「てめぇら、全員殺してやる!」

それに呼応して風の大精霊が風の衝撃波を放った。
シリルを覆っていた網もろとも周りにいた者は吹き飛ばされた。

「シリルが暴走したの? まずいわね。皆殺しは困るわ」

すかさずゼノアは盗賊のアジト全体に威圧を放った。
すべての者が気を失って倒れた。
ワイバーンも気を失って落下したが、しばらくして起き上がり逃げていった。


ゼノアは砦の前方の集団のところに降り立ち、盗賊団の首領らしき人物を探した。

「やっぱり私には人探しは無理ね。面倒だけど、一人ずつ縄でしばっていくしかないか」

そう呟いた時、首をつけた7人の男が突然襲ってきた。

「意識がないのに……「隷属の首輪」で操られているのね」

男たちに囲まれた時「ドレイン」を念じ、男たちは倒れた。
同時に眩しい光にみまわれた。

「キャッ!」

それは聖光玉の光で、ゼノアが苦手だったので、一瞬の隙が生じた。
次の瞬間、体が拘束され動けなくなり、地面に倒れた。

「しまった。『拘束結界』まで用意してるとは思わなかったわ」

目の前に盗賊団の首領が、ゼノアを睨みつけて立っていた。

「ここはもうお終いだな」
「あなた何者?」
「あんたに教える義理はない」

彼は、ゼノアの胸に短剣を突き立て、離れていった。


死んだ振りをしていたゼノアは、彼がいなくなったことを確認して目を開けた。

「はぁ~、参ったわ。シリルが起きるまで待つしかなさそうね」



その頃シリルは目をさまして、よろよろと起き上がった。

「姉さん、ボクにまで威圧するなんて、ひどいよ」

辺りを見回した時、ゾワッと寒気を感じた。
すぐさま意識を集中し剣を構えた。

「暗殺者か!」

前方から4名が襲ってくるのが分かった。
後方に飛び、砦の中に入った。

シリルを追って暗殺者3名が砦の中に入り、その後ガニマが飛び込んだ。
暗殺者3名がシリルに飛びかかった時、上から大男2名が大鎚を振りかざして降ってきた。
シリルと暗殺者たちは共に回避したが、大男2名の衝撃で床が崩れ落ちた。

暗殺者3名、大男2名、そしてガニマも奈落の底に落ちていった。

シリルは風に乗って上昇し、崩壊した床のところまで戻ってきた。
右脚の感覚がなかったので見てみると、短剣が刺さっていて脚全体がどす黒くなっていた。

「くそ!毒と麻痺か」

急いで短剣を抜き、女神の癒しをかけたが、毒と痺れの量が多く、すぐには回復しなかった。
何回も癒しをかけ、ようやく回復したときは、気力がなくなり、そのまま意識を失ってしまった。


ゼノアは、シリルが意識を失ったのを察知して、ため息をついた。

「シリルが目を覚ますのは時間がかかりそうね」

その時遠くから、大勢の人の来る気配がした。
やがて軍隊がやってきた。
指揮官が馬上からゼノアを見下し、ゼノアは笑顔を振りまいた。

「よろしければ、『拘束結界』を外していただけると助かるのですが」

指揮官は、胸を刺されたまま笑顔でいる女に驚いたが、気を取り直して答えた。

「剣聖様も罠には勝てませんでしたか」

明らかに先日の城での意趣返しだった。

「盗賊団を倒してくださったので、外して差し上げますが、我々の邪魔はしないで下さい」
「ええ、分かりました」
「誰か神官を呼んで来い! それと盗賊団を縛り上げたら城へ連れて行け!」

拘束結界を外してもらったゼノアは、シリルを抱いてタダニの街へ帰っていった。




夜になって砦の地下深く落ちた、ガニマは意識を取り戻した。
大男の腹がクッションになり、死なずに済んだのだ。
大男二人は死んでいた。その横に暗殺者の首領ザロフが倒れていて重症のようだった。

「まだ息はあるか、しぶといやつだ。そういう俺は悪運が強いな」

ガニマは周りを見廻したが、出口はなさそうだった。

「くそ、悪運もここまでか」

その時、大男の首輪が目に入った。

「これは『隷属の首輪』か?役に立つかもしれないな」

首輪を取って、暗殺者に嵌めてみた。
そして「従魔の印」を起動するための魔石を取り出した。

「ものは試しだ。使ってみるか」

すると「隷属の首輪」が一瞬光った。

「おお!うまくいったみたいだ」

ガニマが命令した。

「おい、起きろ」
「ううう、はい。ご主人様」

暗殺者が血を吐いて、ぐったりした。

「おっと、まずい。おい、回復薬は持ってないのか?」
「ここにあります」
「よし、それを飲め」
「分かりました」

暗殺者は薬を飲むと、みるみるうちに回復した。

「こいついは良いものが手に入ったぞ。これであの金髪を奴隷にしてやる」

ガニマはにんまりと笑った。
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