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第24話 シリルの修行
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パランテでの騒動を終えた後、ゼノアとシリルは、険しい山々に囲まれた荒涼とした大地に降り立った。
広がるのは乾いた岩と砂、風に巻き上げられる砂塵だけ。
空はどこまでも青く、その美しさとは対照的に、この土地には生命の兆しが見当たらなかった。
まるでこの場所が全ての命を拒んでいるかのようだった。
シリルは周囲を見渡し、眉をひそめながらゼノアに尋ねた。
「ここで修行をするの?」
ゼノアは周りの風景を見渡しながら、冷静な表情で答えた。
「ええ、そうよ。ここなら街に被害が出ないで済むわ」
シリルは内心、パランテでの贅沢な暮らしが頭をよぎっていた。
豪華な部屋、美味しい料理、柔らかなベッド。
そんなものとは正反対の、何もないこの場所に来たことで、どうしても気持ちが沈んでしまう。
ため息をつきながら、シリルは不満げに肩をすくめた。
「服を脱いで」
突然の命令に、シリルは目を大きく開けてゼノアを見た。
「えっ? なんで?」
驚きと混乱が彼の表情に現れ、動揺のあまり声が裏返った。
ゼノアは微笑を浮かべながら淡々と説明した。
「せっかく買った服が台無しになるでしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
シリルは戸惑い、心の準備ができないまま口ごもった。
だがゼノアの眼差しは冷たく鋭く、容赦なかった。
「早くしなさい!」
ビシッと鋭い声が飛び、シリルは渋々服を脱ぎ始めた。
裸になった彼女は恥ずかしそうに自分の体を手で隠し、顔を赤くして下を向いた。
「あら、恥ずかしかったのね」
ゼノアは小さく笑い、同じように自分の服を脱ぎ始めた。
彼女の体は豊かな胸と引き締まった腰、女性的な丸みを帯びた尻と、まさに完璧なスタイルだった。
シリルはそれを見て、自分の体の貧弱さに急激に意気消沈した。
「避けたらダメだからね」
ゼノアの声が響いた。
シリルが「えっ?」と返事をする間もなく、ゼノアの蹴りが彼女の腹に直撃した。
痛みが一気に体中に走り、シリルは激しく後ろに飛ばされ、地面に激突した。
「うう、いきなり何しやがる! ……クソババア」
「クソババアなんて、汚い言葉を使っちゃダメ」
ゼノアが威圧をかけると、シリルは押しつぶされるように地面に伏せた。
全身が重圧に包まれ、動けない。
「ご、ごめんなさい」
ゼノアは回復薬を差し出したが、シリルは首を横に振って断り、女神の癒しを使った。
「女神の癒しを使えるのね。さすがガーランドの孫ね」
ゼノアは感心したように頷き、回復薬をしまった後、シリルの手を引いて立たせた。
「魔力の制御が全然出来ていないわ。ガーランドは教えなかったのかしら?」
「魔法が使えなかったから、剣と弓の訓練しかしていないんだ」
ゼノアは首を傾《かし》げた。
剣士でも攻撃と防御どちらにも魔力を使うから、魔力制御は必要だった。
「……ガーランドは剣士じゃないから……」
「でも、じっちゃんは剣の腕も相当強かったよ」
「でも、勇者や私には剣では勝てなかったわよ」
「そ、そうなんだ」
シリルは改めてゼノアの出鱈目な強さに身震いした。
ゼノアはシリルに説明した。
「魔力を使って防御するのよ」
「どうやってするの?」
「魔力で壁を作るの」
「どうやって?」
「自分の体の中から魔力を動かして……」
「どうやって?」
ゼノアもシリルの困惑した。
「私がやって見せるから。私を殴ってみて」
ゼノアは仁王立ちして、無防備のお腹を出した。
シリルは、ニヤリと笑って、仕返しとばかり、思いっきり殴った。
バキバキッと音がしてシリルの右拳が砕けた。
「ぎゃー、痛い!」
「早く女神の癒しを使いなさい」
涙を流しヒーヒー言いながら、シリルは癒しを使って治療した。
「あなたって、おバカさんね」
ゼノアの言葉にシリルはむっとし、睨み返した。
「どう、分かった?」
「わかんえよ。クソババア!」
ゼノアがシリルの頭を叩いた。
「い、痛ぇ!」
「また、そんな汚い言葉を使って……ダメよ!」
シリルはまだ睨んでいたし、ゼノアはほとほと呆れた。
「私と戦った時は、精霊の力を使っていたのに、何故分からないのかしら?」
「精霊も分からないよ……」
ゼノアもシリル共に頭を抱えた。
シリルは契約した精霊と契約していないため、精霊の力を自分の意思でコントロールできなかった。
シリルの気分次第で発動したりしなかったり、強さもまちまちだった。
彼女に常に付き添っているのは風の大精霊だったが、その存在もシリルにとってはよくわからないものでしかなかった。
エルフは成人して精霊と契約する。
そして精霊と意思疎通を重ねていって、自然と魔法を覚えていくのだった。
ゼノアもエルフの魔法の習得方法を全く知らなかった。
この二人だけでどうにかしようというのは無理な話だった。
それからシリルは殴られ蹴られ、癒しを使って治した。
また殴られ蹴られ、癒しを使うとことを何度も繰り返し、ついには気絶した。
その夜、シリルは静かに荷物をまとめてその場を離れた。
「あのクソババアといたら、本当に殺される」
逃げていく彼女を見てゼノアはため息をついた。
「やり方を変えないとダメね。でもどうしたらいいのかしら……」
シリルは風に乗って、山からどんどん離れていった。
しかし後ろからゼノアの気配が近づいてきた。
「うわ、もう追いついてきた!」
もっと速く、もっと遠くにと必死になった。
その思いに精霊が答えて、どんどん速度が上がった。
「逃げたら、さらにお仕置きよ」
あの言葉が思い出された。それは恐怖を生んで、さらに速度は上がった。
遠ざかっていくシリルを見て、ゼノアは感心した。
シリルは疲れ果て、湖のほとりに降りた。ゼノアの気配はなかったので、うまく捲けたと安堵した。
「やればできるのね」
突然背後から声がして、驚いた。
「う、うそだろ!」
ゼノアがいつの間にか立っていて、シリルはヘナヘナと腰を落として座り込んだ。
「ご、ごめんなさい……ゆ、許して……」
シリルは冷や汗を流したが、ゼノアは優しく彼女の頭を撫でた。
「お仕置きはしないから、安心して。それに明日からはやり方を変えるから」
シリルは安堵でどっと疲れがでて、そのまま倒れて寝てしまった。
翌日からの特訓は、逃げ回るだけの訓練だった。
ゼノアが追いかけ、シリルが飛んで逃げ回る。
しかしシリルはすぐに捕まった。
何度やっても同じだった。
「昨日はあんなに速かったのに。今日は全然できてないわ」
「そんな事言われても……分かんないよ」
夕方になると街の宿に戻った。夕食を済ませ二人でお風呂に入った。
「もっと自分の内側の力、魔力を感じてみて」
「それが分からないよ」
「今すぐ分からなくていいから、内側に意識を集中して感じるのよ」
「わかった。やってみる」
朝日が昇る前に訓練場所へ飛んでいき、鬼ごっこをして、夕方宿に戻る生活を繰り返した。
1年過ぎた頃、シリルは自分の中の魔力の流れを感じることができるようになった。
「姉ちゃん、そろそろ魔物を狩りたい」
「そうね。冒険者ギルドで依頼を見てみましょうか」
「やったー!」
シリルが訓練に飽きていることは、前々から分かっていたから、たまにはいいかと考えた。
広がるのは乾いた岩と砂、風に巻き上げられる砂塵だけ。
空はどこまでも青く、その美しさとは対照的に、この土地には生命の兆しが見当たらなかった。
まるでこの場所が全ての命を拒んでいるかのようだった。
シリルは周囲を見渡し、眉をひそめながらゼノアに尋ねた。
「ここで修行をするの?」
ゼノアは周りの風景を見渡しながら、冷静な表情で答えた。
「ええ、そうよ。ここなら街に被害が出ないで済むわ」
シリルは内心、パランテでの贅沢な暮らしが頭をよぎっていた。
豪華な部屋、美味しい料理、柔らかなベッド。
そんなものとは正反対の、何もないこの場所に来たことで、どうしても気持ちが沈んでしまう。
ため息をつきながら、シリルは不満げに肩をすくめた。
「服を脱いで」
突然の命令に、シリルは目を大きく開けてゼノアを見た。
「えっ? なんで?」
驚きと混乱が彼の表情に現れ、動揺のあまり声が裏返った。
ゼノアは微笑を浮かべながら淡々と説明した。
「せっかく買った服が台無しになるでしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
シリルは戸惑い、心の準備ができないまま口ごもった。
だがゼノアの眼差しは冷たく鋭く、容赦なかった。
「早くしなさい!」
ビシッと鋭い声が飛び、シリルは渋々服を脱ぎ始めた。
裸になった彼女は恥ずかしそうに自分の体を手で隠し、顔を赤くして下を向いた。
「あら、恥ずかしかったのね」
ゼノアは小さく笑い、同じように自分の服を脱ぎ始めた。
彼女の体は豊かな胸と引き締まった腰、女性的な丸みを帯びた尻と、まさに完璧なスタイルだった。
シリルはそれを見て、自分の体の貧弱さに急激に意気消沈した。
「避けたらダメだからね」
ゼノアの声が響いた。
シリルが「えっ?」と返事をする間もなく、ゼノアの蹴りが彼女の腹に直撃した。
痛みが一気に体中に走り、シリルは激しく後ろに飛ばされ、地面に激突した。
「うう、いきなり何しやがる! ……クソババア」
「クソババアなんて、汚い言葉を使っちゃダメ」
ゼノアが威圧をかけると、シリルは押しつぶされるように地面に伏せた。
全身が重圧に包まれ、動けない。
「ご、ごめんなさい」
ゼノアは回復薬を差し出したが、シリルは首を横に振って断り、女神の癒しを使った。
「女神の癒しを使えるのね。さすがガーランドの孫ね」
ゼノアは感心したように頷き、回復薬をしまった後、シリルの手を引いて立たせた。
「魔力の制御が全然出来ていないわ。ガーランドは教えなかったのかしら?」
「魔法が使えなかったから、剣と弓の訓練しかしていないんだ」
ゼノアは首を傾《かし》げた。
剣士でも攻撃と防御どちらにも魔力を使うから、魔力制御は必要だった。
「……ガーランドは剣士じゃないから……」
「でも、じっちゃんは剣の腕も相当強かったよ」
「でも、勇者や私には剣では勝てなかったわよ」
「そ、そうなんだ」
シリルは改めてゼノアの出鱈目な強さに身震いした。
ゼノアはシリルに説明した。
「魔力を使って防御するのよ」
「どうやってするの?」
「魔力で壁を作るの」
「どうやって?」
「自分の体の中から魔力を動かして……」
「どうやって?」
ゼノアもシリルの困惑した。
「私がやって見せるから。私を殴ってみて」
ゼノアは仁王立ちして、無防備のお腹を出した。
シリルは、ニヤリと笑って、仕返しとばかり、思いっきり殴った。
バキバキッと音がしてシリルの右拳が砕けた。
「ぎゃー、痛い!」
「早く女神の癒しを使いなさい」
涙を流しヒーヒー言いながら、シリルは癒しを使って治療した。
「あなたって、おバカさんね」
ゼノアの言葉にシリルはむっとし、睨み返した。
「どう、分かった?」
「わかんえよ。クソババア!」
ゼノアがシリルの頭を叩いた。
「い、痛ぇ!」
「また、そんな汚い言葉を使って……ダメよ!」
シリルはまだ睨んでいたし、ゼノアはほとほと呆れた。
「私と戦った時は、精霊の力を使っていたのに、何故分からないのかしら?」
「精霊も分からないよ……」
ゼノアもシリル共に頭を抱えた。
シリルは契約した精霊と契約していないため、精霊の力を自分の意思でコントロールできなかった。
シリルの気分次第で発動したりしなかったり、強さもまちまちだった。
彼女に常に付き添っているのは風の大精霊だったが、その存在もシリルにとってはよくわからないものでしかなかった。
エルフは成人して精霊と契約する。
そして精霊と意思疎通を重ねていって、自然と魔法を覚えていくのだった。
ゼノアもエルフの魔法の習得方法を全く知らなかった。
この二人だけでどうにかしようというのは無理な話だった。
それからシリルは殴られ蹴られ、癒しを使って治した。
また殴られ蹴られ、癒しを使うとことを何度も繰り返し、ついには気絶した。
その夜、シリルは静かに荷物をまとめてその場を離れた。
「あのクソババアといたら、本当に殺される」
逃げていく彼女を見てゼノアはため息をついた。
「やり方を変えないとダメね。でもどうしたらいいのかしら……」
シリルは風に乗って、山からどんどん離れていった。
しかし後ろからゼノアの気配が近づいてきた。
「うわ、もう追いついてきた!」
もっと速く、もっと遠くにと必死になった。
その思いに精霊が答えて、どんどん速度が上がった。
「逃げたら、さらにお仕置きよ」
あの言葉が思い出された。それは恐怖を生んで、さらに速度は上がった。
遠ざかっていくシリルを見て、ゼノアは感心した。
シリルは疲れ果て、湖のほとりに降りた。ゼノアの気配はなかったので、うまく捲けたと安堵した。
「やればできるのね」
突然背後から声がして、驚いた。
「う、うそだろ!」
ゼノアがいつの間にか立っていて、シリルはヘナヘナと腰を落として座り込んだ。
「ご、ごめんなさい……ゆ、許して……」
シリルは冷や汗を流したが、ゼノアは優しく彼女の頭を撫でた。
「お仕置きはしないから、安心して。それに明日からはやり方を変えるから」
シリルは安堵でどっと疲れがでて、そのまま倒れて寝てしまった。
翌日からの特訓は、逃げ回るだけの訓練だった。
ゼノアが追いかけ、シリルが飛んで逃げ回る。
しかしシリルはすぐに捕まった。
何度やっても同じだった。
「昨日はあんなに速かったのに。今日は全然できてないわ」
「そんな事言われても……分かんないよ」
夕方になると街の宿に戻った。夕食を済ませ二人でお風呂に入った。
「もっと自分の内側の力、魔力を感じてみて」
「それが分からないよ」
「今すぐ分からなくていいから、内側に意識を集中して感じるのよ」
「わかった。やってみる」
朝日が昇る前に訓練場所へ飛んでいき、鬼ごっこをして、夕方宿に戻る生活を繰り返した。
1年過ぎた頃、シリルは自分の中の魔力の流れを感じることができるようになった。
「姉ちゃん、そろそろ魔物を狩りたい」
「そうね。冒険者ギルドで依頼を見てみましょうか」
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