迷宮(ダンジョン)革命

あきとあき

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25.鳥と肉

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朝早く、アキラ、目黒、横浜組がごみ捨て場に来ていた。ごみ捨て場には、たくさんのカラスが集まっていた。

「ほんとうに、やっちゃっていいんですか?火事になりますよ」
アキラは目黒をチラッと見た。

「ああ、構わん。水魔法ですぐ消せるだろう?」
「そりゃあ、そうですけど」

アキラたちは、カラスを捕まえに来ていた。肉がなくなったので、ハト、カラス、スズメに罠をしかけたり、銃で撃ったりしていたが、さすがに効率が悪かった。それに弾がもったいなかった。先日雷魔法を見た目黒が、これだ!と思ったのだ。

「じゃあ、やりますね」
アキラは魔石を持って、雷魔法サンダーを撃った。

バリ、バリ、バリ、辺り一面に雷が落ち、カラスがその場でひっくり返ったり、飛んでいるカラスが落ちてきた。ごみにも当り、一部火がついた。

アキラは急いでウォーターボールを撃って鎮火した。

「やったー!」「ナイス!」
横浜組が駆け寄り、十二羽のカラスを回収していった。

「よし、これで今日は肉が食える。良かった。明日も頼むよ」
目黒は笑顔でアキラの肩を叩いて、去っていった。

アキラが部屋に戻ると、マリは起きていて、睨んで立っていた。

「どこ行ってたの?」
「目黒さんたちと、ちょっと…」
「怪しい。正直に言いなさいよ!」

マリが詰め寄り、アキラはたじたじになった。それで、先ほどのカラスの件を正直に話した。

食堂で朝食を食べていると、朝比奈がやってきた。
「マリちゃん、食欲がないの?大丈夫?」

マリはカラスの件を知って、食欲がなかった。

「朝比奈さんは知ってました?このお肉がカラスのだって」
「ええ、もちろんよ。焼き鳥と同じと思えばいいのよ!実際食べてみて同じでしょ」

朝比奈がけろっとした顔で食べるのを見て、マリは驚いた。

「食べてるだけだと分からないけど、捕まえている人は結構大変なの。感謝しなくちゃ」
「そうなんですね。わかりました」

マリは思いつめたような顔をして、少しづつ食べはじめた。

「ニワトリとか豚を捕まえて、飼育しようとかしないんですか?」
アキラが朝比奈に尋ねた。

「豚と牛は餌がないから無理ね。ニワトリは捕獲しようという話はあるの」
「そうなんですか」

アキラが思案し始めたのを見て、マリが嫌そうな顔をした。

「わ、私はいかないからね」
「いや、別に頼んでないから」
「アキラのバカ、いじわる!」

マリはアキラの頬をつねった。
「いてて、お肌が傷つくから止めて!」
アキラがぷいっと怒った。

「かわいい」「ちょっと痛そうだけどいいなー」「青春だな」
横浜組の声がした。

マリがきっと睨みつけた。

「あらあら、ごちそうさま」
朝比奈はそう言って去っていった。横浜組もいっしょに出ていった。

それからアキラとマリは、貯水槽に水貯めたあと、広場にやってきた。

アキラが缶詰の空き缶を瓦礫の上に置いた。マリとの距離は二十メートルくらい。

「マリ、石を投げて空き缶に当ててみて」

マリは嫌そうな顔をした。
「鳥を殺す練習なんて嫌よ」

「違うよ。鳥はオレの雷魔法で簡単に捕獲できるから。ただ素手以外にも身を守る手段があった方がいいと思ってさ」

アキラは笑顔で缶を指さした。

「うーん、確かにそうなんだけど、何かうまく乗せられてる気がするわ」

マリが小石を投げたが、見当違いの方に飛んで行った。

「コントロールがまるっきしダメだね」
「言ったわね!見てなさい!」

アキラが笑うとマリはむきになった。

十発投げてもかすりともしなかった。二十発目にようやく当たった。

「まぐれじゃね?」
アキラがニヤリと笑うと、マリは悔しくなって、さらに投げ続けた。その頃には周りに人が集まってきた。

三十発を過ぎると、二発に一発は当たるようになった。周りから拍手が起きる。マリは得意げになった。フォームも様になってきていて、スピードはプロ野球の投手より速かった。五十発をすぎると百発百中になっていた。目黒や田所も観に来ていた。

「マリ、じゃあ最期に、思いっきり投げてみて」
「いいわよ、見てなさい!」

そう言ってマリはお腹に意識を集中して身体強化を始めた。そして力一杯投げた。

腕を振ったときブンと風を切る音がした。次の瞬間ズバーンと大きな音がして瓦礫が割れた。当然空き缶は粉々になってしまっていた。

みんな唖然とした。当然目黒も田所も。
「すごい」「銃を超えた」「人間兵器だ」

静まり返った反応に、マリは涙目になった。

「だから、嫌だったのに!アキラのバカ!」
マリは走り去っていった。

「本日は、これでお終いです」
アキラは一礼してマリを追った。パチパチパチと拍手が鳴った。

「ますます人間離れしてるな」
目黒がつぶやくと、田所もうなづいていた。

昼食のとき、アキラから目黒に話しかけた。

「ニワトリを捕まえに行こうと考えてるんですけど」
「なら明日いくか?五キロメートル程離れたところに養鶏場があったから、そこならたくさんいると思う」

「いえ、オレとマリで行くつもりです。目黒さんは、ニワトリを飼う場所と餌をお願いします。」
「なるほど、飛んでいけばすぐか。二人なら俺たちより強いし問題ないな。ならお願いするよ」

夜、「卵がいつも食べられるようになるし、鳥肉も増えるから」とマリを説得した。

翌日、ニワトリを入れるための大きな袋を持ってアキラとマリは飛び立った。

「アキラ、あそこが養鶏場かしら、ニワトリがいっぱいいるわ」
「みたいだね。じゃあ降りるよ」

二人は壊れた養鶏場に降り立った。
「マリ、捕まえてくれる?」
「はい、はい、分かったわ」

そう言って、マリは素早く走っていった。マリのスピードに、ニワトリはなす術もなく簡単に捕らえられた。一羽、二羽と次々に捕えては袋の中に放り込んだ。十五羽で袋が一杯になったので、戻ることにした。

「これで卵が毎日食べられるね」
「ふふ、私に感謝してね」
「それ言ったら、オレもじゃね?」

二人は笑って、目黒を目指して飛んで行った。

こうして目黒の食糧事情は少しづつ改善されていったのだった。
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