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第3章
第21話 邂逅2
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「はじめまして、ガーランドのお孫ちゃん。私はゼノア、よろしくね」
柔らかな声が耳に届き、シリルはその声の主に視線を向けた。
そこには、さっきまで死闘を繰り広げた女性――ゼノアが座っていた。
ゼノアは微笑みながらシリルの頭を撫でており、その手は驚くほど優しかった。
シリルは反射的に起き上がろうとしたが、足に力が入らず、再びその場に座り込んだ。
身体が鉛のように重く、魔力が完全には回復していないことを実感した。
ゼノアが優しく尋ねる。
「あなたのお名前は?」
「……シリル」
シリルは混乱したまま答えた。
その名前をゼノアはまるで宝物のように繰り返した。
「シリル……可愛いい名前ね」
シリルは顔を顰《しか》め困惑した。
どうしてこの状況でそんなことを言うのか理解できない。
彼女は明らかに敵だ――それなのに、なぜ殺されずにいるのか。
戦いの最中、この女には敵意というものが感じられなかった。
『何なんだ、こいつ……』
シリルは心の中でそう呟《つぶや》いたが、口には出さなかった。
「ねえ、ガーランドはどうしてる?」
突然の質問に、シリルの胸が痛んだ。
彼女の表情が曇り、言葉が重く響く。
「おまえら魔人に殺された」
彼女は短く吐き捨てるように言った。
ゼノアの顔から、次第に笑みが消えていった。
静寂が訪れ、ゼノアの瞳に一粒の涙が浮かび、ゆっくりと頬を伝って落ちた。
それを見たシリルは、一瞬、驚きの表情を浮かべた。
「えっ?」
シリルが戸惑う間もなく、ゼノアの目から次々に涙が流れ出した。
その顔は悲しみで歪み、まるで堤が決壊するかのように泣き始めた。
「ガーランド、ああ、ガーランド……もう一度会いたかった……」
ゼノアは声を上げて泣き出した。
美女が顔をぐちゃぐちゃにし、鼻水を垂らしながら大泣きする姿に、シリルはただ面食らうしかなかった。
何が起きているのか理解できない――どうするべきなのか、どう反応するべきなのかが分からず、ただオロオロとするばかりだった。
だが、その姿に心がつられてしまい、彼女も気づいたら涙をこぼしていた。
「ガーランド」「じっちゃん」
やがて二人は互いに泣きながら抱き合った。
しばらくして、涙が枯れた二人はようやく気持ちが落ち着き、顔を上げてお互いの手を離した。
ゼノアは気まずそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。みっともなかったわね」
「べ、べつに……」
二人は見つめ合っていた。
お互いに言葉を超えた絆のようなものを感じていた。
シリルがようやく口を開いた。
「じっちゃんの知り合いなの?」
「ええ、ずっと昔、あなたが生まれるずっと前」
その言葉には懐かしさと痛みが混ざり合っていた。
ゼノアは手を差し出し、握手を求めた。
「わたしはゼノア。これからよろしくね」
シリルは戸惑いながらもその手を取った。
「ボクはシリル。そ、その……いきなり襲いかかって……ごめんなさい」
「ふふ、別に気にしてないわ。分かり合えたんですもの」
ゼノアは満面の笑みを浮かべていたが、シリルは腑に落ちないものの笑みを浮かべた。
『分かり合えた? 魔人……だよね?いいのかな?……』
シリルは頭の中で自問自答を繰り返していた。
しかし、ゼノアの強大な力を目の当たりにし、今の自分には逆らえないという現実も理解していた。
ゼノアは首都パランテの方角を見つめ、表情を引き締めた。
「パランテへ戻りましょう。やらなけばいけない事ができてしまったの」
「はい。ゼノア……ゼノアさん」
「あら、ゼノアでいいわよ。でもよければゼノアお姉ちゃんって呼んでくれと嬉しいかな」
「は、はい。ゼノア……お姉さん」
「服がボロボロで人様に見せられないわね。まずは服を買いにいきましょう」
「服? いいよ、これで」
「良くないわよ。女性は身だしなみが大切よ」
そう言ってゼノアはシリルの手を取って飛んで行った。
降りた場所はパランテの高級服店だった。
ゼノアは店員にシリルを押しつけた。
「この子に合う服をお願いします。急いでいるの、すぐ着たいので既製品で構いません」
店員はシリルを奥の部屋に連れていき、ささっと着替えさせた。
「こちらが最新の流行のものです」
「まあ、可愛い。それでいいわ」
「やだ! これじゃ戦いの邪魔……」
店員は面食らって驚いた。
「た、戦いですか?……」
「仕方ないわね。乗馬で使えそうな男の子向けの、できるだけ可愛いのを」
「は、はい。畏《かしこ》まりました」
店員は言われるまま、あたふたし服を選らんだ。
「い、いかがでしょうか?」
「シリルちゃん、それならどう?」
「ええ、う、うん。いいと思う……」
「もっと可愛らしくしたかったけど。まあいいわ。これを貰うわ」
ゼノアはさっさと支払いを済ませ店を出た。
「ゼノア姉さん、ボク、みんなの所に戻らないといけないんだ」
「なら、私も行くわ。挨拶したいから」
「いや、それはちょと不味いかも……」
シリルに連れられてたどり着いた場所は、教会本部だった。
教会の荘厳な建物を見て、ゼノアは表情を険しくした。
「確かにまずいわね……私は入らない方が良さそう」
「え~っと……どうしよう……」
「私は冒険者ギルドにいるから、終わったら来てちょうだい」
「分かった」
ゼノアは冒険者ギルドへ向かい、シリルは教会の中へと入っていた。
柔らかな声が耳に届き、シリルはその声の主に視線を向けた。
そこには、さっきまで死闘を繰り広げた女性――ゼノアが座っていた。
ゼノアは微笑みながらシリルの頭を撫でており、その手は驚くほど優しかった。
シリルは反射的に起き上がろうとしたが、足に力が入らず、再びその場に座り込んだ。
身体が鉛のように重く、魔力が完全には回復していないことを実感した。
ゼノアが優しく尋ねる。
「あなたのお名前は?」
「……シリル」
シリルは混乱したまま答えた。
その名前をゼノアはまるで宝物のように繰り返した。
「シリル……可愛いい名前ね」
シリルは顔を顰《しか》め困惑した。
どうしてこの状況でそんなことを言うのか理解できない。
彼女は明らかに敵だ――それなのに、なぜ殺されずにいるのか。
戦いの最中、この女には敵意というものが感じられなかった。
『何なんだ、こいつ……』
シリルは心の中でそう呟《つぶや》いたが、口には出さなかった。
「ねえ、ガーランドはどうしてる?」
突然の質問に、シリルの胸が痛んだ。
彼女の表情が曇り、言葉が重く響く。
「おまえら魔人に殺された」
彼女は短く吐き捨てるように言った。
ゼノアの顔から、次第に笑みが消えていった。
静寂が訪れ、ゼノアの瞳に一粒の涙が浮かび、ゆっくりと頬を伝って落ちた。
それを見たシリルは、一瞬、驚きの表情を浮かべた。
「えっ?」
シリルが戸惑う間もなく、ゼノアの目から次々に涙が流れ出した。
その顔は悲しみで歪み、まるで堤が決壊するかのように泣き始めた。
「ガーランド、ああ、ガーランド……もう一度会いたかった……」
ゼノアは声を上げて泣き出した。
美女が顔をぐちゃぐちゃにし、鼻水を垂らしながら大泣きする姿に、シリルはただ面食らうしかなかった。
何が起きているのか理解できない――どうするべきなのか、どう反応するべきなのかが分からず、ただオロオロとするばかりだった。
だが、その姿に心がつられてしまい、彼女も気づいたら涙をこぼしていた。
「ガーランド」「じっちゃん」
やがて二人は互いに泣きながら抱き合った。
しばらくして、涙が枯れた二人はようやく気持ちが落ち着き、顔を上げてお互いの手を離した。
ゼノアは気まずそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。みっともなかったわね」
「べ、べつに……」
二人は見つめ合っていた。
お互いに言葉を超えた絆のようなものを感じていた。
シリルがようやく口を開いた。
「じっちゃんの知り合いなの?」
「ええ、ずっと昔、あなたが生まれるずっと前」
その言葉には懐かしさと痛みが混ざり合っていた。
ゼノアは手を差し出し、握手を求めた。
「わたしはゼノア。これからよろしくね」
シリルは戸惑いながらもその手を取った。
「ボクはシリル。そ、その……いきなり襲いかかって……ごめんなさい」
「ふふ、別に気にしてないわ。分かり合えたんですもの」
ゼノアは満面の笑みを浮かべていたが、シリルは腑に落ちないものの笑みを浮かべた。
『分かり合えた? 魔人……だよね?いいのかな?……』
シリルは頭の中で自問自答を繰り返していた。
しかし、ゼノアの強大な力を目の当たりにし、今の自分には逆らえないという現実も理解していた。
ゼノアは首都パランテの方角を見つめ、表情を引き締めた。
「パランテへ戻りましょう。やらなけばいけない事ができてしまったの」
「はい。ゼノア……ゼノアさん」
「あら、ゼノアでいいわよ。でもよければゼノアお姉ちゃんって呼んでくれと嬉しいかな」
「は、はい。ゼノア……お姉さん」
「服がボロボロで人様に見せられないわね。まずは服を買いにいきましょう」
「服? いいよ、これで」
「良くないわよ。女性は身だしなみが大切よ」
そう言ってゼノアはシリルの手を取って飛んで行った。
降りた場所はパランテの高級服店だった。
ゼノアは店員にシリルを押しつけた。
「この子に合う服をお願いします。急いでいるの、すぐ着たいので既製品で構いません」
店員はシリルを奥の部屋に連れていき、ささっと着替えさせた。
「こちらが最新の流行のものです」
「まあ、可愛い。それでいいわ」
「やだ! これじゃ戦いの邪魔……」
店員は面食らって驚いた。
「た、戦いですか?……」
「仕方ないわね。乗馬で使えそうな男の子向けの、できるだけ可愛いのを」
「は、はい。畏《かしこ》まりました」
店員は言われるまま、あたふたし服を選らんだ。
「い、いかがでしょうか?」
「シリルちゃん、それならどう?」
「ええ、う、うん。いいと思う……」
「もっと可愛らしくしたかったけど。まあいいわ。これを貰うわ」
ゼノアはさっさと支払いを済ませ店を出た。
「ゼノア姉さん、ボク、みんなの所に戻らないといけないんだ」
「なら、私も行くわ。挨拶したいから」
「いや、それはちょと不味いかも……」
シリルに連れられてたどり着いた場所は、教会本部だった。
教会の荘厳な建物を見て、ゼノアは表情を険しくした。
「確かにまずいわね……私は入らない方が良さそう」
「え~っと……どうしよう……」
「私は冒険者ギルドにいるから、終わったら来てちょうだい」
「分かった」
ゼノアは冒険者ギルドへ向かい、シリルは教会の中へと入っていた。
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